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冬至寒波から雨の大みそかと暖かい正月、雪国は暖かいときは特に注意

饒村曜気象予報士
お正月にお賽銭箱の前で手を合わせお参りする家族連れ(提供:イメージマート)

冬至寒波

 令和5年(2023年)は、冬至(12月22日)頃に今冬最強の寒波が西日本を中心に南下してきました。

 福岡では、最高気温が12月21日に3.7度、22日に4.3度と、平年の最低気温をも下回る冬至寒波でした(図1)。

図1 福岡の最高気温と最低気温の推移(12月28日〜1月3日は気象庁、1月4日〜1月10日はウェザーマップの予報)
図1 福岡の最高気温と最低気温の推移(12月28日〜1月3日は気象庁、1月4日〜1月10日はウェザーマップの予報)

 その強い冬至寒波も、クリスマスまでで、現在の最高気温、最低気温は平年より高くなっています。

 そして、年末年始は、最高気温、最低気温ともに平年より高くなる見込みです。

 全国で最高気温が25度以上の夏日、最低気温が0度未満の冬日、最高気温が0度未満の真冬日の推移をみたのが図2です。

図2 真冬日、冬日、夏日の観測地点数の推移(11月1日~12月30日、12月28日以降は予測)
図2 真冬日、冬日、夏日の観測地点数の推移(11月1日~12月30日、12月28日以降は予測)

 冬至寒波では、冬日の観測地点数が全国の80パーセントを超えていますが、その後、冬日や真冬日の観測地点数が減っています。

平年より気温が高い年末年始

 東京も福岡と事情は似ています。

 ただ、冬至寒波で気温が下がりましたが、下がって平年並みと、福岡ほど低い気温にはなりませんでした。

 そして、年末年始は、最高気温、最低気温ともに平年より高くなる見込みです(図3)。

図3 東京の最高気温と最低気温の推移(12月28日〜1月3日は気象庁、1月4日〜1月10日はウェザーマップの予報)
図3 東京の最高気温と最低気温の推移(12月28日〜1月3日は気象庁、1月4日〜1月10日はウェザーマップの予報)

 札幌では、冬至寒波に先立つ11月末に強い寒気が南下しています。

 11月23日の最高気温は17.3度でしたが、2日後の25日には最高気温が氷点下1.4度となり、一日中氷点下という真冬日となるなど、気温変化が大きな日々が続きました(図4)。

図4 札幌の最高気温と最低気温の推移(12月28日〜1月3日は気象庁、1月4日〜1月10日はウェザーマップの予報)
図4 札幌の最高気温と最低気温の推移(12月28日〜1月3日は気象庁、1月4日〜1月10日はウェザーマップの予報)

 そして、冬至寒波のあと、年末年始は、最高気温、最低気温ともに平年より高くなる見込みです。

年末年始の天気予報

 各地の年末年始の天気予報をみると、12月31日は低気圧の通過で、全国的に雲が多く、西日本から東北南部では雨、東北北部から北海道では雪が降る見込みです(図5)。

図5 各地の12月31日(左上)と正月三が日の天気予報
図5 各地の12月31日(左上)と正月三が日の天気予報

 そして、低気圧通過後の1月1日は、西高東低の冬型の気圧配置となり、日本海側では曇りで雨や雪、太平洋側では晴れる見込みです。

 ただ、寒気の南下は弱く、1月2日は高気圧に覆われ晴れてくる見込みです。

 全国的に暖かい年末年始となりそうですが、日中は暖かくても夜間はさすがに冷え込みます。多雪地帯では、日中に融けた雪が夜間の冷え込みによって凍結し、積雪の表面が氷となります。いわゆる氷雪です。

 滑りやすくて除雪しにくく、この上に新雪が積もると遠くまで届く表層雪崩の可能性があります。雪解け水による融雪洪水も含め、多雪地帯で急に気温があがると、危険なことがいろいろ出てきます。

 雪国は暖かいときは特に注意が必要です。

氷雪は降る雪ではない

 青森県出身の太宰治が春の紀行文「津軽」の冒頭で、「こな雪、つぶ雪、わた雪、みづ雪、かた雪、ざらめ雪、こほり雪」と7つの雪を並べていますが、何の説明もなく、これ以降は雪の話はでてきません。

 この7つの雪は、「こな雪」も「わた雪」も含めて、降ってくる雪ではありません。全て積雪状態を表す戦前まで使われていた言葉です。

引用:「東奥年鑑(昭和16年)」
積雪ノ種類ノ名称
こなゆき 湿気ノ少ナイ軽イ雪デ息ヲ吹キカケルト粒子ガ容易ニ飛散スル
つぶゆき 粒状ノ雪(霰ヲ含ム)ノ積モツタモノ
わたゆき 根雪初頭及ビ最盛期ノ表層ニ最モ普通ニ見ラレル綿状ノ積雪デ余リ硬クナイモノ
みづゆき 水分ノ多イ雪ガ積ツタモノ又ハ日射暖気ノ為積雪ガ水分ヲ多ク含ム様ニナツタモノ
かたゆき 積雪ガ種々ノ原因ノ下ニ硬クナツタモノデ根雪最盛期以後下層ニ普通ニ見ラレルモノ
ざらめゆき 雪粒子ガ再結晶ヲ繰返シ肉眼デ認メラレル程度ニナツタモノ
こほりゆき みずゆき、ざらめゆきガ氷結シテ硬クナリ氷ニ近イ状態ニナツタモノ

 昭和62年(1987年)のヒット曲「津軽恋女(歌:新沼謙治)」では、太宰治の「津軽」をモチーフに、7つの雪を全て降る雪として情感を盛り上げています。

 積雪ではなく、降雪と考えた歌詞ですが、「こな雪」「わた雪」などは降ってくる雪にも使いますが、「かた雪」「ざらめ雪」「こほり雪」は地上にできるもので降ってはきません。

 事実とは違いますが、冬の最盛期を過ぎてからできる氷雪は、まだまだ寒いなか、春を強く意識させるという歌詞は、その通りと思います。

 「重量物をそりで運搬するにはかた雪」等、昔の生活では積雪状態が非常に重要な情報で、当時の人は説明をしなくても、そう考えていました。

 車社会となり、路面に雪があるかないか程度の認識の人が多くなりましたが、大雪が降ったときの私達の行動は、降雪量だけでなく積雪状態からも大きな影響を受けます。

 同じ降雪量でも、気温が低いときのサラサラした雪より、気温が高いときのベタベタした雪のほうが雪かき等が大変ですし、融けた雪が再び凍ってアイスバーンになる(氷雪になる)と転倒事故や交通事故が急増します。

 大雪の際は積雪状態も大切ですので、降雪量の予報だけでなく、気温の情報も併せて考えてください。

 雪国は暖かいときのほうが危険なのです。

図1、図3、図4の出典:気象庁ホームページとウェザーマップ提供資料をもとに筆者作成。

図2の出典:ウェザーマップ提供資料をもとに筆者作成。

図5の出典:ウェザーマップ提供。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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