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北朝鮮のファサン31戦術核弾頭の量産とその影響

JSF軍事/生き物ライター
北朝鮮・朝鮮中央通信より戦術核弾頭「ファサン-31(화산-31)」

戦術核弾頭「ファサン-31(화산-31)」

  • 화성:火星(ファソン、Hwasong)・・・弾道ミサイル
  • 화산:火山(ファサン、Hwasan)・・・核弾頭?
  • 화살:矢(ファサル、Hwasal)・・・巡航ミサイル

 北朝鮮の兵器に紛らわしい似た表記の命名が増えてしまいました。3月28日に「金正恩総書記が核の兵器化活動を指導」と北朝鮮から公式発表があり、声明文には詳しい説明は有りませんでしたが、発表された写真に核弾頭の新しい模型と共に「ファサン-31(화산-31)」と説明ボードに書かれてあったのです。

北朝鮮・朝鮮中央通信より戦術核弾頭「ファサン-31(화산-31)」
北朝鮮・朝鮮中央通信より戦術核弾頭「ファサン-31(화산-31)」

 ファサン-31戦術核弾頭の大きさはおそらく直径40~50cm・全長70~80cmと推定されます。見た目だけでは重量を正確に測ることは難しいのですがかなり小型で、推定重量200~300kg級と見られます。もっと軽いかもしれません。北朝鮮は想定外の戦術核弾頭の小型化を図っています。

 また後方の説明ボードに書かれてあるファサン-31戦術核弾頭の搭載予定ミサイル8種類からも新たな方針が見えてきます。小型サイズの短距離弾道ミサイルだろうと大型サイズの短距離弾道ミサイルだろうと一律でファサン-31を積もうとしています。

説明ボード左側4種類

  • 600mm超大型ロケット弾
  • 核無人水中攻撃艇「ヘイル」
  • 戦略巡航ミサイル「ファサル-1」
  • 戦略巡航ミサイル「ファサル-2」

説明ボード右側4種類(全て短距離弾道ミサイル)

  • 火星砲-11ナ(KN-24)
  • 火星砲-11ダ(名称未確認、推定KN-23拡大型)
  • 火星砲-11ラ(新型小型SRBM)
  • 火星砲-11SLBM型

 公表された写真の解像度が低いので、説明ボードに書かれてある朝鮮語の文字を完全には読み取れず一部に推定も混じりますが、ミサイルの大きさがかなり違う物であっても一律でファサン-31を積むように書かれてあります。

 特に「KN-23拡大型」は本来は「弾頭重量を2.5トンに改良した武器システム」(2021年3月26日)と発表されていた短距離弾道ミサイルです。それをファサン-31戦術核弾頭(推定200~300kg)に積み替えるというなら、射程は大きく伸びることになるでしょう。弾頭重量2.5トンで射程600kmのKN-23拡大型の弾頭重量が、10分の1になったらどれだけ飛べるのでしょうか? 日本まで届く可能性を考慮する必要が出てくるかもしれません。

 KN-23拡大型と新型小型SRBMは同じ短距離弾道ミサイルに分類されますが大きさは全く異なり、発射重量がおそらく5倍以上は違うサイズのミサイルです。また核無人水中攻撃艇「ヘイル」は短距離弾道ミサイルなどよりも遥かに大型の兵器で、もっと大きな核弾頭を積もうと思えばいくらでも可能なはずです。それなのに戦術核弾頭の大きさを統一する動機は、核弾頭を量産するためには種類を増やしたくないという動機があるのかもしれません。

火星11短距離弾道弾シリーズ(推定含む)

  1. 화성-11・・・火星-11(KN-02)
  2. 화성포-11가・・・火星砲-11カ(名称未確認、推定KN-23)
  3. 화성포-11나・・・火星砲-11ナ(KN-24)
  4. 화성포-11다・・・火星砲-11ダ(名称未確認、推定KN-23拡大型)
  5. 화성포-11라・・・火星砲-11ラ(新型小型SRBM)
  6. 화성포-11ㅅ・・・火星砲-11SLBM(ㅅは水中発射型の記号)

 今回のファサン31戦術核弾頭の説明ボードにミサイルの正式名称も表示されており、解像度の低い写真ながらも「화성포-11라(火星砲-11ラ)」と「화성포-11ㅅ(火星砲-11SLBM)」が新たに読み取れています。「화성포-11나(火星砲-11ナ)」については過去に開かれた国防展覧会「自衛2021」で既に判明しています。

日本語の「イ・ロ・ハ・二…」に朝鮮語で相当するものが「가・나・다・라…(カ・ナ・ダ・ラ…)」になります。英語でいう「A・B・C・D…」です。

出典:仮説:KN-24が火星11BならばKN-23は火星11Aである(2021年10月14日)

 火星砲-11라(ラ)は英語風に表記すればHwasongpho-11Dになるでしょうか。라は単にRaでもよいでしょう。

 火星-11(KN-02)はロシアのトーチカU短距離弾道ミサイルの模倣で固体燃料式です。火星砲-11カ(推定)以降はロシアの固体燃料式のイスカンデル短距離弾道ミサイルを模倣しながら大きさを変更したり、形状を変えたり、水中発射型にしたり、様々なバージョンを作っています。

 技術系統的にロシアのトーチカU系とイスカンデル系は大きく異なる別物の筈なのですが、北朝鮮においては固体燃料ロケットモーター開発の技術的な流れで両者が繋がっている可能性があり、同じ火星11というシリーズ名で括られているのかもしれません。おそらくですが北朝鮮は火星-11(トーチカU)は退役させる方針で、同等の射程の火星砲-11ラ(イスカンデル小型版)に入れ替える予定だと思われます。

 なお火星砲-11ラは韓国では北朝鮮版KTSSMと呼ばれていますが、アメリカのATACMSを模倣した韓国のKTSSMと異なり、火星砲-11ラはATACMS系には付いていないジェットベーンが装着されており、ロシアのイスカンデルを小型化した設計です。

軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人戦闘兵器、オスプレイなど、ニュースに良く出る最新の軍事的なテーマに付いて解説を行っています。

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