Yahoo!ニュース

花を散らす花雨から雨のような花雨へ 寡雨のときは過雨ではなく佳雨や嘉雨が望まれる

饒村曜気象予報士
舞い散る桜の花と富士山(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

2つの意味がある花雨

 令和3年(2021年)のさくらの開花は、平年よりかなり早い所が多く、中には観測史上最早というところも少なくありません。

 例えば、3月11日に広島、12日に福岡が開花していますが、いずれも観測史上最も早い開花となっています。

 また、3月14日に東京が開花していますが、これは、観測史上最早タイです。

 2月から3月にかけて気温が高かったためです(図1)。

図1 さくら開花前線(ウェザーマップによる)
図1 さくら開花前線(ウェザーマップによる)

 令和3年(2021年)の開花から満開までの期間は、広島が14日、福岡10日、東京8日、仙台3日と、北国ほど短くなっています。

 このため、前線を伴った低気圧が日本列島を通過した4月4日(日)から5日(月)のほぼ全国的な雨は、西日本から東北南部まで、満開を過ぎたさくらに降りかかる雨、「花雨」となりました(図2)。

図2 地上天気図と気象衛星の雲(4月4日21時)
図2 地上天気図と気象衛星の雲(4月4日21時)

 「花雨」には、さくらの花びらが雨のように散ることという意味もあります。

 今週の週明け以降はしばらく大きな高気圧に覆われて晴れの所が多くなりますが、さくらの花びらが雨のように舞い散る「花雨」になりそうです。

色々ある「カウ」

 「花雨」には、雨が降る「花雨」と、雨が降らない「花雨」がありますが、音で聞くと同じ「かう」でも、いろいろな意味の言葉があります。

 「雨と風の事典」には、下雨・華雨・佳雨・花雨・過雨・寡雨・嘉雨・夏雨という8つの「かう」が掲載されています。

下雨(雨や降るように弾丸や矢などが激しく落ちること)(雨が降ること)

華雨(花に降りかかる雨)

佳雨(降り時が好都合な雨)(佳き雨)

花雨(桜の花びらが雨のように散ること)(桜の花に降りかかる雨)

過雨(通り雨)(一過性の雨)

寡雨(雨量が少ないこと)

嘉雨(干天の慈雨や埃抑えの雨などの喜ばしい雨)

夏雨(夕立など夏場に降る豪快な雨)

出典:饒村曜(平成16年(2004年))、雨と風の事典、クライム。

 移り変わる四季があり、様々な花鳥風月がある日本では、昔から豊かな日本語を使ってきました。

 太平洋戦争中、アメリカ軍は日本軍の暗号を次々に解読していったのですが、「解読に成功しても意味が分からないということが時々あった」といわれるほど、日本語は同じ発音で違う意味の言葉が多くあります。

 「かう」もその一つです。

 寡雨によって農作物に被害が出ているときは、過雨ではなく、災害が起きない程度にしっかり降る佳雨や嘉雨が望まれています。

 このような、音だけでは意味が分からないことでも、漢字で表現すると見ればなんとなく意味が分かるという、日本語の便利さと難しさがあります。

図1と図2の出典:ウェザーマップ提供。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

饒村曜の最近の記事