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厳しい残暑をもたらしている太平洋高気圧の南の積乱雲の塊、そのすこし北に熱帯低気圧の渦

饒村曜気象予報士
日本の南海上の熱帯低気圧の雲(白バツ印は熱帯低気圧の位置、8月19日15時)

台風7号通過後の暖湿気流入

 台風一過という言葉がありますが、これは秋台風に対してのもので、夏台風は通過後も南から暖湿気が入ることから大気が不安定になります。

 令和5年(2023年)8月15日(火)午前5時前に台風7号が和歌山県潮岬付近に上陸した台風7号の場合も、南から暖湿気流が流入し、17日は四国を中心に200ミリ以上の大雨、18日は宮崎県を中心に200ミリ以上の大雨となりました。

 8月19日も、南から暖かくて湿った空気の流入によって、大気が不安定となり、東北から九州まで、所により50~90ミリの雨が降りました(図1)。

図1 24時間降水量(8月19日0時~24時)
図1 24時間降水量(8月19日0時~24時)

 大気が不安定なことによる雨は局地的で、関東から東北南部を中心に、晴れて気温が上昇しているところが多くなっています。

 しかし、日本の南海上には台風9号が発生する兆しがあります。

 8月19日の気象衛星画像をみると、日本の南海上では発達した積乱雲が次々に発生し、3か所程度にまとまりつつあります。

 そして、この雲の塊の少し北に熱帯低気圧の渦があります(タイトル画像)。

 ただ、この熱帯低気圧の周辺には発達した積乱雲はまだなく、台風8号に発達するかどうかわかりませんが、台風に発達するにしても時間が少しかかりそうです(図2)。

図2 地上天気図(8月19日15時)と予想天気図(8月21日9時の予想)
図2 地上天気図(8月19日15時)と予想天気図(8月21日9時の予想)

猛暑継続

 8月19日に全国で最高気温35度以上の猛暑日を観測したのが137地点(全国で気温を観測している914地点の約15パーセント)、最高気温30度以上の真夏日を観測したのが758地点(約83パーセント)、最高気温25度以上の夏日を観測したのが905地点(約99パーセント)でした(図3)。

図3 夏日、真夏日、猛暑日の観測地点数の推移(5月1日~8月19日)
図3 夏日、真夏日、猛暑日の観測地点数の推移(5月1日~8月19日)

 今年、一番多くの猛暑日を観測したのが8月3日の290地点(約32パーセント)、一番多くの真夏日を観測したのが7月29日の847地点(約93パーセント)、一番多くの夏日を観測したのが912地点(約100パーセント)ですから、これに比べれば、観測した地点数は減っていますが、高い数値であることには変わりがありません。

 8月20日も、関東平野や濃尾平野、大阪平野を中心に気温が高くなり、岐阜では38度、東京都心、名古屋、大津、京都、大阪、奈良で最高気温が37度の猛暑日の予報です。

 また、猛暑日は全国の155地点程度、真夏日は705地点程度、夏日は900地点程度と見積もられています(図4)。

図4 最高気温の予想の分布(8月20日)
図4 最高気温の予想の分布(8月20日)

熱中症警戒アラート

 熱中症は暑さだけでなく、湿度などとも関係しています。

 このため、熱中症対策に使われているのは、「暑さ指数(WBGT:wet-bulb globe temperature)」です。

 「暑さ指数」は、気温だけでなく、湿度、日射・建物や地面からの照り返し(輻射)などの熱も取り入れた数値であり、湿度7:輻射熱2:気温1の割合で算出されるように、湿度の高さが重要な要素となっています。

 具体的には、次の式で表されます。

屋外:「暑さ指数(WBGT)」=0.7×湿球温度+0.2×黒球温度+0.1×乾球温度(気温)

屋内:「暑さ指数(WBGT)」=0.7×湿球温度+0.3×黒球温度

 ここで、感部を布でおおって湿らせた湿球温度計で求めた温度が湿球温度です。

 空気が乾いていればいるほど蒸発熱を奪われて気温(乾球温度計で求めた温度)との差が大きくなります。

 黒球温度は、輻射熱を測るため、黒色に塗装された薄い銅板の球の中心に温度センサーを入れた黒球温度計で測る温度です。

 「暑さ指数」の利用上の目安として、33以上:極めて危険、31以上~33未満:危険、28以上~31未満:厳重警戒、25以上~28未満:警戒、25未満:注意となっています。

 環境省と気象庁は、熱中症で救急搬送される人を減らそうと令和2年(2020年)7月から関東甲信で始めたのが「熱中症警戒アラート」で、令和3年(2021年)から全国で広がりました。

 「熱中症警戒アラート」の発表基準となっているのは、暑さ指数33以上の「極めて危険」であるときで、前日17時と当日5時に発表となります。

 8月20日の前日予報では、東北から東日本、西日本の36地域に発表となっていますが、当日発表では、さらに増え、8月5日の41地域という今年の最多記録に迫るかもしれません。

熱中症警戒アラートの発表地域(8月20日の前日予報)

【東北】岩手、福島

【関東・甲信】群馬、埼玉、東京、神奈川

【東海】静岡、愛知、岐阜、三重

【北陸】新潟、富山、石川、福井

【近畿】滋賀、京都、大阪、兵庫、奈良、和歌山

【中国】岡山、広島、島根、鳥取

【四国】徳島、香川、愛媛、高知

【九州北部(山口県を含む)】山口、福岡、大分、長崎、熊本

【九州南部・奄美】宮崎、鹿児島(奄美地方を除く)、鹿児島(奄美地方)

 令和5年(2023年)の熱中症警戒アラートの発表件数(前日17時と当日5時の発表をまとめて1回として集計)は、7月の前半までは前年、令和4年(2022年)より少ない発表回数で推移していたのですが、7月27日に前年を抜いています(図5)。

図5 熱中症警戒アラートの発表回数の累計(令和4年(2022年)と令和5年(2023年))
図5 熱中症警戒アラートの発表回数の累計(令和4年(2022年)と令和5年(2023年))

 そして、以後は差を広げて、8月19日の前日予報で累計が890となり、前年の発表回数の年間累計である889地域を超えています。

 熱中症が問題となった前年以上のペースで熱中症警戒アラートが発表となっていますので、引き続き、熱中症対策をお願いします。

各地の天気予報

 各地の天気予報をみても、晴れの日が続き、猛暑日の予報が多くなっています(図6)。

図6 各地の天気予報(8月20日~26日は気象庁、27日以降はウェザーマップの予報で、数字はともに最高気温)
図6 各地の天気予報(8月20日~26日は気象庁、27日以降はウェザーマップの予報で、数字はともに最高気温)

 東京では、8月20日から26日まで7日間連続で猛暑の予想です。

 なお、8月23日から24日に東海から西日本の太平洋側で傘マークがついているのは、ひょっとしたら、日本の南海上を西進する熱帯低気圧周辺の雨雲によるのかもしれません。

 熱中症に対する長期間の対策に加えて、日本の南の海にも注意が必要になってきました。

タイトル画像、図1、図4、図6の出典:ウェザーマップ提供。

図2の出典:気象庁ホームページ。

図3の出典:ウェザーマップ提供資料をもとに筆者作成。

図5の出典:環境省ホームページをもとに筆者作成。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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