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熱帯低気圧のような低気圧が東シナ海を北上・日本の南には台風9号発生の兆し、そして再びの猛暑

饒村曜気象予報士
南シナ海を北上中の雲の渦と宮崎県の南北に伸びる雨雲(8月18日12時)

夏台風である台風7号の通過後

 令和5年(2023年)8月8日(火)9時に、南鳥島近海で発生した台風7号は、1週間後の15日(火)午前5時前に和歌山県潮岬付近に上陸しました。

 上陸後は自転車並みの速度で近畿を縦断し、長時間にわたって東海から近畿地方を暴風雨に巻き込み、各地に大きな被害をもたらしました。

 また、多くの人が移動するお盆の時期であったことから、相次いだ航空機の欠航や、東海道新幹線と山陽新幹線が一時全線で運休となる交通機関の混乱は大きな影響をあたえました。

 台風一過という言葉がありますが、これは秋台風に対してのもので、夏台風は通過後も南から暖湿気が入ることから大気が不安定になります。

 台風7号の場合も、南から暖湿気流が流入し、8月17日は四国を中心に200ミリ以上の大雨となり、18日は宮崎県を中心に200ミリ以上の雨が降りました(図1)。

図1 24時間降水量(8月18日0時~24時)
図1 24時間降水量(8月18日0時~24時)

 8月18日の気象衛星画像をみると、東シナ海を熱帯低気圧のような雲の渦が北上し、この渦を回るように暖かくて湿った空気がぶつかる九州山地の風上側、つまり宮崎県付近では発達した雨雲が発生しています(タイトル画像)。

 大気が不安定なことによる雨は局地的で、関東から東北南部を中心に、晴れて気温が上昇しているところが多くなっています。

 しかし、日本の南海上には台風9号が発生する兆しがあります。

増えてきた雲の塊と熱帯低気圧

 日本の南海上では発達した積乱雲が増えてきており、3か所程度にまとまりつつあります(図2)。

図2 日本の南の3つの雲の塊(8月18日15時)
図2 日本の南の3つの雲の塊(8月18日15時)

 そして、一番東側の雲の塊の中から雲の渦ができ、熱帯低気圧が発生して西進する見込みです(図3)。

図3 予想天気図(8月20日9時の予想)
図3 予想天気図(8月20日9時の予想)

 この熱帯低気圧が、台風9号に発達する可能性もあります。

猛暑再び

 8月18日に全国で最高気温35度以上の猛暑日を観測したのが78地点(全国で気温を観測している914地点の約9パーセント)、最高気温30度以上の真夏日を観測したのが625地点(約68パーセント)でした(図4)。

図4 夏日、真夏日、猛暑日の観測地点数の推移(5月1日~8月18日)
図4 夏日、真夏日、猛暑日の観測地点数の推移(5月1日~8月18日)

 今年、一番多くの猛暑日を観測したのが8月3日の290地点(約32パーセント)、一番多くの真夏日を観測したのが7月29日の847地点(約93パーセント)ですから、これに比べれば、観測した地点数は減っていますが、高い数値であることには変わりがありません。

 また、最高気温25度以上の夏日を観測したのが912地点(約100パーセント)と、7月28日の911地点(約100パーセント)を抜いて今年最多でした。

 夏日にはならなかったのは、北海道北部の礼文と沓形の2地点だけでした。

 8月19日も、関東平野や濃尾平野を中心に気温が高くなり、さいたま、熊谷、名古屋、岐阜、京都で最高気温の予報が37度の猛暑日の予報です。

 東京都心でも36度の予想で、猛暑日は全国で85地点程度、真夏日は720地点程度、夏日は900地点程度と見積もられています(図5)。

図5 最高気温の予想の分布(8月19日)
図5 最高気温の予想の分布(8月19日)

熱中症警戒アラート

 熱中症は暑さだけでなく、湿度などとも関係しています。

 このため、熱中症対策に使われているのは、「暑さ指数(WBGT:wet-bulb globe temperature)」です。

 「暑さ指数」は、気温だけでなく、湿度、日射・建物や地面からの照り返し(輻射)などの熱も取り入れた数値であり、湿度7:輻射熱2:気温1の割合で算出されるように、湿度の高さが重要な要素となっています。

 具体的には、次の式で表されます。

屋外:「暑さ指数(WBGT)」=0.7×湿球温度+0.2×黒球温度+0.1×乾球温度(気温)

屋内:「暑さ指数(WBGT)」=0.7×湿球温度+0.3×黒球温度

 ここで、感部を布でおおって湿らせた布で感部をおおった湿球温度計で求めた温度が湿球温度です。

 空気が乾いていればいるほど蒸発熱を奪われて気温(乾球温度計で求めた温度)との差が大きくなります。

 黒球温度は、輻射熱を測るため、黒色に塗装された薄い銅板の球の中心に温度センサーを入れた黒球温度計で測る温度です。

 「暑さ指数」の利用上の目安として、33以上:極めて危険、31以上~33未満:危険、28以上~31未満:厳重警戒、25以上~28未満:警戒、25未満:注意となっています。

 環境省と気象庁は、熱中症で救急搬送される人を減らそうと令和2年(2020年)7月から関東甲信で始めたのが「熱中症警戒アラート」で、令和3年(2021年)から全国で広がりました。

 「熱中症警戒アラート」の発表基準となっているのは、暑さ指数33以上の「極めて危険」であるときで、前日17時と当日5時に発表となります。

 8月19日の前日予報では、関東から東海、西日本・沖縄の28地域に発表となっていますが、当日発表では、さらに増えると思われます。

熱中症警戒アラートの発表地域(8月19日の前日予報)

【関東・甲信】群馬、埼玉、東京、千葉、神奈川、長野、山梨

【東海】静岡、愛知、岐阜、三重

【北陸】福井

【近畿】滋賀、京都、和歌山

【中国】広島、島根

【四国】香川、愛媛、高知

【九州北部(山口県を含む)】福岡、大分、長崎、熊本

【九州南部・奄美】宮崎、鹿児島(奄美地方を除く)、鹿児島(奄美地方)

【沖縄】沖縄(沖縄本島地方)

 令和5年(2023年)の熱中症警戒アラートの発表件数(前日17時と当日5時の発表をまとめて1回として集計)は、7月の前半までは前年、令和4年(2022年)より少ない発表回数で推移していたのですが、7月27日に前年を抜いています(図6)。

図6 熱中症警戒アラートの発表回数の累計(令和4年(2022年)と令和5年(2023年))
図6 熱中症警戒アラートの発表回数の累計(令和4年(2022年)と令和5年(2023年))

 そして、以後は差を広げて、8月19日の前日予報で累計が890となり、前年の発表回数の年間累計である889地域を超えています。

 熱中症が問題となった前年以上のペースで熱中症警戒アラートが発表となっていますので、引き続き、熱中症対策をお願いします。

各地の天気予報

 各地の天気予報をみても、晴れの日が続き、猛暑日の予報が多くなっています(図7)。

図7 各地の天気予報(8月19日~25日は気象庁、26日以降はウェザーマップの予報で、数字はともに最高気温)
図7 各地の天気予報(8月19日~25日は気象庁、26日以降はウェザーマップの予報で、数字はともに最高気温)

 東京では、8月19日から25日まで7日間連続で猛暑日の予想です。

 なお、8月23日から24日に東海から西日本の太平洋側で傘マークがついているのは、ひょっとしたら、20日に発生するかもしれない熱帯低気圧周辺の雨雲によるのかもしれません。

 熱中症に対する長期間の対策に加えて、日本の南の海にも注意が必要になってきました。。

タイトル画像、図1、図2、図5、図7の出典:ウェザーマップ提供。

図3の出典:気象庁ホームページ。

図4の出典:ウェザーマップ提供資料をもとに筆者作成。

図6の出典:環境省ホームページをもとに筆者作成。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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