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霧島連山の硫黄山が噴火 火山灰や火山ガスは天気予報技術で予測

饒村曜気象予報士
霧島 韓国岳のすぐ南にある大浪池(ペイレスイメージズ/アフロ)

霧島連山の硫黄山が噴火

 九州南部の宮崎県と鹿児島県の県境に広がる火山群の総称が霧島連山です。最高峰の韓国岳(からくにだけ、標高1700メートル)と霊峰である高千穂峰の間や周辺に多くの山々が連なっています。

 有史以来の噴火活動は、御鉢(おはち)と新燃岳(しんもえだけ)に集中し、交互に噴火を繰り返してきました。平成23年(2011年)1月19日に小規模なマグマ水蒸気噴火に続き、1月26日から中規模のマグマ噴火が始まったのは新燃岳です。

 しかし、平成30年(2018年)4月19日15時39分頃に噴火したのは硫黄山です。北部にある韓国岳の少し北側にある山です。硫黄山が噴火するのは約250年前の明和5年(1768年)以来ということになりますが、このときは、中規模の水蒸気噴火で韓国岳の山体崩壊がおきています。

 

==火山に関する情報== 

 気象庁では、硫黄山が噴火した4分後の19日15時43分に、噴火速報を発表しています。 

 これは、平成26年(2014年)9月27日に長野県と岐阜県の県境にある御岳山噴火で58名が死亡したことを教訓に、平成27年(2015年)8月4日から開始した速報です。噴火の発生事実を迅速に発表する情報で、登山中の方や周辺にお住まいの方に、火山が噴火したことを端的にいち早く伝え、身を守る行動を取ってもらうことを想定しています。

火山名 霧島山(えびの高原(硫黄山)周辺) 噴火速報

平成30年4月19日15時43分 福岡管区気象台 鹿児島地方気象台発表

**(見出し)**

<霧島山(えびの高原(硫黄山)周辺)で噴火が発生>

**(本 文)**

霧島山(えびの高原(硫黄山)周辺)で、平成30年4月19日15時39分頃、噴火が発生しました。

 そして、噴火速報から16分後の19日15時55分に噴火警報を発表し、噴火警戒レベルを「3」に引き上げ、火口から2キロの範囲では、噴石と火砕流に警戒するよう呼びかけています。

平成30年4月19日15時55分 福岡管区気象台・鹿児島地方気象台発表

<霧島山(えびの高原(硫黄山)周辺)に火口周辺警報(噴火警戒レベル3、入山規制)を発表>

 えびの高原の硫黄山から概ね2キロの範囲では、噴火に伴う弾道を描いて飛散する大きな噴石及び火砕流に警戒してください。

<噴火警戒レベルを2(火口周辺規制)から3(入山規制)に引上げ>

噴火警戒レベル

 気象庁は、噴火災害軽減のため、平成19年(2007年)12月より、全国110の活火山を対象として、観測・監視・評価の結果に基づき噴火警報・予報を発表していますが、このときに導入されたのが噴火警戒レベルです(表)。

表 噴火警戒レベル(気象庁ホームページをもとに作成)
表 噴火警戒レベル(気象庁ホームページをもとに作成)

 噴火警戒レベルは、火山活動の状況に応じて「警戒が必要な範囲」と防災機関や住民等の「とるべき防災対応」を5段階に区分して発表する指標です。

 噴火警報は、「警戒が必要な範囲」が火口周辺に限られる場合は「噴火警報(火口周辺)」(又は「火口周辺警報」)、「警戒が必要な範囲」が居住地域まで及ぶ場合は「噴火警報(居住地域)」(又は「噴火警報」)として発表し、海底火山については「噴火警報(周辺海域)」として発表します。

 なお、ここでいう「火口」は、噴火が想定されている火口あるいは火口が出現しうる領域(想定火口域)を意味します。あらかじめ噴火場所(地域)を特定できない伊豆東部火山群等では「地震活動域」を想定火口域として対応します。

特別警報

 噴火災害への対策は、噴火している火山からどのくらい離れている場所に住んでいるかによって異なります。火山噴火はどこでもおきるものではありません。マグマは、岩盤の割れ目など、上昇しやすいところから上昇してきます。昔、マグマがとったところは岩盤が弱くなっているところですので、同じような場所から噴火が起きやすいといえます。

 「噴火警報(居住地域)」は、特別警報に位置づけられていますので、噴火警戒レベル4と噴火警戒レベル5は特別警報ということになりますが、居住地域に影響を及ぼす火山活動というと、多くはマグマが上昇しての噴火ということになります。

 地震と違い、マグマが小さな隙間を押し分けて上昇するときは、地震や微動等の前兆現象がありますので不意打ちはありません。

 しかし、火山噴火には、マグマ噴火のほかに、マグマ水蒸気噴火、水蒸気噴火があります(図1)。

図1 火山噴火の種類
図1 火山噴火の種類

 日本の山の多くは火山に関係している山ですが、その中には、火口付近で、地中の水蒸気が熱せられて爆発する水蒸気噴火が起きることがあります。

 マグマが上昇してきての噴火ではありませんので、噴火の前兆がないか、あっても噴火直前です。

 平成26年(2014年)9月27日の御嶽山噴火は水蒸気噴火で、犠牲者の多くは、噴石が直撃したことによる「損傷死」でした。新幹線並のスピードで飛んでくる噴石は、小さな石でも、あたっただけで生命にかかわります。秋の行楽シーズンの晴天の土曜日で、昼頃の山頂に人が多く集まる頃の噴火で、ほとんど前兆現象がない水蒸気噴火であったことが被害を拡大させました。

 平成30年(2018年)1月23日に群馬県の草津白根山の噴火で1名が死亡しましたが、このときも水蒸気噴火でした。

 気象庁では、水蒸気噴火は予知が難しいのですが、噴火の可能性がある火山周辺に観測機器を多数配置し、少しでも異常を感じたら情報を発表しています。

 霧島連山にも、噴火する可能性がある場所を中心に観測機器が配置されていますが、硫黄岳付近にある観測機器のうち、「韓国岳」、「韓国岳北東」以外は、最近設置したものです(図2)。

図2 霧島連山に設置された火山観測のための各種機器
図2 霧島連山に設置された火山観測のための各種機器

火山灰予報と火山ガス予報

 火山から噴出した火山灰や火山ガスは、大気の流れに従って広がります。重力による落下などを考慮する必要がありますが、基本的には大気の流れに従って広がりますので、火山灰予測は火山ガスの予測は大気の流れの予測技術、つまり、天気予報の技術(コンピュータを用いる数値予報技術)を応用して予測しています。

 霧島連山の硫黄岳が噴火し、火山灰が噴出していますが、どの高さまで噴出したかなどのデータを、数値予報に入力し、将来の火山灰分布を予測しています(図3)。

図3 硫黄岳の噴火に伴う火山灰の分布予測
図3 硫黄岳の噴火に伴う火山灰の分布予測

 硫黄岳からは顕著な火山ガスの放出はありませんので、火山ガス予報は発表していませんが、平成12年(2000年)に始まった東京都三宅島の雄山の噴火では、有毒な火山ガス(二酸化硫黄)の放出がありました。

 このため、三宅島の住民全員が一時的に島外避難をし、その住民が島に戻ることとなった平成15年(2003年)4月18日から、火山ガスの影響が無くなった平成27年(2015年)11月30日まで形を少し変えながら火山ガス予報が発表されました。

 この火山ガス予報も天気予報の技術を用いています。世界的に見ても、気象庁のように、気象と火山を一つの組織で行っている国は珍しいといえますが、一つの組織で行っているメリットの一つが、火山灰予報と火山ガス予報です。

表、図1の出典:饒村曜(平成27年(2015年))、火山、成山堂書店。

図2、図3の出典:気象庁ホームページ。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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