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見える黄砂より危険 見えないpm2.5が来週初めに日本へ襲来

饒村曜気象予報士
中国大気汚染問題 PM2.5で霞む上海(写真:ロイター/アフロ)

PM2.5

 大気中には多くの塵が浮遊していますが、このうち、粒径が2.5マイクロメートル以下という非常に小さい「PM2.5」は、その小ささのために肺の奥深くまで入り込み、なかなか体外に排出されません。

 このため、ぜんそくや気管支などの呼吸器系の疾患を引き起こすとされていますが、その多くは、車や工場から排出される人工起源のものです。

 黄砂など、自然起源のものは、もう少し大きな粒子ですので、目に見えますが、PM2.5は目には見えません(図1)。

図1 大気中に浮遊している粒子状物質
図1 大気中に浮遊している粒子状物質

 このため、中国の経済発展に伴う大気汚染によるPM2.5の増加は、日本にとって対岸の火事ではありません。

週明けのPM2.5

 来週のはじめ、2月3日頃に日本海で低気圧が発達し、その後、移動性高気圧が日本付近に張り出してきます。

 春を思わせる天気図となりますが、黄砂やPM2.5の始まりを思わせる天気図でもあります(図2)。

図2 予想天気図(左は2月3日21時の予想、右は4日21時の予想)
図2 予想天気図(左は2月3日21時の予想、右は4日21時の予想)

 冬型の気圧配置が弱まり、移動性高気圧に覆われるようになると、高気圧の中の下降気流によって、他国から運ばれた大気汚染物質が地表付近に降りてくるからです。

 このため、日本付近では、PM2.5が多い状態になります(図3)。

図3 PM2.5予測
図3 PM2.5予測

 この図3は、気候変動に関する研究の第一人者である九州大学応用力学研究所の竹村俊彦教授が毎日九州大学のコンピュータで予測・公表している『SPRINTARS』のもので、日々研究と改良が行われているものです。

 「極めて多い」は「非常に多いの閾値の2倍」、「非常に多い」は「注意喚起レベル」、「多い」は「日本の環境基準程度」、「やや多い」は「大気が少しかすむ程度」とこのとですので、日本列島でも広い範囲で「日本の環境基準」以上の汚染が予想されていることを示しています。

日本へもPM2.5が飛来

 日本でPM2.5が最初に問題となったのは、今から6年前、平成25年(2013年)のことです(図4)。

図4 平成25年(2013年)のPM2.5の分布
図4 平成25年(2013年)のPM2.5の分布

 平成25年(2013年)1月10日頃から始まった北京市内の激しい大気汚染は、風が弱かったために3週間も継続し、大きな社会問題となりました。

 北京市内にあるアメリカ大使館では敷地の中でPM2.5を観測、インターネットで公開していましたので、中国政府も無視できなくなりました。

 このときから、中国政府によるPM2.5対策が本格的にはじまったと思われますが、まだまだ対策は不十分です。

韓国で深刻な大気汚染

 韓国では、平成31年(2019年)1月14日に過去最悪といわれるPM2.5などの大気汚染が発生していますが、このときの韓国も移動性高気圧が通過中でした。

韓国、PM2.5で「過去最悪」の大気汚染 政府は外出自粛を要請

 韓国各地で14日、微小粒子状物質「PM2.5」などによる大気汚染の観測値が「過去最悪」(韓国メディア)となり、政府は屋外での活動を控えるよう呼び掛けた。ひどい地域では普段の6倍以上の大気汚染物質を観測。ソウルでもビルが白っぽくかすんで見え、マスクをする人が増えた。

出典:毎日新聞(平成31年(2019年)1月14日ネット版)

 韓国では、PM2.5は中国から飛来したとの見方が強いのですが、中国政府は「韓国内で排出されたものだ」と反論しています。

 さらに、中国政府に対して韓国側が再反論するという責任のなすり付け合いに発展しています。

 しかし、この話は日本にとっても他人ごとではありません。

図1、図4の出典:饒村曜(平成25年(2013年))、PM2.5と大気汚染がわかる本、オーム社。

図2の出典:気象庁資料による。

図3の出典:SPRINTARS開発チーム・ウェザーマップ提供

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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