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線状降水帯による豪雨の季節が早くも始まる 線状降水帯に関する情報の提供開始は?

饒村曜気象予報士
熊本県の猛烈な雨をもたらした線状の降水域(5月17日6時までの1時間雨量)

梅雨は黴雨

 令和3年は、5月5日の沖縄・奄美に続いて、5月11日に九州南部と、記録的に早い梅雨入りとなりました。

 5月15日から16日にかけては、九州北部から東海地方まで、平年より20日以上も早く梅雨入りしました(表)。

表 令和3年(2021年)の梅雨入り
表 令和3年(2021年)の梅雨入り

 梅の実が熟する頃の雨で梅雨ですが、黴雨(バイキンが繁殖する頃の雨)とも書きます。

 気温が高く、湿度も高いということから、食中毒に注意する季節が始まりました。

 と同時に、大雨に警戒が必要な季節が始まりました。

線状の降水域

 梅雨入りまもない5月17日、熊本県・山都(やまと)では、1時間に90.5ミリという猛烈な雨を観測しました(図1)。

図1 熊本県・山都の1時間降水量(5月17日)
図1 熊本県・山都の1時間降水量(5月17日)

 ほぼ東西に伸びる線状の降水域が形成されての猛烈な雨です(タイトル画像)。

 気象庁では、長さ50~300キロ、幅20~50キロ程度の線状降水帯に関する情報提供を目指していますが、ここでいう線状降水帯よりは少し規模の小さな線状の降水域でした。

 しかし、これからが梅雨本番です。

 もっと規模の大きな線状の降水域(線状降水帯)が形成され、大雨が降ることが懸念されます。

週末にかけての大雨

 梅雨前線は、西日本から東日本の南海上に停滞し、5月20日には前線上の東シナ海で低気圧が発生・発達する見込みです(図2)。

図2 予想天気図(5月20日9時の予想)
図2 予想天気図(5月20日9時の予想)

 西日本から東日本は、南から暖かくて湿った空気が流入しますので、大雨となる可能性があります。

 気象庁は、5日先まで警報を発表する可能性を、早期注意情報として「中」と「高」の2段階で表示しています。

 これによると、5月19日は、鹿児島県と宮崎県で大雨警報を発表する可能性が「中」となっています。

 それが、20日には熊本県と大分県で「高」となっており、九州・中国・四国でも「中」の県があります。

 21日になると、「中」の府県は、近畿・東海・北陸に広がります(図3)。

図3 大雨警報発表の可能性(上は5月20日、下は5月21日)
図3 大雨警報発表の可能性(上は5月20日、下は5月21日)

 19日から21日までの3日間に、300ミリ以上の雨が降る場所もあるというコンピュータの計算もあります(図4)。

図4 72時間予想降水量(5月19日から21日)
図4 72時間予想降水量(5月19日から21日)

最新の気象情報を入手し、警戒してください

顕著な大雨に関する情報

 気象庁では、平成30年8月の交通政策審議会(国土交通省の審議会)の気象分科会提言「2030年の科学技術を見据えた気象業務の在り方」を受けて、様々な技術開発に10年計画で取り組んでいます。

 この中で、早め早めの防災対応等に直結する予測として、「線状降水帯を含め、集中豪雨の予測精度向上」があります。

 気象庁のレーダーは20台ありますが、令和2年(2020年)3月の東京レーダーを皮切りに、すべてのレーダーを二重偏波気象レーダーという、より正確に雨量を観測できるものへの更新を予定しています。

 また、凌風丸と啓風丸の2隻の気象観測船を梅雨の時期に東シナ海で航海させたり、アメダスの観測点に湿度計を設置したりして、線状降水帯の元となる水蒸気の量の観測を強化しています。

 このようにして、線状降水帯の予測精度を高めたうえで、令和3年度(2021年)の大雨の時期から、線状降水帯の発生の可能性を示して注意を促す新たな情報、「線状降水帯注意情報(仮称)」の発表を予定し、検討を重ねてきました。

 線状降水帯を含めた集中豪雨の予測精度向上は、10年計画で取り組むほどの難題ですが、研究成果の一部を取り入れた線状降水帯の発生の可能性だけでも発表し、住民に厳重な警戒や身の安全の確保を呼びかけることになりました。

 これは、竜巻注意情報と同様に、線状降水帯に特化した形の情報になります。

 ただ、専門家などによる検討会で議論を重ね、線状降水帯による大雨が確認された場合には、厳重な警戒や身の安全の確保を呼びかける「顕著な大雨に関する情報」を新たに作ることとしました。

 当初計画とは違い、線状降水帯が「予測」された場合ではなく「確認」された場合に発表されるものとなりました。

 「顕著な大雨に関する情報」は、発達した積乱雲が帯状に連なる線状降水帯が発生し、土砂災害や洪水の危険度が急激に高まってきた場合に緊急的に発表される情報です。

 気象庁はこの情報の発表基準として5キロ四方の3時間の解析雨量が100ミリ以上あり、それが分布している領域の面積の合計が500平方キロメートル以上確認された場合で、その領域の形状が「線状」であることなどとしています。

 ただ、令和3年(2021年)の梅雨入りが記録的に早く、「顕著な大雨に関する情報」を発表する前に、大雨の季節が始まってしまいました。

 予測が難しく、それでいて発生すると大きな被害をもたらす線状降水帯に関して、研究が進んでいます。

 「顕著な大雨に関する情報」は、最初は解決すべき課題が多くても、今後の防災効果が高い情報につながると思われますので、今後に期待です。

タイトル画像、図2の出典:気象庁ホームページ。

図1の出典:気象庁ホームページをもとに筆者作成。

図3、図4の出典:ウェザーマップ提供。

表の出典:気象庁ホームページに筆者加筆。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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