Yahoo!ニュース

北朝鮮が新型固体燃料ICBM「火星18」2回目の発射試験、今回は時間遅延分離始動を実施せず

JSF軍事/生き物ライター
北朝鮮・労働新聞の公式発表より、火星18の1回目と2回目の発射試験比較

 7月12日9時59分ごろ、北朝鮮は西部の平壌の付近からICBM(大陸間弾道ミサイル)級の弾道ミサイルをロフテッド軌道(山なりの弾道)で東に向けて発射し、日本海に着弾しました。そして翌日に北朝鮮は新型の固体燃料ICBM「火星18」の3ヵ月ぶり2回目の発射試験であったことを発表しています。北朝鮮の公表による飛行性能は以下の通りです。

  • 最大高度:6,​​648.4km
  • 水平距離:1,001.2km
  • 飛行時間:4,491秒

 これは通常弾道(最小エネルギー軌道)で飛ばした場合、最大飛距離1万3000~1万5000kmは飛べる性能になります。液体燃料式の火星17よりも小型なのに同等以上の飛行性能ですが、これは火星18の弾頭重量が軽い可能性ないし、新開発の固体燃料ロケットモーターが非常に高い性能である可能性があります。

火星18の発射試験1回目と2回目の条件比較

 なお火星18の1回目の発射試験は2023年4月13日でしたが、この時は最大高度3000km・水平距離1000kmと韓国軍が観測しています。そのため当初はIRBM(中距離弾道ミサイル)ないしICBMの発射失敗と見られていましたが、翌日の4月14日の北朝鮮の発表で特殊な飛び方をしていたことが判明しています。(ただし北朝鮮は1回目試験の具体的な飛行性能の数値を公表せず)

火星18の発射試験1回目(2023年4月13日)、加速中の上昇角度変更と時間遅延分離始動を実施

今回の試験発射は、周辺国家の安全と(北朝鮮)領内飛行中の多段ロケット分離の安全性を考慮して、第1段ロケットは標準弾道飛行方式で、第2、3段ロケットは高角発射方式(ロフテッド軌道)に設定し、時間遅延分離始動方式でミサイルの最大速度を制限しながら、武器システムの各系統別の技術的特性を実証する方法で行った。

出典:「朝鮮民主主義人民共和国の戦略武力の絶え間ない発展ぶりを示す威力的実体再び出現 敬愛する金正恩同志が新型大陸間弾道ミサイル《火星砲-18》型初の試験発射を現地指導された」:労働新聞(2023年4月14日)

 これに対して2023年7月12日に行われた火星18の2回目の発射試験では1回目の試験内容と説明された条件が異なっています。加速中の上昇角度変更は同様に実施したとありますが、時間遅延分離始動については記載がありませんでした。

火星18の発射試験2回目(2023年7月12日)、加速中の上昇角度変更を実施(時間遅延分離始動は実施せず)

試射発射は、周辺国家の安全と(北朝鮮)領内飛行中の多段ロケット分離の安全性を考慮して、第1段ロケットは標準弾道飛行方式で、第2、第3段ロケットは高角発射方式(ロフテッド軌道)に設定し、最大射程体制での武器システムの各系統別の技術的特性を実証する方法で行った。

出典:「朝鮮民主主義人民共和国の戦略武力の強化発展行路に刻まれたもう一つの意義深い大事変 新型大陸間弾道ミサイル試験発射断行 敬愛する金正恩同志が大陸間弾道ミサイル《火星砲-18》型の試験発射を現地指導された」:労働新聞(2023年7月13日)

 2回目の発射試験では上段ロケットの時間遅延分離始動を実施していなかったと読めます。これが1回目と2回目の発射試験での飛行性能の差に繋がったのでしょう。つまり火星18が1回目の試験であまり高く飛んでいなかったのは、公式式発表で「時間遅延分離始動方式でミサイルの最大速度を制限」とあったのがそのまま事実であり、意図的な設定だったことになります。

  • 発射試験1回目:最大高度3000km・水平距離1000km ※韓国軍観測
  • 発射試験2回目:最大高度6648km・水平距離1001km ※北朝鮮公表

 火星18の発射試験は1回目(意図的に飛行性能を抑えた試験)も2回目(全力飛行性能発揮試験)も両方ともに発射成功です。開発試験は順調に進んでおり、近い将来に量産配備されてアメリカに対する大きな脅威となるでしょう。

火星18に搭載されたオンボードカメラでの映像を比較

火星18の発射試験1回目(2023年4月13日)

北朝鮮・労働新聞より火星18の発射試験1回目(2023年4月13日実施、4月14日公表)
北朝鮮・労働新聞より火星18の発射試験1回目(2023年4月13日実施、4月14日公表)

火星18の発射試験2回目(2023年7月12日)

北朝鮮・労働新聞より火星18の発射試験2回目(2023年7月12日実施、7月13日公表)
北朝鮮・労働新聞より火星18の発射試験2回目(2023年7月12日実施、7月13日公表)
  • 1계단분리(第1段分離)
  • 1계단분리(第1段分離)
  • 2계단분리(第2段分離)
  • 3계단분리(第3段分離)

 火星18の1回目と2回目の発射試験を比較すると「2계단분리(第2段分離)」のオンボードカメラの映像で違いが分かります。1回目の発射試験ではまだ第3段ロケットに点火していません。しかし2回目の発射試験では既に第3段ロケットに点火して噴射炎が生じている様子が見えます。2回目の発射試験では時間遅延分離始動を行わずに間髪置かずに次の段に点火させています。

北朝鮮・労働新聞の公式発表より、火星18の1回目と2回目の発射試験比較
北朝鮮・労働新聞の公式発表より、火星18の1回目と2回目の発射試験比較
  • 発射試験1回目:時間遅延分離始動・有り
  • 発射試験2回目:時間遅延分離始動・無し
軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人戦闘兵器、オスプレイなど、ニュースに良く出る最新の軍事的なテーマに付いて解説を行っています。

JSFの最近の記事