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沖縄を暴風雨に巻き込んでいる台風6号が来週半ばに西日本上陸か 記録的な高温から例年の真夏の暑さに

饒村曜気象予報士
沖縄近海の台風6号の円形の雲と日本の南の雲の塊(8月4日15時)

記録的な暑さ

 令和5年(2023年)は、7月末から太平洋高気圧の強まりによって記録的な暑さとなっています。

 8月にはいると、太平洋高気圧が少し弱まってきましたが、西~北日本は太平洋高気圧に覆われて晴れる所が多く、強い日射によって気温が上昇した日が続いています。

 8月4日に全国で最高気温35度以上の猛暑日を観測したのが290地点(全国で気温を観測している914地点の約32パーセント)と今年最多でした(図1)。

図1 夏日、真夏日、猛暑日の観測地点数の推移(4月1日~8月4日)
図1 夏日、真夏日、猛暑日の観測地点数の推移(4月1日~8月4日)

 また、最高気温30度以上の真夏日を観測したのが780地点(約85パーセント)、最高気温25度以上の夏日を観測したのが903地点(約99パーセント)でした。

 今年、一番多くの真夏日を観測した7月29日の847地点(約93パーセント)、一番多くの夏日を観測した7月28日の911地点(約100パーセント)には及びませんでしたが、真夏日、夏日ともに高い値であることには変わりがありません。

 8月5日も、埼玉県・熊谷、福井県・福井、兵庫県・豊岡、鳥取県・鳥取、福岡県・久留米、佐賀県・佐賀で最高気温38度の予報となっており、全国で猛暑日は220地点程度、真夏日は685地点程度、夏日は800地点程度を観測すると予想されています(図2)。

図2 予想最高気温の分布(8月5日の予想)
図2 予想最高気温の分布(8月5日の予想)

 台風6号周辺の雨雲がかかる西日本の太平洋側で猛暑日や真夏日が観測されなくなり、前線が停滞して雨となる北海道で夏日が観測されなくなることから、前日より観測地点数は減っています。

東京の猛暑日と熱帯夜

 令和5年(2023年)の東京は、猛暑日を7月末までの13日と、8月3日と4日に観測しています。

 東京で猛暑日が一番多かったのは、令和4年(2022年)の16日ですので、予報通りに8月5日も猛暑日になれば、猛暑日の日数が16日となりタイ記録となります(図3)。

図3 東京の最高気温と最低気温の推移(8月5日~11日は気象庁、8月12日~20日はウェザーマップの予報)
図3 東京の最高気温と最低気温の推移(8月5日~11日は気象庁、8月12日~20日はウェザーマップの予報)

【追記(8月5日12時30分)】

 東京では、8月5日午前中に気温が35度を超え、今年の猛暑日が16日と、過去最多タイとなりました。

 ただ、8月6日以降は、平年より気温が高い予報の日が多いものの、猛暑日は予報されていませんので、しばらくはタイ記録のままです。

 また、最低気温は、8月3日から予報が発表されている8月20日まで18日連続で25度以上の予報です。

 今年は、8月20日までで、熱帯夜は34日になりそうです。

熱中症警戒アラート

 熱中症は暑さだけでなく、湿度などとも関係しています。

 このため、熱中症対策に使われているのは、「暑さ指数(WBGT:wet-bulb globe temperature)」です。

 「暑さ指数」は、気温だけでなく、湿度、日射・建物や地面からの照り返し(輻射)などの熱も取り入れた数値であり、湿度7:輻射熱2:気温1の割合で算出されるように、湿度の高さが重要な要素となっています。

 「暑さ指数」の利用上の目安として、33以上:極めて危険、31以上~33未満:危険、28以上~31未満:厳重警戒、25以上~28未満:警戒、25未満:注意となっています。

 環境省と気象庁が、熱中症で救急搬送される人を減らそうと令和2年(2020年)7月から関東甲信で始めたのが「熱中症警戒アラート」で、令和3年(2021年)から全国で広がりました。

 「熱中症警戒アラート」の発表基準となっているのは、暑さ指数33以上の「極めて危険」であるときで、前日17時と当日5時に発表となります。

 8月5日の前日予報では、35地域に発表となっていますが、当日発表ではさらに増えて、今年最多の7月28日の40地域に迫るかもしれません。

熱中症警戒アラートの発表地域(8月5日の前日予報)

【東北】岩手、宮城、山形、福島

【関東・甲信】群馬、埼玉、東京、千葉、神奈川

【東海】静岡、愛知、三重

【北陸】新潟、富山、石川、福井

【近畿】滋賀、京都、大阪、兵庫、奈良、和歌山

【中国】岡山、広島、島根、鳥取

【四国】徳島、香川、愛媛、高知

【九州北部(山口県を含む)】山口、福岡、長崎、佐賀、熊本

【追記(8月5日10時30分)】

 熱中症警戒アラートは、8月5日の当日発表で、41地域となり、今年最多となりました。

 令和5年(2023年)の熱中症警戒アラートの発表件数(前日17時と当日5時の発表を地域ごとにまとめて1回として集計)の増加傾向は、前年、令和4年(2022年)に比べて、半月ほど遅く推移していたのですが、7月中旬から急増し、7月27日には前年を抜き、その後は昨年以上のペースで増えています(図4)。

図4 熱中症警戒アラートの発表回数の累計(令和4年(2022年)と令和5年(2023年))
図4 熱中症警戒アラートの発表回数の累計(令和4年(2022年)と令和5年(2023年))

 ただ、記録的な猛暑をもたらしている日本上空の太平洋高気圧は勢力が強いものの、その周辺では勢力が少し弱くなってきました。

 記録的な猛暑は、8月5日でひとまず終わり、その後は例年の盛夏の暑さの見込みです。

太平洋高気圧と台風6号の動き

 東シナ海で速度を落としていた台風6号は、太平洋高気圧の弱まりとともに東進をはじめ、沖縄本島と鹿児島県奄美大島の間を通過し、日本の南海上に進む見込みです。

 台風が長時間にわたって海面をかき混ぜた結果、深海から冷たい海水を湧昇させたため、台風6号周辺の海面水温は、台風が発達する目安とされる海面水温27度を下回っています(図5)。

図5 台風6号の進路予報と海面水温(8月5日3時)
図5 台風6号の進路予報と海面水温(8月5日3時)

 しかし、台風が海面水温の高い海域に動き始めたことにより、強い勢力を保ったまま日本の南海上に進む見込みです。

 そして、来週半ばの8日~9日には西日本に上陸の予報となっています。

 気象庁の台風進路予報の精度は、年々向上しており、今年から予報円の大きさが従来より絞り込まれ、3~5日先の予報円の半径は最大4割も小さくなっています。また、暴風警戒域の範囲も絞り込まれています。

 沖縄を襲っている台風6号の予報円や暴風警戒域は、絞り込まれているといっても、かなりの大きさです。それだけ予報が難しい台風です。

 沖縄近海で8月に台風の速度が遅くなるのは、それほど珍しいことではありません。

 筆者の昔の調査によると、8月の台風の平均移動速度は、九州の南から沖縄近海の広い範囲で時速18キロ以下と、周辺に比べて遅くなっています(図6)。

図6 台風の平均速度(8月)
図6 台風の平均速度(8月)

 台風6号の進路予報のように、台風が動き出したといっても速度がそれほど上がらないというのは、統計的にもでています。

 速度が遅い台風は、同じ場所に長期間にわたって強い雨を降らせ続けます。速度が遅いというだけで台風6号は危険な台風なのです。

 それだけではありません。

 沖縄近海に台風6号の雲の塊があって動きが遅いのですが、その東側の日本の南海上にも雲の塊があって北上しています(図7)。

図7 動きの遅い台風6号の円形の雲と日本の南を北上している雲の塊(8月2日~4日)
図7 動きの遅い台風6号の円形の雲と日本の南を北上している雲の塊(8月2日~4日)

 熱帯低気圧まで発達はしませんでしたが、熱帯の海上から多量の水蒸気を持ち込んでいる雲の塊です。

 南西諸島では、台風6号に対して、引き続き厳重な警戒が必要ですが、台風から少し離れている西日本でも、この雲の塊による大雨に警戒が必要です。

 しかも、勢力を取り戻した太平洋高気圧の縁辺をまわるように台風6号が接近し、この雲の塊による大雨が降った地域に、台風本体の雨が加わって記録的な大雨となる可能性があります。

 今週末から来週前半は、猛暑と台風6号に対して厳重な警戒が必要です。

タイトル画像、図2、図5の出典:ウェザーマップ提供。

図1、図7の出典:ウェザーマップ提供資料をもとに筆者作成。

図3の出典:気象庁ホームページとウェザーマップ提供資料をもとに筆者作成。

図4の出典:環境省ホームページをもとに筆者作成。

図6の出典:「饒村曜(昭和55年(1980年))、台風に関する諸統計(進行速度)、研究時報、気象庁」に筆者加筆。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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