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鹿児島・宮崎・熊本で大雨特別警報 発生した現象を具体的に伝える記録的短時間大雨情報と顕著な大雨情報

饒村曜気象予報士
予想天気図(7月10日9時の予想)

令和3年(2021年)の梅雨

 令和3年(2021年)の梅雨は、5月5日に沖縄・奄美地方が平年より早く梅雨入りしました。

 その後、九州南部から東海地方まで、平年より、かなり早く梅雨入りしました。

 梅雨の統計がある昭和26年(1951年)以降で、1位とか、2位という早い梅雨入りです(表1)。

表1 令和3年(2021年)の梅雨入り(右側の欄外には、沖縄地方で統計開始以降13位タイの早さであった等、各地方ごとに統計開始以降の順位を記した。)
表1 令和3年(2021年)の梅雨入り(右側の欄外には、沖縄地方で統計開始以降13位タイの早さであった等、各地方ごとに統計開始以降の順位を記した。)

 しかし、関東甲信、北陸、東北地方では平年より遅い梅雨入りでした。

 そして、6月末からは梅雨末期豪雨によって各地で大きな被害が発生しています。

顕著な大雨に関する情報

 線状降水帯による顕著な大雨は、毎年のように発生し、数多くの甚大な災害が生じています。

 気象庁では令和12年(2030年)までの10年計画で、早め早めの防災対応に直結する予測として「線状降水帯を含む集中豪雨の予測精度向上」に取り組んでいますが、その第一弾が、「線状降水帯」というキーワードを使って解説する「顕著な大雨に関する情報」です。

 令和3年(2021年)6月17日13時より始まった「顕著な大雨に関する情報」は、線状降水帯が発生したことをいち早く伝えることでより一層の警戒をよびかけるもので、予報ではありません(予報は来年度以降の計画)。

 「顕著な大雨に関する情報」の初発表は、この情報の開始から12日後の6月29日2時49分の沖縄本島地方です。

 沖縄付近に停滞していた梅雨前線は、南海上からの暖かくて湿った空気の流入によって活発化し、沖縄県の本島北部では線状降水帯による非常に激しい雨が同じ場所で降り続き、400ミリを超える大雨となりました。

 次いで、7月1日には東京都の伊豆諸島北部でも梅雨前線が活発となったことにより「顕著な大雨に関する情報」が発表となり、伊豆諸島でも400ミリを超える大雨となりました。

 そして、7月7日には島根県と鳥取県で3回目と4回目の「顕著な大雨に関する情報」が発表となっています(図1)。

図1 「顕著な大雨に関する情報」の発表例
図1 「顕著な大雨に関する情報」の発表例

 令和3年(2021年)7月7日の山陰地方は、梅雨前線が活発となって記録的な大雨となり、浸水やがけ崩れなどの被害が相次いでいます。

 島根県では5時頃から線状降水帯が発生し、「顕著な大雨に関する島根県気象情報」が5時9分発表されています。

 また、鳥取県では6時50分頃から別の線状降水帯が発生し、「顕著な大雨に関する鳥取県気象情報」が6時59分発表されています。

 さらに、7月7日5時47分には記録的短時間大雨情報「5時40分島根県で記録的短時間大雨 松江市付近で約100ミリ」が、7月9日8時42分には記録的短時間大雨情報「8時30分山口県で記録的短時間大雨 岩国市美和付近で約100ミリ」が発表となっています。

発生した現象を具体的に伝える情報

 「記録的短時間大雨情報」が始まったのは、今から38年前の山陰豪雨(昭和58年(1983年)7月豪雨)がきっかけです。

来月からわかりやすい大雨情報 気象庁

 気象庁は集中豪雨など大雨による災害防止のため、記録的な1時間雨量を観測した時、これまでの大雨・洪水警報とは別に直ちに観測地点や雨量を入れた大雨警報を出すことを決め、10月1日から実施する。現行の大雨・洪水警報では広範囲な地域しか示さず具体的な観測地点名、雨量が入らず、一般市民にはなかなかピンとこなかったことへの改善策である。

 大雨情報は「記録的な強い雨を観測しました。現在、大雨・洪水警報(注意報)を発令しています。厳重な警戒が必要です」と簡潔明瞭。この後に基準値を超えたおもな観測地点と1時間、3時間の各雨量、今後の予報、防災コメントを続ける。これに伴って、従来の大雨・洪水、暴風雨、波浪、高潮などの警報にも、一般市民にすぐわかるような簡単な見出し警告文(48字以内)をつける。

  引用:毎日新聞(昭和58年(1983年)9月17日朝刊)

 記録的な1時間雨量を観測した時の「記録的短時間大雨情報」、線状降水帯を観測した時の「顕著な大雨に関する情報」は、ともに発生した現象を具体的に伝える情報です。

 予報ではありません。

 予報ではありませんが、これが発表された時は、最大限の警戒が必要な時です。

 さらに、気象庁の定義の線状降水帯には該当しなくても、線状に強雨域が並んで大雨となる事例があります。

 7月3日の静岡県熱海の豪雨は、基準ギリギリの雨が続いて大きな被害が発生しました。

 「記録的短時間大雨情報」や「顕著な大雨に関する情報」が発表されていなくても、大雨警報等が発表となっているときは危険です。

「記録的短時間大雨情報」や「顕著な大雨に関する情報」が発表されたら、手遅れになりかねないという感覚で、早め早めに行動をとることが大切です。

梅雨明けは?

 令和3年(2021年)の梅雨明けは、沖縄地方で平年より11日遅い7月2日、奄美地方で平年より4日遅い7月3日でした(表2)。

表2 令和3年(2021年)の梅雨明け
表2 令和3年(2021年)の梅雨明け

 各地の10日間予報を見ると来週以降は、各地とも、お日様マーク(晴れ)や白雲マーク(雨の可能性が少ない曇り)の日が続くようになります(図2)。

図2 各地の10日間予報
図2 各地の10日間予報

 西日本から東北地方まで、来週には梅雨明けになるかもしれません。

 ただ、その前、週末は各地で「記録的短時間大雨情報」や「顕著な大雨に関する情報」が発表になるかもしれません。

鹿児島県で線状降水帯

 鹿児島地方気象台は、次のような顕著な大雨に関する鹿児島県(奄美地方を除く)気象情報を、7月10日3時29分に発表しました。

 「薩摩地方では、線状降水帯による非常に激しい雨が同じ場所で降り続いています。命に危険が及ぶ土砂災害や洪水による災害発生の危険度が急激に高まっています。」

図3 解析雨量(7月10日3時40分)
図3 解析雨量(7月10日3時40分)

 鹿児島県では、ほぼ東西にのびる線状降水帯が発生したのです(図3)。

 また、これに先立つ3時15分、鹿児島県(奄美地方除く)に記録的短時間大雨情報を発表しました。

 3時15分

鹿児島県で記録的短時間大雨 さつま町付近で約120ミリ

【7月10日5時35分追記とタイトルの一部変更】

 鹿児島地方気象台は、7月10日午前5時30分、薩摩地方に「大雨特別警報」を発表したました。

 直ちに、命を守る行動が必要な「警戒レベル5」に相当する情報で、すでに災害が起きているおそれもあります。

 命を守るために最善を尽くさなければならない状況のため、最大級の警戒が必要です。

【7月10日7時10分追記とタイトルの一部変更】

 宮崎地方気象台は、7月10日午前5時55分、小林・えびの地区に「大雨特別警報」を発表しました。

【7月10日7時15分追記とタイトルの一部変更】

 熊本地方気象台は、7月10日午前6時10分、球磨地方に「大雨特別警報」を発表しました。

 梅雨明けまで、あとわずかです。

 それまでは雨に対して厳重な警戒が必要です。

タイトル画像:気象庁ホームページ。

図1の出典:気象庁ホームページとウェザーマップ資料をもとに筆者作成。

図2、図3の出典:ウェザーマップ提供。

表1、表2の出典:気象庁ホームページをもとに著者作成。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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