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食中毒の季節 阪神淡路大震災で行われたようにコロナウイルス対策で忙しい医療機関に負担をかけない行為を

饒村曜気象予報士
倒壊した家屋 阪神淡路大震災(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

気温が高めの周期変化

 記録的な暖冬が終わり、3月に入りました。

 日本付近は低気圧と高気圧が交互に通過するという春に多い周期変化の天気図となっています(図1)。

図1 予想天気図(3月2日21時の予想)
図1 予想天気図(3月2日21時の予想)

 低気圧が通過する前には暖気が北上して気温が上昇し、高気圧が通過する前には寒気が南下して気温が下降しますので、気温も周期変化です。

 ただ、気温が下がっても平年値位ですので、気温は高めに経過します(図2)。

図2 東京の気温変化の予想(陰影は誤差幅)
図2 東京の気温変化の予想(陰影は誤差幅)

 暖冬に引き続き、暖春の予想で、東京でも15度を超す暖かい日が多くなり、場合によっては20度を超す日もありそうです。

 気温が高くなると食中毒の心配がでてきますが、今年は、特に注意が必要です。

 新型コロナウイルス対策で忙殺されている医療機関に負担をかけないことを考えての行動が重要と思うからです。

 平成7年(1995年)1月17日に兵庫南部地震(阪神・淡路大震災)が発生しましたが、このときにも、医療機関に負担をかけないことを考えての行動が行われた経験があるからです。

阪神淡路大震災の経験

 平成7年(1995年)1月17日5時46分に兵庫南部地震(阪神・淡路大震災)が発生しましたが、当時、私は神戸海洋気象台(現在の神戸地方気象台)の予報課長をしていました(図3)。

図3 神戸海洋気象台の電磁式強震計記録
図3 神戸海洋気象台の電磁式強震計記録

 寝ていた時の地震でしたが、地球の重力と同じくらいの大きな力での揺れでしたので、一瞬無重力状態になったり、床に押し付けられたりと、揺れている間は何もできないという体験をしました。

 神戸海洋気象台にはただちに非常対策本部が設置され、あらかじめ決められているとおり、予報課長である私が副本部長につき、気象や地震などに対するマスコミ対応を行いました。

 神戸海洋気象台は、兵庫県南部地震で建物の一部に被害が出たものの、気象や地震の観測や天気予報、注警報の発表などの業務を、全て通常通りに行うことができました。

 しかし、綱渡りでした。

 この時、交通、通信、水道ガス等のライフラインが止まり、医療機関自体が被災するという事態が起きています。

 200以上の医療機関が全半壊し、次々にかつぎ込まれた人が死亡してゆく中、不眠不休の医師や看護士が、自分たちも被災者であるにもかかわらず、ナイナイずくしの中で診療行為が行われていました。

 緊急に手術が必要な人でも後回しにされ、現在生死がかかっている人が優先されていました。

 手足の骨折者など生命に直接関係のない怪我人は放置され、また、放置されても文句が言えない現実がありました。

 このため、地震の被災地では、交通事故を起こさないとか、食中毒を出さないなど、医療機関の負担にならないように行動するということが一斉に行われました。

 気象台では、夜間のバイク移動をすぐに禁止しました。

 公共交通機関が全て止まり、小型バイクを持っている人は、それが移動手段に変わりましたが、道路上に何が置いてあるかわからない状況では、バイクの夜間走行は事故発生の可能性が高いと判断したからです。

 表1は、地震発生直後から話し合ってきたことをまとめ、職場の壁に貼った掲示です。

表1 地震発生の2日後(1月19日)に職場に貼った掲示
表1 地震発生の2日後(1月19日)に職場に貼った掲示

 また、1月の地震で、一般的には食中毒を大発生させる気温ではありませんでした(図4)。

図4 震災後1か月間の神戸の気温(最高気温、最低気温)と降水量
図4 震災後1か月間の神戸の気温(最高気温、最低気温)と降水量

 それでも、万が一起きては困るということで、1月22日に「健康に注意」という貼り紙をしました(表2)。

表2 地震発生の5日後(1月22日)に職場に貼った掲示
表2 地震発生の5日後(1月22日)に職場に貼った掲示

新型コロナウイルス対策へ余分な負担をかけないという支援

 新型コロナウイルス対策が喫緊の課題となっています。

 新型コロナウイルス対策については専門家の意見を聞いて行動しようと思いますが、それ以外でも、各自が「医療関係者へ、余分な負担をかけない」という支援が必要ではないかと思います。

 新型コロナウイルスと阪神淡路大震災、事象は全く違いますが、医療機関が猛烈に忙しくなっていることについては同じと思うからです。

図1の出典:気象庁ホームページ。

図2の出典:ウエザーマップ資料に著者加筆。

図3、図4、表1、表2の出典:饒村曜(平成8年(1996年))、防災担当者の見た阪神・淡路大震災、日本気象協会。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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