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ロシア軍の滑空誘導爆弾キットUMPK-1500(1.5トン爆弾用)の不発弾から構造を推定

JSF軍事/生き物ライター
ウクライナ国家非常事態庁よりロシア軍のUMPK-1500の尾部

 3月16日、ウクライナ国家非常事態庁はドネツク州セリドヴェで、ロシア軍が投下したUMPK滑空誘導キットを装着したFAB-1500大型航空爆弾(1.5トン)の不発弾を回収して処理しました。UMPK-1500(1.5トン爆弾用)は既にロシア側で公開済みですが、ウクライナ側で現物を回収し公開されたのはこれが初になります。

ДСНС України

 大型航空爆弾FAB-1500M54(ФАБ-1500М54)はほぼそのまま原形を留めていますが、装着されていたUMPK滑空誘導キットはバラバラの残骸になっています。巨大な1.5トン爆弾用のUMPK-1500は、通常サイズの爆弾(250~500kg)用のUMPKと比べて大きく構造が異なっており、残骸からその特徴を確認できます。

UMPK-1500滑空誘導キットの尾翼の回転軸の基部

ウクライナ国家非常事態庁よりロシア軍のUMPK-1500+FAB-1500M54航空爆弾
ウクライナ国家非常事態庁よりロシア軍のUMPK-1500+FAB-1500M54航空爆弾

ウクライナ国家非常事態庁よりロシア軍のUMPK-1500の尾部
ウクライナ国家非常事態庁よりロシア軍のUMPK-1500の尾部

 FAB-1500M54大型航空爆弾に装着されて後方に伸びている銀色の金属部品は、UMPK-1500滑空誘導キットの尾部ユニットの残骸です。尾翼は吹き飛んで残っていませんが丸い回転軸の基部が見えており、V字状の尾翼(水平尾翼と垂直尾翼を兼ねる)が全遊動式で動く構造であることが分かります。

ウクライナ国家非常事態庁よりロシア軍のUMPK-1500+FAB-1500M54航空爆弾
ウクライナ国家非常事態庁よりロシア軍のUMPK-1500+FAB-1500M54航空爆弾

ウクライナ国家非常事態庁よりロシア軍のUMPK-1500の尾部
ウクライナ国家非常事態庁よりロシア軍のUMPK-1500の尾部

 UMPK-1500は2024年1月にロシア軍広報テレビ「ズヴェズダ」で公開済みで、この時に一部の構造が判明していました。通常サイズのUMPKは動翼が尾翼(水平)だけなのですが、UMPK-1500は動翼として主翼にエルロン(補助翼)が付いているのが確認されています。 

 また大型航空爆弾FAB-1500M54の先端には空気抵抗低減用のフェアリングとして風帽が装着されています。

2024年1月ロシア軍広報TVズヴェズダ公開UMPK-1500

ロシア軍広報テレビ「ズヴェズダ」よりUMPK-1500。赤枠内はエルロン(補助翼)
ロシア軍広報テレビ「ズヴェズダ」よりUMPK-1500。赤枠内はエルロン(補助翼)

※赤枠内はエルロン(補助翼)

ロシア軍広報テレビ「ズヴェズダ」よりUMPK-1500。赤枠内はエルロン(補助翼)
ロシア軍広報テレビ「ズヴェズダ」よりUMPK-1500。赤枠内はエルロン(補助翼)

 そしてV字状の尾翼の上部先端にはカウンターウェイト(つり合い錘)が装着されており、この点からV字尾翼は動翼(ラダーとエレベーター)であると推測していました。これがウクライナ側での残骸の回収で尾翼の基部を確認したことで、答え合わせとなっています。

ロシア軍広報テレビ「ズヴェズダ」よりUMPK-1500
ロシア軍広報テレビ「ズヴェズダ」よりUMPK-1500

※赤枠内はカウンターウェイト(推定)

ロシア軍広報テレビ「ズヴェズダ」よりUMPK-1500(尾翼拡大)
ロシア軍広報テレビ「ズヴェズダ」よりUMPK-1500(尾翼拡大)

 推定になりますが、UMPK-1500は装着する航空爆弾が1.5トンとあまりに巨大で重いので、通常のUMPKのような尾翼の動翼だけの構造では空力制御が困難であり、主翼の先端付近のエルロン(補助翼)でロール(横転)を担当させないと満足に機体が傾いてくれなかったのだろうと思われます。機体が傾くと旋回していきます。

 なお滑空誘導爆弾の中には主翼の動翼だけで全ての制御を行うものもあるのですが(韓国のKGGB滑空誘導爆弾など)、UMPK-1500では主翼と尾翼の両方に動翼を装着しています。動翼が増えるということは制御が複雑になり部品点数が増えて製造コストが増えることを意味します。それでも重量があまりにも重い1.5トン爆弾を制御するためには仕方がなかったのでしょう。

各国の滑空誘導爆弾の動翼

  • (露)通常型UMPK:水平尾翼(全遊動式)、動翼2枚
  • (露)UMPK-1500:主翼(エルロン)+V字尾翼(全遊動式)、動翼4枚
  • (米)JDAM-ER:X字尾翼(全遊動式)、動翼4枚
  • (韓)KGGB:主翼(フラッペロン)、動翼2枚

UMPK-1500(推定図)

 UMPK滑空誘導キット付き航空爆弾は上下逆さまの状態で戦闘機に装着して、投下後に弾体をロール(横転)させて上下を戻して、主翼を展開し滑空していきます。投下後に機首上げ姿勢(プルアップ)を取って一旦浮き上がり、その後は滑空しながら飛距離を稼いで飛んで行きます。

  • 通常型UMPK:投下→ロールして上下反転→主翼展開→滑空開始
  • UMPK-1500:投下→主翼展開→ロールして上下反転→滑空開始

※通常型UMPKの手順は実戦使用動画からの確認、UMPK-1500は推定で、構造上、主翼を展開しないとロール用のエルロンが使えないため。

УМПК : Унифицированный Модуль Планирования и Коррекции

※直訳すると「統一されたモジュール、滑空および修正」

 UMPKとはロシア語のキリル文字のУМПКをラテン転写したものです。UMPKは滑空誘導キットとしては非常に簡素な作りで、ユニット構造の断面は四角形で空力的な洗練性は無く、主翼や尾翼は直線翼で翼端を塞ぐ処理すらしておらず、塗装も施さず金属の地金そのままです。徹底的に製造の簡易性を追求しており、滑空性能や耐久性能を引き換えにして、低コストで量産性を高めた戦時量産兵器です。

 UMPK-1500は通常のUMPKよりもやや製造の手間が掛かる仕様ですが、巨大な1.5トン爆弾は保有数が通常サイズの爆弾(250~500kg)よりも少ないので、専用の滑空誘導キットの量産性がやや落ちていても問題にならないでしょう。

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軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人戦闘兵器、オスプレイなど、ニュースに良く出る最新の軍事的なテーマに付いて解説を行っています。

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