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熱中症が問題となった昨年以上の今年の猛暑と、台風9号になる可能性もある南海上の熱帯低気圧

饒村曜気象予報士
日傘をさす女子高校生(写真:アフロ)

台風7号通過後の暖湿気流入

 台風一過という言葉がありますが、これは秋台風に対してのもので、夏台風は通過後も南から暖湿気が入ることから大気が不安定になります。

 令和5年(2023年)8月15日(火)午前5時前に台風7号が和歌山県潮岬付近に上陸した台風7号の場合も、南から暖湿気流が流入し、17日は四国を中心に200ミリ以上の大雨、18日は宮崎県を中心に200ミリ以上の大雨となりました。

 そして、8月19日は東北から九州まで、所により50~90ミリの雨が、20日も岐阜県や青森県などで50~90ミリの雨が降っています(図1)。

図1 24時間降水量(8月19日21時~20 日21時)
図1 24時間降水量(8月19日21時~20 日21時)

 8月20日9時の地上天気図をみると、西日本~東北南部は、日本の東にある太平洋高気圧に覆われて晴れていますが、この太平洋高気圧は強いものではありません(図2)。

図2 地上天気図(8月20日9時)と予想天気図(8月22日9時の予想)
図2 地上天気図(8月20日9時)と予想天気図(8月22日9時の予想)

 例年の夏であれば、日本の南海上から太平洋高気圧が日本列島を覆うのですが、今年の日本の南海上は高気圧ではなく気圧が低くなっています。そして、その気圧が低い所を台風や熱帯低気圧が通過しています。

 このため、南から熱帯由来の暖かくて湿った空気が北上しやすくなっているのです。

 気温は全国的に平年より高いだけでなく、湿度も高いという、熱中症になりやすい厳しい暑さが継続しています。

8月20日の暑さ

 8月20日に全国で気温が一番高かったのは、兵庫県・福崎の38.9度でした。

 次いで、大阪府・枚方の38.6度、京都府・京田辺の38.1度となっており、近畿地方が上位にはいっています。

 8月20日に全国で最高気温35度以上の猛暑日を観測したのが182地点(全国で気温を観測している914地点の約20パーセント)、最高気温30度以上の真夏日を観測したのが755地点(約83パーセント)、最高気温25度以上の夏日を観測したのが907地点(約99パーセント)でした(図3)。

図3 夏日、真夏日、猛暑日の観測地点数の推移(5月1日~8月20日)
図3 夏日、真夏日、猛暑日の観測地点数の推移(5月1日~8月20日)

 今年、一番多くの猛暑日を観測したのが8月3日の290地点(約32パーセント)、一番多くの真夏日を観測したのが7月29日の847地点(約93パーセント)、一番多くの夏日を観測したのが912地点(約100パーセント)ですから、これに比べれば、観測した地点数は減っていますが、高い数値であることには変わりがありません。

 台風7号の上陸によっても猛暑日などの観測地点数が減りましたが、一時的でした。

 8月21日も、関東平野や大阪平野を中心に気温が高くなり、福島県・若松では最高気温が38度、京都、大阪、鳥取、佐賀などでは最高気温が37度の猛暑日の予報です(図4)。

図4 最高気温の予想の分布(8月21日)
図4 最高気温の予想の分布(8月21日)

 また、猛暑日は全国の145地点程度、真夏日は760地点程度、夏日は895地点程度と見積もられています。

 全国的に厳しい暑さは、8月21日も続く見込みです。

熱中症警戒アラート

 熱中症は暑さだけでなく、湿度などとも関係しています。

 このため、熱中症対策に使われているのは、「暑さ指数(WBGT:wet-bulb globe temperature)」です。

 「暑さ指数」は、気温だけでなく、湿度、日射・建物や地面からの照り返し(輻射)などの熱も取り入れた数値であり、湿度7:輻射熱2:気温1の割合で算出されるように、湿度の高さが重要な要素となっています。

 具体的には、次の式で表されます。

屋外:「暑さ指数(WBGT)」=0.7×湿球温度+0.2×黒球温度+0.1×乾球温度(気温)

屋内:「暑さ指数(WBGT)」=0.7×湿球温度+0.3×黒球温度

 ここで、感部を布でおおって湿らせた布で感部をおおった湿球温度計で求めた温度が湿球温度です。

 空気が乾いていればいるほど蒸発熱を奪われて気温(乾球温度計で求めた温度)との差が大きくなります。

 黒球温度は、輻射熱を測るため、黒色に塗装された薄い銅板の球の中心に温度センサーを入れた黒球温度計で測る温度です。

 「暑さ指数」の利用上の目安として、33以上:極めて危険、31以上~33未満:危険、28以上~31未満:厳重警戒、25以上~28未満:警戒、25未満:注意となっています。

 環境省と気象庁は、熱中症で救急搬送される人を減らそうと令和2年(2020年)7月から関東甲信で始めたのが「熱中症警戒アラート」で、令和3年(2021年)から全国で広がりました。

 「熱中症警戒アラート」の発表基準となっているのは、暑さ指数33以上の「極めて危険」であるときで、前日17時と当日5時に発表となります。

 熱中症警戒アラートは、注意喚起の情報であり、当日5時に気温が低くなる予報となっても、前日の予報は取り消されませんので、当日5時の発表は同じか、それ以上ということになります。

 8月21日の前日予報では、東北から東日本、西日本の33地域に発表となっています。

熱中症警戒アラートの発表地域(8月21日の前日予報)

【東北】岩手、福島

【関東・甲信】群馬、千葉、神奈川、山梨

【東海】静岡、愛知、岐阜、三重

【北陸】新潟、石川、福井

【近畿】滋賀、京都、大阪、兵庫、和歌山

【中国】岡山、広島、島根、鳥取

【四国】香川、愛媛、高知

【九州北部(山口県を含む)】山口、福岡、大分、長崎、佐賀、熊本

【九州南部・奄美】鹿児島(奄美地方を除く)

【沖縄】沖縄(沖縄本島地方)

 令和5年(2023年)の熱中症警戒アラートの発表件数(前日17時と当日5時の発表をまとめて1回として集計)は、7月の前半までは昨年、令和4年(2022年)より少ない発表回数で推移していたのですが、7月27日に前年を抜いています(図5)。

図5 熱中症警戒アラートの発表回数の累計(令和4年(2022年)と令和5年(2023年))
図5 熱中症警戒アラートの発表回数の累計(令和4年(2022年)と令和5年(2023年))

 そして、以後は差を広げて、8月19日の前日予報で累計が890となり、昨年の発表回数の年間累計である889地域を超え、21日の前日予報で968地域となっています。

 熱中症が問題となった昨年以上のペースで熱中症警戒アラートが発表となっていますので、引き続き、熱中症対策をお願いします。

東京都心の猛暑日

 東京(東京都心)の最高気温は、6月末から35度に迫るようになり、7月10日に今年初の猛暑日となっています。

 以後、8月20日までに猛暑日は21日となっており、昨年、令和4年(2022年)に記録した16日という記録を大幅に更新中です。

 そして、今の所、猛暑日の年間日数を26日まで記録を伸ばすという予報になっています(図6)。

図6 東京の最高気温と最低気温の推移(8月21日~27日は気象庁、8月28日~9月5日はウェザーマップの予報)
図6 東京の最高気温と最低気温の推移(8月21日~27日は気象庁、8月28日~9月5日はウェザーマップの予報)

 東京都心の今年の最高気温は、7月26日の37.7度です。

 また、夜間の最低気温が25度以上の熱帯夜(統計上は1日の最低気温の日を熱帯夜として扱う)は、8月2日以降連続しており、予報の出ている9月5日まで連続する予報です。

 最高気温、最低気温ともにほとんどが平年より高く、たまに下がって平年並みです。

日本の南海上の熱帯低気圧

 小笠原諸島付近には熱帯低気圧があり、日本の南海上を西進しています。

 熱帯低気圧周辺の海面水温は、台風発生・発達の目安となる27度より高い28度くらいと、台風に発達する可能性もありますが、周辺には発達した積乱雲が少なく、すぐに台風に発達する可能性は低いと考えられます(図7)。

図7 日本の南海上の熱帯低気圧の雲と地上天気図(8月20日15時)
図7 日本の南海上の熱帯低気圧の雲と地上天気図(8月20日15時)

 ただ、熱帯低気圧周辺の熱帯由来の暖かくて湿った空気が流れこむため、8月22日(火)ごろから東日本や西日本の太平洋側は雨が降りやすくなり、四国や九州を中心に雨脚の強まる所がありそうです。

 熱帯低気圧が台風9号になるなど、場合によっては、大雨になるかもしれませんので、気象情報に注意してください。

 今週は、雨が降りやすい西日本を中心に、極端な暑さは和らぐものの、湿度が高くて蒸し暑いという熱中症になりやすい状態は続く見込みです。

 引き続き暑さ対策を継続し、体調を崩さないように気をつけてください。

タイトル画像、図1、図4、図7の出典:ウェザーマップ提供。

図2 の出典:気象庁ホームページ。

図3の出典:ウェザーマップ提供資料をもとに筆者作成。

図5の出典:環境省ホームページをもとに筆者作成。

図6の出典:気象庁ホームページとウェザーマップ提供資料をもとに筆者作成。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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