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台風2号が発達してマリアナ諸島を北上 梅雨入りした沖繩は台風と前線の危険な組み合わせの可能性も

饒村曜気象予報士
南西諸島の前線の雲(左上)とカロリン諸島の台風2号の雲(右下、5月21日15時)

記録的な猛暑一服

 令和5年(2023年)5月17日は、日本は南の高気圧に覆われ、南高北低という真夏に多い気圧配置となりました。

 このため、高気圧の縁に沿って暖かくて湿った空気が流入し、九州~東北では広い範囲で晴れ、日射によって各地で気温が上昇し、今年一番の暑さとなりました。

 最高気温が25度以上の夏日となったのが、712地点(気温を観測している全国の915地点の約78パーセント)、30度以上の真夏日は299地点(約33パーセント)もありました(図1)。

図1 真夏日・夏日と冬日の観測地点数の推移(令和5年3月1日~5月21日)
図1 真夏日・夏日と冬日の観測地点数の推移(令和5年3月1日~5月21日)

 そして、岐阜県の揖斐川では最高気温35.1度を観測し、全国で今年初めて35度以上の猛暑日となりました。

 5月18日も、日本の南海にある高気圧の移動はゆっくりであったため、東日本から北日本では厳しい暑さとなり、夏日や真夏日の観測地点数は前日に及ばなかったものの、最高気温が35度以上という猛暑日は、6地点もありました。

5月17日の猛暑日 岐阜県の揖斐川最高気温35.1度(以下数字は日最高気温)

5月18日の猛暑日 福島県の梁川36.2度、福島35.4度

    群馬県の伊勢崎35.1度、館林35.0度

    埼玉県の熊谷35.0度、鳩山35.0度

 5月としては季節外れの猛暑も、本州の南海上を低気圧が通過した影響で雨が降り、5月19日には平年並みの気温となっています。

 そして、5月20日以降は、記録的な猛暑ではありませんが、気温は高めに推移し、夏日を観測した地点数が増えています。

 5月22日は、低気圧の影響で北日本は雲が広がり、北海道を中心に雨や雷雨となるでしょう(図2)。

図2 予想天気図(5月22日21時の予想)
図2 予想天気図(5月22日21時の予想)

 西~東日本は概ね晴れますが、低気圧が南岸を通過する影響で、午後は所によりにわか雨や雷雨となり、関東では雷を伴った激しい雨の降る所もありそうです。

 一方、5月18日に梅雨入りした沖縄地方と鹿児島県奄美地方には前線(梅雨前線)があるため、くもりや雨となるでしょう(表)。

表1 令和5年(2023年)の梅雨入り
表1 令和5年(2023年)の梅雨入り

台風2号が発達しながら北上

 令和5年(2023年)は、台風発生のペースが遅れていましたが、5月20日15時にカロリン諸島で台風2号が発生しました(表2)。

表2 令和5年(2023年)の台風発生数と、台風に関する各種の平年値
表2 令和5年(2023年)の台風発生数と、台風に関する各種の平年値

 カロリン諸島近海は、台風が発達する目安となる海面水温27度を大きく上回る29度です。

 このため、強い勢力に発達してマリアナ諸島のグアム島に接近し、その後、非常に強い勢力でフィリピンの東海上に進む見込みです(図3)。

図3 台風2号の進路予報(5月21日21時)
図3 台風2号の進路予報(5月21日21時)

 気象庁の台風進路予報は5日先までですが、筆者が昔調べた統計的調査では、5月の台風の中には東経140度線付近を北上して小笠原諸島に接近するものと、フィリピンの東海上から北上して沖縄地方に接近するもの、南シナ海を西進して中国大陸に上陸するものがあります(図4)。

図4 5月の台風の平均経路
図4 5月の台風の平均経路

 また、表2から、5月に沖縄地方に接近する台風の平年値は0.4個、伊豆諸島と小笠原諸島に接近する台風(事実上小笠原諸島に接近する台風)の平年値も0.4個となっています。

 つまり、沖縄地方と小笠原諸島は、2~3年に1個の割合で台風が5月に台風が接近しています。

 気象庁による台風進路予報は5日先までで、しかも予報円が大きいのですが、現時点で、台風2号がフィリピンの東海上へ向かって進む予報であることから、沖縄地方に接近する可能性があります。

 もし、沖縄地方に台風が接近するとなると、沖縄地方では台風と前線という危険な組み合わせになります。

平成23年(2011年)の台風2号

 平成23年(2011年)は各地の梅雨入りが早かった年で、沖縄地方と奄美地方は4月30日に梅雨入りをしています。

 そして、5月21日から27日にかけて、北陸地方と東北地方を除く各地で梅雨入りとなっています。

 関東甲信地方は南岸低気圧が通過した5月27日に梅雨入りをしましたが、統計を開始した昭和26年(1951年)以降では、昭和38年(1963年)の5月6日に次ぐ、2番目の早い記録です。

 台風と前線は危険な組み合わせと良く言われます。

 前線に向かって台風から湿った空気が流入することで、記録的な大雨となることがあるからですが、平成23年(2011年)は、まさに、台風と前線の組み合わせでした(図5)。

図5 地上天気図(平成23年(2011年)5月27日から30日)
図5 地上天気図(平成23年(2011年)5月27日から30日)

 台風2号は5月28日に非常に強い勢力で先島諸島を通過し、沖縄本島に接近しています。このため、那覇では最大瞬間風速55.3メートルを観測し、沖縄県内では28万世帯で停電があり、海や空の便の欠航が相次ぎました(図6)。

図6 平成23年の台風2号の経路(9時の位置に日付けと中心気圧を記入)
図6 平成23年の台風2号の経路(9時の位置に日付けと中心気圧を記入)

 暴風半径が狭くコンパクトな台風でしたが、中心付近の勢力は猛烈で、近づくと急激に波や風が強まるという油断させがちな台風でした。

 また、普段であれば台風シーズンに入る前に収穫が終わっている沖縄地方のマンゴーや葉たばこなどが、早く襲来した台風による暴風で壊滅的は被害が発生しています。

 さらに、台風2号が5月29日15時に四国沖で温帯低気圧に変わりました(温低化しました)が、梅雨前線を刺激したため、四国各県で日降水量が200ミリを超えるという、5月としては記録的な雨が降っています。

 加えて、台風2号は、温帯低気圧に変わった後も、発達したままであり、四国から東北の広い範囲で5月としては記録的な大雨をもたらしています。

 この年の3月11日に東日本大震災が発生していますが、2か月後の5月11日でも宮城県の死者数8839人に対して行方不明者5892人、避難所に3万2854人がいるというように、復興とは程遠い状況の所に、台風2号から変わった低気圧が襲ったのです。

 被災地では、大雨に加え、宮城県石巻で最大風速23.8メートルなど暴風も吹き荒れました。

 なお、この台風2号がフィリピンの東にあった5月25日21時の台風予報が図7です。

図7 平成23年(2011年)の台風2号の進路予報(5月25日21時)
図7 平成23年(2011年)の台風2号の進路予報(5月25日21時)

 5月28日21時に大きな暴風警戒域で、先島諸島の南海上に進んでくるのですが、29日以降には暴風警戒域がついていません。

 これは、弱まったという予報ではなく、当時は進路予報は5日先まで行っていたものの、暴風警戒域など強度に関する予報は3日先までしか予報していなかったためです。

 令和元年(2019年)の台風3号以降は、強度に関する予報も5日先まで行っていますので、このような誤解されやすい予報ではありません。

 台風予報は、着実に進歩しています

タイトル画像、図3、図7の出典:ウェザーマップ提供。

図1の出典:ウェザーマップ提供資料をもとに筆者作成。

図2、図5の出典:気象庁ホームページ。

図4の出典:「饒村曜・宮沢清治(昭和55年(1980年))、台風に関する諸統計、研究時報、気象庁」に筆者加筆。

図6、表1、表2の出典:気象庁ホームページをもとに筆者作成。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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