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沖縄奄美で梅雨明け 九州・四国~本州は雨の日が多い本格的な梅雨の期間の「山開き」と98年前の情報提供

饒村曜気象予報士
山開き(提供:イメージマート)

沖縄で梅雨明けと梅雨前線の一気の北上

 令和5年(2023年)6月25日は、沖縄地方で平年より4日遅く梅雨明けとなりました。

 また、鹿児島県奄美地方も晴れの日が続く予報ですので、6月26日にも梅雨明けになる見込みです。

【追記(6月26日13時)】

 気象庁は、6月26日11時に鹿児島県奄美地方が梅雨明けしたと見られると発表しました。これで、南西諸島が梅雨明けとなりました。

 これは、梅雨前線が北上したことからですが、逆に、梅雨前線が近くに停滞することになる九州・四国から本州は、雨の日が多い本格的な梅雨となります(図1)。

図1 各地の週間天気予報(数字は最高気温)
図1 各地の週間天気予報(数字は最高気温)

 多くの年は、沖縄・奄美地方で梅雨明けをするときに北上した梅雨前線は、本州南岸で停滞することが多いのですが、今年は日本海までどんどん北上する見込みです(図2)。

図2 予想天気図(左は6月26日9時の予想、右は6月27日9時の予想)
図2 予想天気図(左は6月26日9時の予想、右は6月27日9時の予想)

 このように前線が日本海に一気に北上する場合、関東地方を中心に雨量は増えないことが多く、今回も、6月26日から27日朝にかけての雨量は一番多い山陰地方で50~80ミリ程度の雨と考えられています(図3)。

図3 36時間予想降水量(6月25日18時~27日6時の36時間予想)
図3 36時間予想降水量(6月25日18時~27日6時の36時間予想)

 図1の各地の週間天気予報をみると、全てで最高気温が25度以上の夏日であり、札幌も含めて最高気温が30度以上の真夏日が目立つ予報となっています。

 今年は、約40日前の5月17日に夏日が712地点(気温を観測している全国915地点の約78パーセント)、真夏日が299地点(約33パーセント)で猛暑日が1地点、5月18日に真夏日が282地点(約31パーセント)で猛暑日が6地点という暑さになったのが今年一番の暑さでした(図4)。

図4 夏日と真夏日の観測地点数の推移(令和5年4月1日~6月25日)
図4 夏日と真夏日の観測地点数の推移(令和5年4月1日~6月25日)

 6月25日は真夏日が131地点(約14パーセント)、夏日が706地点(約77パーセント)でしたが、今後は、5月の今年一番の暑さや、夏日が753地点(約82パーセント)となった6月17日を上回る日が続きそうです。

 しかも、これまでは湿度が低く、日照があると気温が高くなっていましたが、これからは、湿度が高く、しかも日照がなくても、雨であっても気温が高くなるという暑さとなる見込みです。

 湿度が高いときの暑さは、熱中症になりやすいことから、今まで以上に暑さに対する警戒が必要です。

「山開きの日」と「山の日」

 「山開き」とは、その年に初めて登山が許される行事をいいます。

 山開きはもともと、修験者や山伏など一部の人しか立ち入ることのできない山に、一定の期間のみ一般の人間の入山を許可することを、山の神様にお伺いを立てる儀式といわれています。

 山開きは、山によって時期が異なり、3月末から7月頃に各地で執り行われますが、富士山など、7月1日前後に山開きを行う山が少なくありません。

【7月1日頃の主な山開き】

鳥海山(山形・秋田県) 7月1日

月山(山形県) 7月1日

岩手山(岩手県) 7月1日

飯豊山(福島・山形・新潟県) 7月の第1土曜日

八海山(新潟県)  6月最終日曜日

妙高山(新潟県)  6月30日~7月1日

谷川岳(群馬・新潟県) 7月上旬

富士山(山梨・静岡県) 山梨県側7月1日、静岡県側7月10日

扇ノ山(鳥取・兵庫県) 7月上旬

石槌山(愛媛県) 7月1日~11日

 これは、旧暦の7月1日に山開きが行われていたことの踏襲ですが、旧暦なら梅雨明け後です。

 太平洋高気圧に覆われて夏山登山に適している日が多い頃の山開きでした。

 「山の日」は8月11日ですので、梅雨明け後の夏山登山に適している可能性が高いのですが、新暦の7月1日頃の山開きとなると、多くの地方では梅雨の最中です。

 最新の気象情報の入手に努め、山開きに臨むことになります。

 登山者に対する気象情報の提供は、かなり昔から行われています。

登山者への気象情報は98年前から

 鉄道事業は、様々な面で気象と関係を持っており、気象庁と鉄道各社間で一般向けよりも細かく、スピーディに情報のやり取りが行われています。

 鉄道各社は、気象庁の発表する各種の警報や注意報に、沿線各所にある独自の観測データ等も加えて運転規制を行い、列車の安全を確保します。

 また、気象庁は鉄道各社の観測データを使い、より正確な情報提供に努めています。これが鉄道気象通報の中心です。

 昭和初期、鉄道省東京鉄道局(国鉄をへて現JR)では登山客のために中央線や信越線等に臨時電車を運転していますが、昭和5年からは夏の登山列車の中で天気予報を伝えています。

 中央気象台(現気象庁)と連絡を取り、天気予報を鉄道電話によって列車の通過する各駅に通告し、列車の車掌は駅から情報を得て車内放送するというもので、登山コースの変更や不慮の災難を脱するのに使えると期待されていました(図5)。

図5 昭和5年6月25日の東京朝日新聞(登山列車に天気予報)
図5 昭和5年6月25日の東京朝日新聞(登山列車に天気予報)

 これが鉄道気象通報の始まりと考えられますが、鉄道気象通報が本格的に創設されたのは昭和9年の室戸台風がきっかけです。

 9月22日に四国の室戸岬に上陸した室戸台風は、風が非常に強く、死者・行方不明3086名という大惨事を引き起こしていますが、滋賀県の東海道本線瀬田川橋梁上で、東京発下関行の特急列車が転覆し、11名が死亡しています。

 一定の風速以上の強い風が予想されている場合は、列車の運転を見直すことで事故が防げると考えられ、「出す側」ではなく「聞く側」で気象通報が考えられました(図6)。

図6 室戸台風後の鉄道事故対策を伝える大阪毎日新聞(昭和9年9月27日)
図6 室戸台風後の鉄道事故対策を伝える大阪毎日新聞(昭和9年9月27日)

 室戸台風以降も、自然災害による列車事故が続きますが、その都度、その教訓を取り入れた見直しが行われてきました。

 そして、現在では、列車の安全のための情報や登山者に対する情報等、精度の高い各種情報が、色々なルートで提供されています。

図1、図3の出典:ウェザーマップ提供。

図2の出典:気象庁ホームページ。

図4の出典:ウェザーマップ提供資料をもとに筆者作成。

図5の出典:東京朝日新聞。

図6の出典:大阪毎日新聞。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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