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近畿で春一番も通過後の寒気南下は弱い 高温傾向が続いている東京では今週初めに「さくら開花」一番乗り?

饒村曜気象予報士
つぼみ、咲きかけ、開花の桜のベクターアイコンイラスト(提供:イメージマート)

近畿地方で春一番

 大阪管区気象台は、3月12日に近畿地方で春一番が吹いたと発表しました。昨年は吹いていないので、2年ぶりということになります(図1)。

図1 近畿地方の平均風速の分布(3月12日14時)
図1 近畿地方の平均風速の分布(3月12日14時)

 ただ、近畿地方の春一番を発表する目安の基準ギリギリでした。

 春一番を発表する基準は4つあり、期間(立春(2月4日ごろ)~春分(3月21日ごろ))と、気圧配置(低気圧が日本海にある)という基準は問題がありません。

 風向・風速(南よりの風が吹き最大風速が8メートル以上)と、気温(最高気温が前日値より高いか平年値より高い)については、明確にクリアしていません(表1)。

表1 近畿地方の気象観測(3月12日)
表1 近畿地方の気象観測(3月12日)

 人口の多い大阪・神戸・京都の風は8メートルに達せず、最高気温も前日より低くなっています。

 春一番の発表基準は、春一番が吹かない北日本と甲信地方、沖縄県を除く全国で作られています(表2)。

表2 「春一番」を発表する目安となる定義
表2 「春一番」を発表する目安となる定義

 このうち、中国地方での南よりの風が吹くときは、必ず日本海に低気圧がある時ですので、事実上、「低気圧が日本海にあるという条件」がついていないのは九州南部だけです。

 事実、今年の2月10日に九州南部で春一番が発表となった時は、低気圧が日本海ではなく、九州を横断しています。

 また、春一番を発表する時の観測値は、関東地方を除いて複数の気象台等の観測値です。

 関東地方だけは、東京都心(現在は北の丸公園)の観測値だけで決めています。

 関東地方で強い風が吹いても、東京都心で強い風が吹かなければ春一番の発表はありません。

 例えば、今年、九州北部と四国で春一番が吹いた2月19日には、最大風速が羽田空港15.5メートル(南西の風)、横浜市で13.9メートル(西南西)、千葉市で11.4メートル(南西)を観測しましたが、東京都心の最大風速は5.3メートル(北西)で、強い南よりの風が吹かなかったため、関東地方に春一番の発表はありませんでした。

 関東地方に春一番が吹いたのは、北陸地方と同じ3月1日でしたが、最高気温は19.4度と前日と同じ温度でした。

 昔は「前日より気温が高い」という条件だったのですが、「気温が平年より高い」場合も含めるということで運用をしているようです。

 いずれにしても、令和5年(2023年)の春一番の発表は難しく、例年のような春一番ではありませんでした

春一番の後は寒気南下

 低気圧に向かって暖気が北上し、春一番が吹きますが、低気圧の通過後は寒気が南下してきます。

 3月12日に日本海にあった低気圧は、日本の東海上の優勢な高気圧に行方を阻まれて沿海州へ北上する見込みです。

 このため、日本列島を通過する寒冷前線は、ほぼ南北に立ってくる見込みです(図2)。

図2 地上天気図(3月12日15時)と予報天気図(3月13日9時の予想)
図2 地上天気図(3月12日15時)と予報天気図(3月13日9時の予想)

 寒冷前線は、低気圧から南西方向にのびることが多く、今回のように南にのびるのは少数派です。

 寒冷前線が、南北に立っているということは、北からの寒気が南へ大きく南下し、南からの暖気が北へ大きく北上することを意味していますので、寒冷前線の通過前後には、激しい現象に注意が必要です。

 ただ、低気圧通過後の寒気の南下は弱く、気温が下がっても平年並みの気温で、3月は気温が高めに経過する見込みです。

 東京の最高気温の推移をみると、3月9日に22.2度と今年の最高気温を観測した後は下がっていますが、下がっても平年並みです(図3)。

図3 東京の最高気温と最低気温の推移(3月13日~19日は気象庁、3月20日~28日はウェザーマップの予報)
図3 東京の最高気温と最低気温の推移(3月13日~19日は気象庁、3月20日~28日はウェザーマップの予報)

 最低気温も、下がって平年並みで、2月のように時々0度くらいまで冷え込むことはなさそうです。

 東京だけでなく、北日本を中心として暖かい3月になっており、最高気温が25度以上という夏日は増えてはいませんが、最低気温が氷点下の冬日や、最高気温が氷点下の真冬日の観測地点数が急減しており、春真っ盛りです(図4)。

図4 夏日と冬日、真冬日の観測地点数の推移(令和4年11月1日~令和5年3月12日)
図4 夏日と冬日、真冬日の観測地点数の推移(令和4年11月1日~令和5年3月12日)

 この陽気をうけ、各地でさくらの開花が早そうです。

さくらの開花

 令和5年(2023年)のさくらの開花は、強い寒気が南下しても長続きしなかったことなどから、平年より早いところが多くなりそうです(図5)。

図5 ウェザーマップによるさくらの開花前線の予想
図5 ウェザーマップによるさくらの開花前線の予想

 ウェザーマップが3月9日に発表した「さくらの開花」予想では、南西諸島を除くと、一番早いのは、東京と福岡で今週半ばの3月16日です。

 ただ、この予想の後の土日で気温が5月並みに上がったことから、今週前半にも開花する可能性が出てきました。

 特に東京は、週明けの3月13日の最高気温が19度という予報です。

 週明けの寒気の南下は東日本より西日本のほうが強いため、福岡の13日の最高気温の予想が11度です。

 福岡より東京の方が一足先に、早ければ今日、明日中にも開花となるかもしれません。

【追記(3月13日14時00分)】

 気象庁は、3月13日14時に東京のさくら観測の標準木がある靖国神社で4輪の開花を観測したものの、「5~6輪以上」という開花基準をクリアできなかったことから、13日の東京でのさくら開花はないと発表しました。

 あと一輪ですので、14日には開花の発表となる可能性が高くなっています。

図1、図5の出典:ウェザーマップ提供。

図2の出典:気象庁ホームページ。

図3の出典:気象庁ホームページとウェザーマップ提供資料をもとに筆者作成。

図4の出典:ウェザーマップ提供資料をもとに筆者作成。

表の出典:気象庁ホームページより筆者作成。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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