Yahoo!ニュース

寒いのも今回まで コロナ影響でも春を告げる若狭の「お水送り」と奈良の「お水取り」

饒村曜気象予報士
「お水送り」の松明行列(2005年)(筆者撮影)

「お水取り」の前に「お水送り」

 奈良県奈良市の東大寺二月堂で行われる、修二会という法会の中の一行事に「お水取り」があります。

 3月12日の深夜に、東大寺の境内にある若狭井(わかさい)と呼ばれる井戸から観音さまにお供えする「お香水(おこうずい)」を汲み上げる儀式です。

 「お水取り」に続き、大松明を持った練行衆が内陣をかけまわる達陀(だったん)という勇壮な妙法があり、春を告げる行事として多くの人に親しまれています。

 この「お水取り」は、大仏建立の功績により東大寺の初代別当となった良弁(ろうべん)の高弟実忠(じっちゅう)によって天平勝宝4年(752年)によって始めたとされます。

 これまで一度も休むことなく続いてきた伝統行事で、コレラ・天然痘の大流行や太平洋戦争でも中止になっていません。

 従って、令和3年(2021年)は、1270回目ということになります。

 東大寺の若狭井は、その名のとおり、若狭の国(現在の福井県)と関係があります。

 福井県西部の小浜市・神宮寺には、東大寺二月堂にお水を送る水源の井戸があります(写真1)。

写真1 東大寺二月堂にお水を送る水源の井戸
写真1 東大寺二月堂にお水を送る水源の井戸

 そして、この井戸の水を使って、3月2日に「お水送り」の行事が行われています。

 神宮寺の井戸の水は、遠敷川(おにゅうがわ)の「鵜の瀬(うのせ)」までたいまつ行列でおごそかに運ばれます(写真2、タイトル画像参照)。

写真2 たいまつ行列の出発
写真2 たいまつ行列の出発

 そして、「鵜の瀬」から流された水は、10日かかって南の方向約90キロにある東大寺二月堂の「若狭井」に届くとされています。

 平成17年(2005年)の神事の時には福井地方気象台で勤務していましたが、このとき、休みをとって「お水送り」の神事の一部に参加しました。

 また、冷たい雨のふるなか、たいまつ行列にも参加しましたが、勇壮な火祭りでした

 大陸文化が天然の良港である若狭の国・小浜から奈良の都へと伝えられた足跡が、この伝統行事の中に残されているともいえるでしょう。

 ただ、令和3年(2021年)は新型コロナウィルスの感染拡大をうけ、神宮寺の「お水送り」は、一般参加が中止となり、たいまつ行列への参加ができなくなりました。

 また、東大寺の「お水取り」も、拝観場所の制限や入場制限が行われます。

 全国で感染拡大が収まっておらず、大勢の参加によるクラスターの発生を懸念したとみられます。

 新型コロナウィルスの専門家の意見を聞き、万全の対策をとりながら、関係者によって従来とほぼ同じ形式で実施するとのことです。

 違うのは、観覧場所や観覧者の数の制限があることです。

寒暖差の大きかった2月

 令和2年から3年(2020年から2021年)の冬は、前年の暖冬から一変し、寒冬となっています。

 日本付近のジェット気流が大きく蛇行し、この蛇行にのって北極付近の強い寒気が、周期的に日本付近へ南下しているからで、これまで6回強い寒気が南下しています。

 1回目は12月14日頃から、2回目は年末年始頃、3回目は1月7日頃から、4回目は1月16日頃から、5回目は1月29日頃から、6回目は2月17日頃からです。

 そして、強い寒気が南下するたびに、各地の冬日(最低気温が0度未満)と真冬日(最高気温が0度未満)の観測地点数が増加しました(図1)。

図1 各地の冬日と真冬日の観測地点数の推移
図1 各地の冬日と真冬日の観測地点数の推移

 1月下旬から2月の寒気南下は、短い周期での寒気南下でした。

 そして、寒気と寒気に強い暖気が入って春を思わせるものでした。

発達した低気圧通過と寒気南下

 3月2日(火)は、日本海の低気圧が発達しながら北日本を通過し、その後、北日本を中心とした冬型の気圧配置となり、寒気が南下してきます(図2)。

図2 予想天気図(左は3月2日9時の予想、右は3月3日9時の予想)
図2 予想天気図(左は3月2日9時の予想、右は3月3日9時の予想)

 しかし、寒気が大きく南下することはなく、西日本から東日本の気温の変動幅はこれまでより小さくなり、暖かい日が多くなる予報です(図3)。

図3 福岡・東京・仙台の最高気温の推移(令和3年(2021年)2月以降、3月2日から8日は気象庁の予報、3月9日から17日はウェザーマップの予報)
図3 福岡・東京・仙台の最高気温の推移(令和3年(2021年)2月以降、3月2日から8日は気象庁の予報、3月9日から17日はウェザーマップの予報)

 北日本は、仙台の気温変化のように、3月上旬まではときどき強い寒気が南下してきますが、中旬以降は暖かい日が増えてきそうです。

 「関西ではお水取り終えて初めて春が来る」と言われていますが、東日本から西日本は、これまでより少し早く春がやってきそうです。

タイトル画像、写真1、写真2の出典:筆者撮影。

図1の出典:ウェザーマップ提供資料をもとに筆者作成。

図2の出典:気象庁ホームページ。

図3の出典:気象庁ホームページとウェザーマップ提供資料をもとに筆者作成。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

饒村曜の最近の記事