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三陸沖を北上する台風10号に先島諸島接近の9号、そして関東・東海に接近するかもしれない11号が発生か

饒村曜気象予報士
台風9号と10号の雲および熱帯低気圧になるかもしれない雲の塊(8月26日21時)

北日本を中心とした猛暑

 日本の東から日本列島に張り出していた太平洋高気圧が東海上に後退気味で、8月26日に全国で気温が一番高かったのは、新潟県・津川の37.7度と、38度以上の観測地点はありませんでした。

 また、8月26日に全国で最高気温35度以上の猛暑日を観測したのが91地点(全国で気温を観測している915地点の約10パーセント)と、今年一番多くの猛暑日を観測した8月3日の290地点(約32パーセント)に比べれば、観測した地点数は減っています。

 しかし、最高気温30度以上の真夏日を観測したのが835地点(約91パーセント)、最高気温25度以上の夏日を観測したのが913地点(約100パーセント)でした(図1)。

図1 夏日、真夏日、猛暑日の観測地点数の推移(5月1日~8月26日)
図1 夏日、真夏日、猛暑日の観測地点数の推移(5月1日~8月26日)

 真夏日、夏日ともに高い数値であることには変わりがありません。

 8月27日も、福岡県・久留米や大分県・日田、佐賀で最高気温が36度の予想であるなど、九州を中心に気温が高くなる予報となっています(図2)。

図2 最高気温の予想の分布(8月27日)
図2 最高気温の予想の分布(8月27日)

 また、猛暑日は8月26日より少ない20地点程度と見積もられています。

 太平洋高気圧が東海上に去り、雲が多くなることから記録的な暑さを観測する地点は減りますが、真夏日は640地点程度、夏日は910地点程度と見積もられており、厳しい暑さは8月27日も続く見込みです。

台風9号、10号に続いて台風11号も発生か

 記録的な猛暑を止める決定打になるかもしれないのが、2つの台風と1つの熱帯低気圧の動向です(図3)。

図3 予想天気図(8月27日9時の予想)
図3 予想天気図(8月27日9時の予想)

 太平洋高気圧が南から張り出してくる例年の夏と違って、日本の南は気圧が低くなっており、所々で発達した積乱雲の塊が存在しています。

 この雲の塊の中から、8月24日15時に沖縄の南で台風9号が発生し、フィリピンの東に南下し、ほとんど停滞しています。

 また、8月25日3時に南鳥島近海で台風10号に発達し、北上しています(表1)。

表1 令和4年(2022年)と令和5年(2023年)の台風発生数と、台風に関する各種の平年値
表1 令和4年(2022年)と令和5年(2023年)の台風発生数と、台風に関する各種の平年値

 令和5年(2023年)は台風発生のペースが遅く、台風9号と10号が連続発生しましたが、これにマリアナ諸島近海の熱帯低気圧が台風11号に発達したとしても、8月末までに14個という平年並みには及びません。

エルニーニョ現象時の台風

 現在、東部太平洋赤道域の海面水温が平年より高くなるというエルニーニョ現象が発生しています。

 今年の春までは、東部太平洋赤道域の海面水温が平年より低くなるというラニーニャ現象が2年半という長きにわたって続いていましたので、様変わりです。

 エルニーニョ現象やラニーニャ現象が発生すると、赤道域で積乱雲の発生場所が変わり、台風の性質などが変わり、地球規模で異常気象が発生するとされています。

 気象庁ホームページでは、エルニーニョ現象・ラニーニャ現象と台風との関係は表2のようにまとめています。

表2 エルニーニョ現象・ラニーニャ現象発生時の台風の特徴(気象庁ホームページより)
表2 エルニーニョ現象・ラニーニャ現象発生時の台風の特徴(気象庁ホームページより)

 昨年、令和4年(2022年)はラニーニャ現象の最中でしたが、台風の発生位置は北西にずれていました(図4)。

図4 令和4年(2022年)の台風発生海域
図4 令和4年(2022年)の台風発生海域

 このため、日本近海で発生する台風が多くなり、台風が発生するとすぐに日本に影響したということが多々ありました。

 エルニーニョ現象の今年、令和5年(2023年)は、これまで台風が10個発生していますが、発生位置が南東にずれる傾向があります(図5)。

図5 令和5年(2023年)の台風発生海域
図5 令和5年(2023年)の台風発生海域

 なお、台風8号は、北太平洋中部のハリケーンが西進して日付変更線を越えて北太平洋西部にはいってきたことによる発生で、他の台風とは違います。

 エルニーニョ現象発生時の台風の傾向である、台風発生数が少なくなるということ、台風発生海域が南東側にずれるということは現れていそうです。

 そうなると、気になるのは、表2にある「夏、最も発達した時の台風の中心気圧が平常時よりも低い傾向がある」というところですが、すでに、2号、6号、7号で大きな被害が発生しています。

 今年の台風2号は、フィリピン東海上で猛烈な台風に発達し、沖縄近海から日本の南海上を進みました。6月の初めということもあり、海面水温がまだ低く、勢力としては弱まりましたが、日本列島の梅雨前線に向かって広い範囲で大量の水蒸気を送り続けたことで、連続6県(高知・和歌山・奈良・三重・愛知・静岡)で線状降水帯が発生し大雨となりました。

 また、台風6号も、大型で非常に強い台風にまで発達しながら沖縄近海をゆっくり進んだため、沖縄では長時間にわたって暴風域に入り、沖縄本島では線状降水帯が発生して大雨となりました。その後、次第に進路を東よりに変え、8月8日以降は九州にかなり接近し、九州の西の海上から朝鮮半島付近に進みました。このため、熊本、宮崎、大分、高知、愛媛の各県でも線状降水帯が発生して大雨となりました。

 さらに、台風7号は、8月11日昼頃に非常に強い勢力で父島付近を通過し、その後台風は北よりに向きを変え、15日午前5時前に和歌山県潮岬付近に上陸しました。上陸後は自転車並みの速度で近畿を縦断し、兵庫県豊岡市付近から日本海を北上しました。鳥取県では、24時間で470ミリという、平年8月の3倍にあたる雨量が一日で観測され、大雨特別警報が発表となリました。

 エルニーニョ現象が発生している今年の台風は、最大限の警戒が必要です。

台風9号と10号、発生するかもしれない11号の進路予報

 台風が発達する目安の海面水温は27度といわれていますが、台風9号の近海の海面水温は、30度以上もあります。

 このため、台風9号は中心気圧が920ヘクトパスカル、最大風速55メートル、最大瞬間風速75メートルという猛烈な台風に発達する見込みです。

 ただ、台風を動かす上空の風が吹いていないため、フィリピンの東海上でほとんど停滞し、その後はゆっくり北上する見込みですので、日本への影響は今週半ば以降になりそうです(図6)。

図6 台風9号と台風10号の進路予報と海面水温(8月26日21時)
図6 台風9号と台風10号の進路予報と海面水温(8月26日21時)

 台風の進路予報は最新のものをお使いください

 一方、台風10号は、台風が発達する目安の27度より若干高い、27度~28度くらいの海域を、大きく発達することなく北上する見込みです。

 進行速度は、8月としては早い速度で、8月27日(日)の夜には関東に接近する見込みです。

 そして、8月28日(月)以降の進路が急に東に変わっています。

 これは、この頃に北日本に前線が停滞し、上空の西風が強いと考えられるからです。

 週明けの北日本は、大災害が発生しやすい「台風と前線という危険な組み合わせ」となりますので、今後の台風情報等に注意してください。

 台風10号の北上は、その後の寒気の南下を促し、記録的な猛暑を止める決定打になるかもしれません。

 とはいえ、記録的な暑さを止めたとしても、大きな災害をもたらす可能性があり、どちらになっても困った現象となります。

 また、フィリピンの東でほとんど停滞する台風9号は、台風10号が過ぎ去ったあとに北上して南西諸島に被害を発生させる可能があります。

 さらに、ひょっとしたら、マリアナ諸島近海の雲の塊の中から熱帯低気圧が発生し、台風11号に発達するかもしれません(タイトル画像)。

 昔、筆者が調べた8月の台風の平均的な経路では、台風9号のようにフィリピンの東の台風は北西へ進んで沖縄県先島諸島に接近するものは少なくありません(図7)。

図7 台風の8月の平均経路図と、台風9号と10号、台風11号?の進路予報
図7 台風の8月の平均経路図と、台風9号と10号、台風11号?の進路予報

 また、台風10号のように、南鳥島近海から三陸沖を北上する台風も少なくありません。

 そして、まだ台風になるかどうかはわかりませんが、マリアナ諸島近海で台風が発生した場合は、北上して東海から西日本に接近する可能性があります。

 台風9号、台風10号、そして発生した場合の台風11号には厳重な警戒が必要です。

タイトル画像、図2、図6の出典:ウェザーマップ提供。

図1の出典:ウェザーマップ提供資料をもとに筆者作成。

図3、表1の出典:気象庁ホームページ。

図4、図5、表2の出典:気象庁ホームページをもとに筆者作成。

図7の出典:「饒村曜・宮澤清治(昭和55年(1980年)、台風に関する諸統計 月別発生数・存在分布・平均経路、研究時報、気象庁」をもとに筆者加筆。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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