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冬型の気圧配置がゆるんで南岸低気圧が通過 関東では春を告げない大雪

饒村曜気象予報士
東京都 渋谷 忠犬ハチ公像(写真:アフロ)

今冬の寒さ

 今冬は、令和3年(2021年)12月中旬ごろから寒気が南下しはじめ、クリスマス寒波によって真冬日(最高気温が氷点下の日)や冬日(最低気温が氷点下の日)が急増しています(図1)。

図1 今冬の冬日と真冬日の観測地点数の推移
図1 今冬の冬日と真冬日の観測地点数の推移

 このため、北日本から西日本の日本海側の地方では大雪となっています。

 そして、年越し寒波によって寒い年明けとなり、日本海側の大雪に加えて、1月6日には東京で10センチの積雪を観測するなど、太平洋側としては大雪が降っています。

滋賀~岐阜県と札幌市付近の記録的な大雪

 年越し寒波以後、寒気の南下は少し弱まったものの、令和4年(2022年)1月中旬以降は、周期的に寒気が南下し、立春寒波では滋賀~岐阜県と札幌市付近に記録的な大雪が降りました。

 滋賀県米原市で2月6日6時までの24時間に62センチの降雪量を観測し、統計開始以来の記録と大きく報じられましたが、その後も雪が降り積もり、6日23時には91センチを観測しています(図2)。

図2 米原の1時間毎の降雪と積雪(2月5日~6日)
図2 米原の1時間毎の降雪と積雪(2月5日~6日)

 米原の観測開始(統計開始)は、平成13年(2001年)ですが、これまでの最深積雪の記録である平成17年(2005年)の83センチを上回りました。

 また、日降雪量では、2月5日が53センチ、6日が47センチと、平成17年(2005年)12月22日の54センチに次ぐ、2位と3位でした。

 米原では、2月5日4時の積雪が0センチですので、ここから最大1時間降雪量7センチという雪が降り続いての記録です。

 一度に大雪が降っての記録ではありませんが、比較的雪の少ない地方でのいきなりの大雪でしたので、除雪が間に合わず、各地で大きな交通障害が発生しました。

 また、札幌では、2月6日14時までの24時間での降雪量が60センチを観測し、統計開始以来の記録と大きく報じられました。

 JR北海道は除雪に時間がかかるとして、7日に札幌駅を発着する全ての列車について終日運転を見合わせました。

 また、札幌市内を走る路線バスもほぼ全線で運休するなど、市民生活に大きな影響がでました。

 そして、交通障害等の大雪の影響は、8日以降も続きました。

 札幌で降雪量60センチを観測したのは、1時間毎の積雪差を用いた新しい降雪の観測による記録で、統計開始は平成11年(1999年)からです。

 従来の降雪の観測は、雪板を使った観測で、毎日9時、15時、21時の計3回、雪板と呼ばれる水平に置かれた約50センチの角板に降り積もった雪を測るものです。

 測定後は雪を落とすため、6時間、または12時間の降雪量が分かり、これを合計して日降雪量(前日の21時から当日の21時までの24時間の降雪量が当日の降雪量)を求めていますので、積雪差を用いた降雪の観測より観測時間間隔が長いことによる圧縮や融解の効果によって少し小さな値となります。

 その従来の観測方法でも、昭和45年(1970年)に63センチを観測していますので、その時のほうが大雪です。

 とはいえ、この間に生活様式が大きく変わり、大雪に対して脆弱となっていますので、被害はより大きなものでした。

南岸低気圧による大雪

 2月9日から10日にかけて、日本の南岸を低気圧が東進します。

 このため、10日は東北~東日本は太平洋側を中心に雪や雨が降る見込みです。

 東海から関東に雪をもたらす南岸低気圧で、予報が難しいのですが、今回はより予報が難しいタイプです。

 この低気圧は本州から離れて通過しますので、普通の低気圧であれば、南からの暖気はそれほど北上しませんので、気温があがらず雪の可能性は高まりますが、低気圧の雨雲はあまり北上せず、雪が降ったとしても量は多くはありません。

 しかし、今回の低気圧は、その北側の本州に近いところで新たな低気圧が発生し、降水域が北に広がる見込みです(図3)。

図3 地上天気図(2月9日9時)と予想天気図(2月10日9時の予想)
図3 地上天気図(2月9日9時)と予想天気図(2月10日9時の予想)

 約1か月前の1月6日も、南岸低気圧が通過したとき、その北側の関東の南海上で小さな低気圧が発生したことから、東京で10センチの積雪を観測するなど、関東南部で大雪が降っています。

 雪の多い地方では災害が発生するほどの雪の量ではありませんが、雪がほとんど降らない首都圏では交通障害や転倒事故が相次ぎました。

 日本の上空約1500メートルの気温も南下してくる寒気の強さの目安として使われます。

 平地でも雪となる目安とされる、上空約1500メートルで氷点下6度という寒気は、10日朝の段階で関東北部にあります。

 東京都心上空は氷点下3度と雨が降るのか、雪か降るのか微妙なところで、予報が非常に難しくなっています。

図4 上空約1500メートルの気温分布予想(令和4年(2022年)2月10日朝)
図4 上空約1500メートルの気温分布予想(令和4年(2022年)2月10日朝)

 気象庁では、9日18時から10日18時までに予想される24時間降雪量は、いずれも多い所で、甲信地方25センチ、関東地方北部15センチ、箱根から多摩地方や秩父地方にかけて15センチ、関東地方南部の平野部8センチ、東京23区5センチとみています。

 関東甲信では内陸部で大雪となる所があり、平野部でも積雪となるおそれがあります。

 大雪や路面凍結による交通障害に警戒、注意し、着雪にも注意してください。

 しかも、水分量が多い雪が予想されますので、低い気温とあいまってとけにくくなりますので、三連休中も道路の積雪や凍結に十分な注意が必要です。

春を告げない雪

 太平洋側の雪は、冬型の気圧配置がゆるんだときの南岸低気圧によってもたらされます。

 このため、しばしば「春を告げる雪」といわれます。

 南岸低気圧によって雪が降ったあとは、寒気の南下が弱くなり、暖気が入り易くなることで暖かさを感じられることが多いからです。

 しかし、東京の最高気温と最低気温の推移を見ると、低気圧が通過する2月10日は最高気温が3度までしかあがらない予想で、11日以降も最高気温が10度前後と、平年より低い日が続きます(図5)。

図5 東京の最高気温と最低気温の推移(2月10~16日は気象庁、2月17~25日はウェザーマップの予報)
図5 東京の最高気温と最低気温の推移(2月10~16日は気象庁、2月17~25日はウェザーマップの予報)

 最低気温も、平年より低い日が続きます。

 そして、来週は、一段の厳しい寒さが再び訪れる見込みです。

 2月10日に南岸低気圧によって雪が降ったとしても、春を告げそうにはありません。

図1の出典:ウェザーマップ提供資料をもとに筆者作成。

図2の出典:気象庁ホームページをもとに筆者作成。

図3、図4の出典:ウェザーマップ提供。

図5の出典:気象庁ホームページとウェザーマップ提供資料をもとに筆者作成。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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