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令和2年の台風の見直し 特別警報かと言われた台風10号は速報値より発達していた

饒村曜気象予報士
日本列島を襲う令和2年(2020年)の台風10号の眼

令和2年(2020年)の台風

 令和2年(2020年)の台風シーズン前半は、台風の統計を取り始めた昭和26年(1951年)以降ではじめて7月に台風発生数がゼロとなるなど、発生数が少なく経過しました。

 しかし、台風シーズン後半は、10月に過去最多タイの7個が発生するなど発生数が増えたのですが、今年の残りの日を考えると、平年並みにはなりそうもありません(表)。

表 令和2年(2020年)の台風の発生数と上陸数
表 令和2年(2020年)の台風の発生数と上陸数

 ただ、令和2年(2020年)の少なくもの23個という発生数は、極端に少ないというわけでもありません。

 平成22年(2010年)の14個、平成10年(1998年)の16個と、近年、台風発生数が少ない年が増えてはいますが、昭和の時代でも、21、22個という台風発生数の年は珍しくありません。

 また、台風の上陸は、平年であれば2から3個あるのですが、令和2年(2020年)の上陸数は、平成20年(2008年)以来、12年ぶりの0個でした。

 ただ、上陸数が0といっても、台風の影響がなかったわけではありません。

 特別警報が発表になるかもしれないとされた台風10号をはじめ、4号、5号、8号、9号、12号、14号と、合計7個の台風が接近し、その都度、台風被害が発生しています。

進路予報誤差の経年変化

 台風進路予報の精度は、その年の特徴に起因する様々な変動があり、進路予報が難しい台風が多い年は、予報誤差が大きくなりますが、長期的に見れば、向上しています。

台風の予報円表示が始まった昭和57年(1982年)は、24時間先までしか発表していなかったのですが、予報誤差が200キロ以上ありました。それが、現在では3分の1の誤差です。

 3日先までの予報が始まった平成9年(1997年)の3日先予報の誤差は約400キロでしたが、約200キロと、昭和57年(1982年)の24時間先までの予報と同程度の誤差のところにきています。

 気象庁が発表した、令和2年(2020年)の台風23号(台風11号から23号は速報値)までの進路予報誤差は、1日先で81キロ、3日先で189キロ、5日先で301キロメートルとなっています(図1)。

図1 令和2年(2020年)の台風進路予報誤差の経年変化(令和2年の台風11号から23号は速報値)
図1 令和2年(2020年)の台風進路予報誤差の経年変化(令和2年の台風11号から23号は速報値)

 最近の6年間でいえば、3日先までの進路予報の精度向上はあまりありませんが、4日先、5日先の進路予報は精度向上がみられます。

 5日先までの進路予報の精度は、25年前の48時間先までの精度に匹敵しています。

 台風の最大風速や中心気圧などの強度予報は、台風の進路予報よりも難しく、5日先までの強度予報が始まったのは令和になってからです。

 台風進路予報が5日先までに延長になった10年後のことです。

 台風強度予報(最大風速)の誤差は、1日先で毎秒5.6メートル、3日先で毎秒8.6メートル、5日先で毎秒10.4メートルです(図2)。

図2 台風強度予報(最大風速)の経年変化(令和2年の台風11号から23号は速報値)
図2 台風強度予報(最大風速)の経年変化(令和2年の台風11号から23号は速報値)

 台風の進路予報のように、目に見えての精度向上は見られませんが、近い将来、5日先の強度予報が、現在の48時間先の強度予報の精度に匹敵する時代がくるのではないかと思っています。

特別警報発表かといわれた台風10号

 日本に接近した台風のうち、台風10号は九州のかなり近くを通過し、南西諸島や九州を中心に観測史上1位の値を超えるなど記録的な暴風となりました。

 また、宮崎県などで大雨となり、広範囲での停電も発生しました。

 台風10号が日本の南海上にあった9月3日21時の予報では、9月5日午後には南大東島の南海上で、中心気圧915ヘクトパスカルの猛烈な台風に発達し、特別警報級の勢力になり、特別警報級の勢力を維持したまま9月6日には九州の南海上に達し、場合によっては、九州に上陸するおそれがあるというものでした(図3)。

図3 台風10号の進路予報(9月3日21時発表の予報)
図3 台風10号の進路予報(9月3日21時発表の予報)

 台風のエネルギーは、台風の中心付近の積乱雲の中で水蒸気が凝結して水滴になるときに発生する熱です。

 このため、熱帯の海上など、水蒸気が豊富な場所で発生・発達します。

 台風が発生・発達する目安となっている海面水温は27度ですが、台風10号が発生した小笠原近海の海面水温は、31度もあり、水蒸気が豊富な30度以上の海域を通って北上する予報でした。

 令和2年(2020年)の9月上旬は、日本の南を中心とした海域の海面水温は、平年より2度以上も高く、特に、関東南東方、四国・東海沖、沖縄の東の海域では、解析値のある昭和57年(1982年)以降で最も高くなっていました。

 このため、台風10号は記録的に発達すると思われたのですが、九州に接近する頃から衰えはじめ、上陸もしなかったことから特別警報の発表はありませんでした。

 ただ、これらは、速報値での話です。

 気象庁では、台風について集められるだけのデータで解析し、速報値の情報を発表し、遅れて入手したデータも含めて確定値を求めています。

 速報値と確定値が同じということが多いのですが、12月22日に発表した台風10号の確定値は速報値と違っています(図4)。

図4 令和2年台風10号の速報値と確定値
図4 令和2年台風10号の速報値と確定値

 台風10号の発生は、速報値では9月1日21時でしたが、確定値では8月21日21時と24時間早くなっています。

 これは、再検討をした結果、日本の南海上の熱帯低気圧の中心気圧は、速報値より低い値で、最大風速も大きいと判断したからです。

 また、最低中心気圧は、速報値では920ヘクトパスカルでしたが、確定値では910ヘクトパスカルとなっています(タイトル画像参照)。

 つまり、速報値より強い風が吹いていたことになります。

 ただ、最低中心気圧がでたあと、九州に接近中の中心気圧の上昇は、速報値と確定値で大きな差がありませんでした。

 令和2年(2020年)の台風10号は、幸いにも特別警報の発表には至りませんでしたが、今後、特別警報が発表となる台風がでてきます。

 その時までに、更なる精度の良い台風進路予報や強度予報の実用化が進んでいることを期待しています。

タイトル画像、図3の出典:ウェザーマップ提供。

図1、図2、表の出典:気象庁ホームページ。

図4の出典:気象庁資料とウェザーマップ資料をもとに著者作成。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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