イージスアショア代替3案それぞれの一長一短

米ミサイル防衛局よりイージスアショア実験施設の発射機。レーダーと6km離れている

 ブースター落下問題を理由として白紙となったイージスアショア計画の代替案には、政府内で3つの案が検討されています。

  1. イージスアショアの発射機のみ海上ないし沿岸に設置して遠隔操作
  2. イージス艦を2隻増やす(8隻体制→10隻体制)
  3. メガフロート(人工浮島)イージスアショア

1. イージスアショアの発射機のみ海上ないし沿岸に設置して遠隔操作

 (1)はイージスアショアの発射機のみ海上ないし沿岸に設置して遠隔操作し、ブースターを海に落とす分離設置案です。電子妨害を仕掛けられて通信が阻害された場合に撃てなくなる懸念がありますが、対北朝鮮に限れば北朝鮮は日本本土付近への大規模な電子戦を仕掛ける能力は無いので無視してもかまいません。

 イージスアショア計画の名目はあくまで北朝鮮対策だったので、代替案の名目も北朝鮮対策でなければならず、電子妨害は問題とする理由にならないでしょう。

 中国とロシアが相手なら仕掛けてくる能力はありますが、強力な電子戦を仕掛けるには弾道ミサイルではなく電子戦機などで付近まで乗り込んで来る必要があるので、そのような状況に追い込まれている時点で本土防空戦は劣勢状態です。

 この状況で困るのは弾道ミサイル攻撃よりも通常の航空攻撃への対策であり、イージスアショアの発射機をレーダーから離し過ぎるとレーダー防御用の大気圏内用迎撃ミサイルが置かれていないことになるので、レーダーの生存性が大きく下がる問題が生じます。この場合はレーダーの周囲に別の防空システムを配備する必要があります。

 なおイージス・システムはBMD(弾道ミサイル防衛)対応ソフトウェアのバージョンBMD5.1から「遠隔交戦(エンゲージ・オン・リモート)」と呼ばれる能力が付与されて、前方展開しているイージス艦と後方展開しているイージス艦をデータリンクで繋ぎ、前方展開イージス艦のレーダー情報によって後方展開イージス艦が搭載する迎撃ミサイルを発射し誘導制御する機能があります。通信を用いながら戦闘することは最初から前提とされているので、通信が妨害されることを恐れるのは今さらという気もします。

【参考】前方展開レーダーの役割が重要な弾道ミサイル防衛システム ※「ローンチ・オン・リモートとエンゲージ・オン・リモート」改題

 注意点としては、イージスアショア代替案としての海上への発射機分離設置案はイージス艦とのデータリンクという意味ではなく、SM-3迎撃ミサイルを搭載した通常の護衛艦を地上のイージスアショアから制御する構想だと考えられることです。SM-3迎撃ミサイルを搭載した通常の護衛艦は自身はSM-3を制御できない「弾庫艦」という位置付けです。

 こうすることで貴重なイージス艦を必要以上に日本海に張り付けず運用負担を軽減し、東シナ海での任務に投入可能になる利点が生じますが、当然ですが通常の護衛艦をBMD任務で日本海に張り付けるという意味になり、海上自衛隊の負担は全体として増えます。

 弾庫艦を貨物船などで行えばこの問題は解決できますが自己防御能力が無いので前線には置けず、日本海ではなく後方の太平洋側に配置することになるかもしれません。SM-3ブロック2A迎撃ミサイルは大気圏外を飛行し射程が非常に長いので、この条件でも2カ所で日本全土を防空することはおそらく可能です。ただし交戦タイミングは遅れるのでSLS射法で確認射撃する際に影響が生じる可能性があります。

【参考】弾道ミサイル防衛「シュート・トゥ・シュートとシュート・ルック・シュート」

 レーダーを日本海側に置きたいのは日本列島を背骨のように連なる山脈でレーダー電波を遮られたくないためで、発射機を海に置きたいのはブースターを安全に海に落とすためなので理由が異なります。このためブースター問題の解決は日本海沖・日本海沿岸・太平洋沖(太平洋沿岸は駄目)のどれでも構いません。

 ただし太平洋側に配備する場合もし弾庫艦が港に停泊中に戦闘になった時に、遠隔操作の通信機能だけでも稼働させておけば港内からでもSM-3迎撃ミサイルは発射できますが、ブースターは確実に地上に落ちて来ることになります。これは横須賀配備の日米イージス艦にも言えます。

 そして発射機の地上遠隔設置の実例になりますが、アメリカ軍のハワイのカウアイ島にあるイージスアショア実験施設はレーダーと発射機が約6km離れています。これはレーダー付近に宿舎があるので発射機を離しておこうという意図があるのですが、この距離ならば有線で繋ぐことも容易です。有線ならばテロ攻撃には弱いのですが電波妨害には強いので、有線操作と無線操作の両方を用意しておけば冗長性が確保できます。沿岸に発射機だけ離して置くならば選択肢の一つとなるでしょう。

 ただしこの(1)案ではブースター落下問題は解決できますが、レーダー配備への反対運動は解決できません。発射機を洋上ではなく沿岸に置くならこちらにも反対運動は起きるでしょう。ブースター落下は解決できても重要攻撃目標として敵に狙われることには変わりがないからです。防衛省の不手際で一度は計画停止に追い込まれたイージスアショア配備計画を、ブースター落下問題が解決したところで新たに受け入れてくれる配備候補地があるかどうかは不透明なままです。

2. イージス艦を2隻増やす(8隻体制→10隻体制)

 (2)は単純にイージス艦を増やす案ですが、地上にあるイージスアショアは24時間365日連続で稼働できるのに対し、艦船のイージス艦は乗組員の休養で母港に戻ったり定期修理でドック入りするので年間あたり洋上に居るのは半年以下であることを考えると、イージスアショア2基の代替にはイージス艦4隻以上は用意する必要が生じます。

 しかしそれでは費用は2倍以上掛かる上に海上自衛隊の艦艇乗組員不足の問題を考えると難しく、イージス艦以外の護衛艦を削減して浮いた人員を充てることになると海上自衛隊の全体の戦力が低下してしまいます。イージス艦2隻増勢ではイージスアショア2基代替には足りませんが、現実的にはこれが精一杯なのです。

 もともとイージスアショア計画が選択されたのは幾つかある候補の中から「安いわりに効果が高い」という費用対効果の面で選ばれているので、イージスアショアを活用しないBMD代替案は費用が高くなるか、同じ費用ならば能力が劣ることは避けられません。

3. メガフロート(人工浮島)イージスアショア

 (3)のイージスアショアをメガフロートに搭載する案はブースター落下問題と配備反対運動を回避できる点で(2)のイージス艦増勢と同じ利点がありますが、沿岸に固定する方式だと津波に非常に弱いという重大な問題があります。

 また水中からの特殊部隊による爆破工作に弱く、魚雷やミサイルなどの通常攻撃にも弱いので、構造的に脆弱で防衛施設を置くには不向きです。沖縄県の普天間基地代替案でも検討されたことはありましたが採用されていない方式です。イージス用だとメガフロートというよりは艀(はしけ)のサイズになるので建造は容易ですが、3案の中で最も設置が容易でありながらも最も問題がある施設になります。

 アメリカ軍は弾道ミサイル防衛用の海上配備Xバンドレーダー「SBX」をアラスカ沖で運用していますが、これは石油採掘リグを改造して自走機能を付けた半潜水式海洋浮体です。移動できるのでテロ攻撃に強く、沖合に居るので津波にも強い利点がありますが、通常の艦船で搭載するには大きすぎる大型Xバンドレーダー搭載の為にこの形式になっただけなので、駆逐艦に搭載可能なイージス・システムならばイージス駆逐艦でよいとなり、あまり参考にはならないでしょう。

 イージス艦の方が速力が速く戦闘能力が高いので、自走式イージス艀を選ぶ意味が全くありません。