米陸軍の新しい中距離ミサイル「LRHW」は射程2775km以上と判明。日本の九州が配備先の最有力候補

ロッキード・マーティン社の資料より中距離ミサイルLRHWの想像図

 アメリカ陸軍が開発中で2023年配備予定(2024年本格量産開始)の新しい中距離ミサイル「LRHW」の射程について新しい情報が判明しました。アメリカの軍事ニュースサイト「Breaking Defense」によると、アメリカ陸軍当局者が「LRHWの射程は1725マイル以上」であると語ったとのことです。

Army Discloses Hypersonic LRHW Range Of 1,725 Miles; Watch Out China | BreakingDefense

 1725マイル(2775km)はLRHWについて従来知られていた数値の射程1400マイル(2253km)よりも長く、しかも「以上」とあるので実際にはもっと飛べる可能性があります。陸軍は正確な性能数値は秘匿するつもりなのでしょう。

 なお1725マイル(2775km)は1500海里となります。

 ここでは暫定的にLRHWの射程を2775kmとして、対中国用に西太平洋に配備した場合には何処が候補地として考えられているのか、考察していきたいと思います。

通常弾頭の中距離ミサイル、目標は中国大陸の航空基地

 アメリカは中国との戦争では核兵器を用いない地域紛争レベルの通常戦争を想定しており、想定戦場は東シナ海(尖閣諸島)、台湾、南シナ海(南沙諸島、西沙諸島)です。中国大陸に地上侵攻するつもりはありません。新しい中距離ミサイルは想定戦場に飛んで来る中国軍の戦闘機の運用を妨害するのが目的で、航空基地を狙うことになります。

 つまりLRHWは想定戦場である東シナ海(尖閣諸島)、台湾、南シナ海(南沙諸島、西沙諸島)から数百km以内の戦闘機の出撃拠点となる中国大陸の航空基地を狙える場所に展開する必要があります。

米軍の中距離ミサイルが”地上発射”であるべき理由は再装填・再発射の容易性(2021年3月22日)

中距離ミサイルの配備場所は第一列島線

 アメリカ軍インド太平洋軍(USINDOPACOM)が2021年3月1日に議会に提出した要望書には「第一列島線の長距離兵器で武装した地上部隊は…」という表現があり、この長距離兵器とはLRHWを指すと見られています。これはLRHWの展開先は第二列島線(小笠原諸島、グアムの線)ではなく第一列島線(九州、沖縄の線)が想定されていると明言されたことになります。

アメリカ国防総省資料より第一列島線と第二列島線
アメリカ国防総省資料より第一列島線と第二列島線

グアムにLRHWを置いても中国大陸まで届かない

 第二列島線にあるアメリカ領土のグアムにLRHWを置いても、射程2775kmでは中国大陸まで届きません。ただしLRHWの最新情報は「射程2775km以上」なので、もっと飛べる可能性はあります。

 しかし射程3000kmでもグアムからでは中国大陸までほとんど届かず、射程3500kmでは南シナ海を想定戦場とした場合の中国大陸の航空基地を狙うには足りず、射程4000km以上が必要になります。おそらく其処までの射程は与えられていないでしょう。

 LRHWは訓練用キャニスターに書かれた数字から発射重量7400kgと推定されており、発射重量および二段式推進ロケット+機動弾頭という構成は冷戦時代のパーシングⅡ準中距離弾道ミサイル(射程1770km)とほぼ同じです。LRHWのC-HGB(極超音速滑空弾頭)の滑空性能がパーシングⅡのMaRV(機動再突入体)より高いものだったとしても、ミサイルが同じようなサイズで2.5倍の4000kmもの射程を発揮できるとは少し考え難そうです。

Google地図より筆者作成。グアムから半径2775kmの円
Google地図より筆者作成。グアムから半径2775kmの円

硫黄島は狭すぎて配備には不向き

 第二列島線で住民がおらず兵器の配備が容易な島に硫黄島が挙げられますが、射程2775kmでは想定戦場を南シナ海とした場合、中距離ミサイルの目標となる中国大陸の航空基地まで射程が少し足りません。

Google地図より筆者作成。硫黄島から半径2775kmの円
Google地図より筆者作成。硫黄島から半径2775kmの円

 ただしそれ以前の問題として、硫黄島は地対地ミサイルの配備拠点としては島が小さ過ぎて発射機が隠れながら移動することができず、LRHWの配備候補地としては非常に不向きな場所です。

 通常であれば中距離ミサイルで地上移動目標を攻撃することは目標の正確な場所が掴めず狙いを付けるのが非常に困難なのですが、ごく狭い範囲に目標が存在していると確定している場合、その範囲ごと多数のミサイルのクラスター弾頭で面制圧してしまえば目標を除去できます。

 もし硫黄島にLRHWを配備した場合、展開できそうな平地は少なく、中国軍の中距離ミサイルによって容易に撃破されてしまうでしょう。

Google地図より硫黄島。赤円は直径200mで弾道ミサイル(クラスター弾頭)制圧範囲
Google地図より硫黄島。赤円は直径200mで弾道ミサイル(クラスター弾頭)制圧範囲

 狭い硫黄島では滑走路と旧滑走路を中心とする主要平地は数十発のクラスター弾頭の弾道ミサイルで制圧可能です。LRHWの移動発射機は大型のトレーラー車両なので悪路は走れず、移動範囲は限定され特定されやすくなります。

 なおミサイルを地下サイロ式にした場合は建設中に場所が特定されるので、貫通弾頭の弾道ミサイルを撃ち込まれたらピンポイント攻撃により少ない本数で簡単に撃破されてしまいます。

 この狭すぎる場所は隠れながら移動を繰り返して居場所を特定させない想定の攻撃兵器の配備には不向きという問題は、硫黄島だけでなく他の小さな島にも当て嵌まります。一時的な展開なら可能ですが、継続して撃ち続けることはできません。

第一列島線の九州に配備する場合、最適となる

 LRHWの射程を2775kmとした場合、第一列島線の九州に配備すると想定される戦場の全てに対応できます。東シナ海(尖閣諸島)、台湾、南シナ海(南沙諸島、西沙諸島)から数百km以内の戦闘機の出撃拠点となる中国大陸の航空基地を攻撃することが可能です。

Google地図より筆者作成。九州の中央部から半径2775kmの円
Google地図より筆者作成。九州の中央部から半径2775kmの円

 想定戦場が南シナ海ではなく台湾海峡や尖閣諸島ならばさらに後方からでも攻撃可能です。台湾有事が想定なら静岡県にある陸上自衛隊の富士演習場からでも想定される中国大陸の目標に届きます。

Google地図より筆者作成。富士演習場から半径2775kmの円
Google地図より筆者作成。富士演習場から半径2775kmの円

LRHWの沖縄への配備は回避可能

 アメリカ陸軍のLRHWは最低でも2775km飛べるのであれば、沖縄に配備する必要はありません。海兵隊の地上発射型トマホーク巡航ミサイルは飛行速度が遅い関係から、移動目標である艦船を狙う場合は到着時間の関係であまり遠くに置くのは不向きなので沖縄配備の可能性は残ります。しかし陸軍のLRHWは高速飛行する極超音速兵器であり地上固定目標を狙うので、有効射程内なら後方配置でも問題が生じません。

 LRHWの以前まで知られていた射程1400マイル(2253km)では九州配備では少し足りず沖縄配備の可能性がありましたが、少なくとも1725マイル(2775km)を飛べるならば九州配備で全く問題が出ません。

 沖縄に海兵隊の配備に加えて陸軍の中距離ミサイル部隊まで新たに配備するのは負担が大き過ぎるので、九州ないし本州に配備する方向となるでしょう。

日本以外の周辺国のアメリカの同盟国は常駐配備が困難

 フィリピン配備を想定した場合、南部のミンダナオ島からでも想定戦場における攻撃目標を概ね2775kmの射程内に納めることが可能です。ただし現在はフィリピンに大規模なアメリカ軍の常駐基地は無いので、有事が起きた後での展開先として考えられています。

Google地図より筆者作成。ミンダナオ島から半径2775kmの円
Google地図より筆者作成。ミンダナオ島から半径2775kmの円

 韓国への配備を考えた場合、LRHWの射程のみを考えたら日本の九州への配備と同じくらい都合がよい場所です。しかし韓国に対して「尖閣、台湾、南シナ海」の有事でアメリカ軍と一体となって協力しろと要求するのは難しいでしょう。

 尖閣有事は日本が当事者で、台湾有事もそれに準じます。南シナ海有事はフィリピンが当事者です。しかし韓国は対中国でどの想定される紛争も直接的な当事者ではありません。韓国がアメリカに対し積極的な協力を自ら申し出る理由が無いのです。

Google地図より筆者作成。韓国から半径2775kmの円
Google地図より筆者作成。韓国から半径2775kmの円

 そうなると、LRHWの射程を考えた場合にグアム配備はそもそも届かないので論外であり、韓国への配備は政治的に難しく、フィリピンには有事発生後の展開しかできないとなるので、消去法で配備先は日本しか候補地が残りません。アメリカ陸軍の新しい中距離ミサイルの日本配備はほぼ確定事項となります。

 なおここまでの考察はLRHWの射程が2775kmであるという想定で行われているので、もっと長い場合は考察の結論が若干変わってきます。しかし実際の最大射程が3500km程度までならほぼ結論に変化は無く、おそらく射程4000kmでも大きな結論の変化は無いでしょう。

LRHW・・・ Long Range Hypersonic Weapon (長距離極超音速兵器)。アメリカ陸軍向けの中距離ミサイルで、長距離と銘打っているが実際には準中距離~中距離の射程を持つ。ホットランチ方式。

CPS・・・Conventional Prompt Strike (通常即応攻撃)。弾頭及び推進ロケットを陸軍のLRHWと共通化した海軍向け中距離ミサイル。潜水艦からの水中発射を行うのでコールドランチ方式。

C-HGB・・・Common Hypersonic Glide Body (共通極超音速滑空体)。陸軍のLRHWと海軍のCPSの両方に搭載する弾頭。円錐形の弾頭形状で、機動式弾道ミサイルのMaRV(機動再突入体)に近い性格を持つHGV(極超音速滑空体)。

INF条約・・・Intermediate-Range Nuclear Forces Treaty (中距離核戦力全廃条約)。地上発射式の対地攻撃用の中距離ミサイルの配備を禁止するアメリカとソ連の条約。2019年に失効。なお禁止範囲の射程は500km~5500kmで、実は短距離の一部を含む。

対地ミサイルの射程の区分・・・実は国際的に統一された射程の区分は無いが、一般的に弾道ミサイルを想定して短距離(~1000km)、準中距離(1000~3000km)、中距離(3000~5500km)、長距離(5500km~)で分類される。長距離は大陸間を飛行できる性能。