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遭難に注意 前線は傾きが小さいので高い山の天気の崩れは平地よりかなり早い

饒村曜気象予報士
山ガール(写真:アフロ)

ゴールデンウィーク中の低気圧

 ゴールデンウィーク中の5月2日から4日にかけて、前線を伴った低気圧が日本列島を通過するため、全国的に荒れた天気となる見込みで、2日は西日本、3日は東日本太平洋側で大雨となるおそれがあります(図1、図2)。

図1 予想天気図(5月2日21時の予想)
図1 予想天気図(5月2日21時の予想)
図2 鹿児島県薩摩地方と静岡県中部の警報級の可能性
図2 鹿児島県薩摩地方と静岡県中部の警報級の可能性

 多くの人は前線の傾きを説明図で見て誤解していますが、前線の傾きは非常に小さいものです。

前線の傾き

 低気圧が発生したり発達するのは、冷たい空気(重たい空気)が暖かい空気(軽い空気)の下にもぐりこんだり、暖かい空気が冷たい空気の上にはい上がろうとするエネルギーによるからです。

 冷たい空気と暖かい空気の境目(前線面)と地表面との交線が前線で、低気圧はこの前線上で発生・発達し、前線が形成されなくなると衰弱します。というのが一般的な説明です。

 そして、温暖前線は、冷たい空気の上に暖かい空気が上昇しながら冷たい空気を押し進めるもので、前線の寒気側の比較的広い範囲で曇雨天になります。温暖前線の傾きは200分の1から300分の1です。というのが、もう少し詳しい説明です。

 私たちの生活と密接な関係がある気象は、地表面付近のごく薄い大気の中で起こっているのですが、そのまま図示するとわかりにくくなります(正確な縮尺で図を描くと、水平方向を30センチで表現したら鉛直方向は1ミリとなります)。そこで、鉛直方向を大きく引き延ばした図が使われます(図3)。

図3 温暖前線の一般的な説明図
図3 温暖前線の一般的な説明図

 このため、気象を勉強した人が試験で「温暖前線の傾きは200分の1から300分の1」と書けても、高い山では意外に早く前線面が通過することを見落としがちです。

 例えば、種子島付近に温暖前線があり、300分の1の傾きで上方に上がっているとします。種子島付近の温暖前線から約650キロメートル離れた富士山では6合目(2500メートル)よりも高いところでは前線面より上の暖気側に入っています(図4)。

図4 温暖前線の傾きが300分の1の場合
図4 温暖前線の傾きが300分の1の場合

 つまり、温暖前線が九州の南海上にあるといっても、富士山ではすでに温暖前線が通過しています。

 実際には、温暖前線の傾きの他に、地形による強制的な空気の上昇なども加わりますので、高い山での天気の崩れは、平地での天気の崩れより、かなり早くなります。

ゴールデンウィーク後半の登山は早め早め

 ゴールデンウィーク後半に登山を計画している人は気象情報の入手に努め、早め早めに行動して欲しいと思いますが、その時には、「高い山での天気の崩れは、平地での天気の崩れより、かなり早い」ということを意識してください。

 教科書等に載っている図は誇張があります。

 「低気圧が遠くにあるので大丈夫」は山では通用しません。遭難を防ぐためには、早めに切り上げる勇気が必要です。

図1、図2の出典:気象庁ホームページ。

図3、図4の出典:饒村曜(平成22年(2010年)6月)、静岡の地震と気象のうんちく、静岡新聞社。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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