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記録的な大雪と寒さになった三八豪雪のときは、今年と同じ黒潮大蛇行とラニーニャ現象

饒村曜気象予報士
雪の壁(ペイレスイメージズ/アフロ)

 今冬一番の寒気が南下し、日本海側の地方では大雪となっています。今冬は記録的な大雪と寒さになった「三八豪雪」と同様、黒潮大蛇行とラニーニャ現象が同時に発生しています。

黒潮大蛇行に続いてラニーニャ現象も発生

 気象庁と海上保安庁は平成29年(2017年)9月29日に、不漁による魚の価格高騰などで暮らしを直撃する黒潮大蛇行が12年ぶりに発生したと発表しました。8月下旬から黒潮が紀伊半島から東海沖で離岸し、北緯32 度より南まで蛇行して流れる状態が続いているので、平成17 年(2005 年)8 月以来12 年ぶりに黒潮大蛇行になったという内容です。

 海と大気は相互作用をしており、その関係は解明されたわけではありませんが、黒潮大蛇行がおきているとき、黒潮だけでなく、地球の海洋全体、地球の大気全体も通常とは違っていると考えられます。黒潮大蛇行がいつまで続くかはわかりませんが、過去の記録的な「豪雪」は、ほとんどが黒潮大蛇行の期間と重なるか、その直前か直後です。図1は、東海沖における黒潮流路の最南下緯度ですが、この最南下緯度が大きく南下している期間が黒潮大蛇行の期間です。

図1 東海沖における黒潮流路の最南下緯度の経年変動(1961年1月~2016年12月)
図1 東海沖における黒潮流路の最南下緯度の経年変動(1961年1月~2016年12月)

 また、気象庁は平成29年12月11日に、日本に厳しい寒さをもたらすとされるラニーニャ現象が発生しているとみられ、来年の春まで続く可能性が平常の状態にもどる可能性より高いと発表しました。

 気象庁では、東部太平洋赤道域の海域(エルニーニョ監視海域)の海面水温を常時監視し、移動平均で平年より0.5度以上低くなる現象をラニーニャ現象、0.5度以上高くなる現象をエルニーニョ現象として情報を発表していますが、今後、平年より0.5度以上低くなるという予測がでたからです(図2、図3)。

図2 エルニーニョ現象時とラニーニャ現象時の説明図
図2 エルニーニョ現象時とラニーニャ現象時の説明図
図3 エルニーニョ監視海域の海面水温の基準値との差の5ヶ月移動平均値
図3 エルニーニョ監視海域の海面水温の基準値との差の5ヶ月移動平均値

 昨年、平成28年(2016年)秋にも、ラニーニャ現象がおきて厳しい寒さとなるのではと言われていました。ゴリラとあだ名がつくほど強かったエルニーニョ現象が終わり、ラニーニャ現象が始まるのでないかと予測されたからです(図4)。

図4 平成28年秋の段階でのラニーニャ現象の予測
図4 平成28年秋の段階でのラニーニャ現象の予測

 加えて、関東地方は11月としては強い寒気が南下して平野部でも雪となり、11月24日は東京都心でも54年ぶりの11月の初雪となりました。昭和37年(1962年)11月に東京地方で4日も11月に雪が降っていますので、54年ぶりで、「三八豪雪」再来の可能性が懸念されました。その後、北海道では11月に各地でまとまった雪が降り、12月も24日の札幌市の積雪が96センチとなるなど、50年ぶりの大雪にみまわれていますが、ラニーニャ現象にはならず、1月以降の冬の中盤から後半は暖かくなって「三八豪雪」の再来はありませんでした。

          

記録的な大雪と寒さになった「三八豪雪」

 昭和37年(1962年)11月下旬の前半には、北日本を中心に非常に強い寒気が南下し、北海道などで大雪となっています。12月上旬になると東日本や西日本を中心に寒気が南下し、1月には西日本を中心に寒気が南下し、全国的な大雪となっています。

 冬型の気圧配置の中で日本海で発生した小低気圧による平野部を中心とした降雪と、この低気圧が通過した後に強まった季節風の吹出しによる山間部を中心とした降雪が繰り返され、新潟県の長岡市では3メートル18センチ、福井市では2メートル13センチ、金沢市では1メートル81センチなど、観測史上第1位の最新積雪を記録しました。この年の気温は平年より低く、日照時間も少なかったことから降雪のほとんどが溶けずに蓄積され、北陸地方では過去の積雪を大幅に更新する豪雪となりました。

 「三八豪雪」は、人口密度が高い平野部で長時間降り続く里雪であったため被害が大きく広がりました。積雪に見舞われた地域では、二階からの出入りを余儀なくされた地域や、小中学校だけでなく高校や大学までも休校しました。

北陸地方を中心に建物の倒壊被害や鉄道や自動車交通などの交通途絶による生活機能や産業機能がまひするという被害が発生しました。戦前の雪国の備蓄してあるもので生活するというライフスタイルから、高度成長期に入って生活必需品の流通範囲が広がり、鉄道や自動車交通に依存したなかでの豪雪でした。

 「三八豪雪」は、北半球を取り巻く上空の偏西風の蛇行が昭和38年1月~2月に異常に大きくなったことから、北極の寒気がアメリカ・ヨーロッパ・東アジアの3方向に大きく南下して発生しました。

 死者・行方不明者が231名、住宅被害1735棟など大きな被害が発生したため、気象庁は「昭和38年1月豪雪」と命名しました(通称「三八豪雪」)。気象庁が豪雪に対して命名したのは、このときが最初でした。

計算上は何万年に1回

 統計的には、普通の気象現象は、その96%が平均値を中心とした標準偏差の2倍以内に入っており、平均値から標準偏差の何倍も離れていることはほとんどありません(図5)。

図5 正規分布する場合の出現度数確率
図5 正規分布する場合の出現度数確率

 しかし、昭和38年1月の東京の月平均気圧は、標準偏差の5.5倍も低い1005ヘクトパスカルです(図6)。月間を通して北極寒波の氾濫が強く、例年アリューシャン列島付近にできる冬の低圧部が西にかたよって日本のすぐ東海上であったためです。東京の1月の月平均気圧は平年なら1016ヘクトパスカル位ですから、計算上は何万年に1度という低圧現象です。これだけ、異常なことが起きている冬でした。

図6 東京の1月の月平均気圧の平年変化
図6 東京の1月の月平均気圧の平年変化

気象庁が命名した豪雪

 一般的には、いろいろな「○○豪雪」という言葉がありますが、気象庁が豪雪に対して命名したのは、「昭和38年1月豪雪」と、43年後の平成18年(2006年)に発生した「平成18年豪雪」の2つだけです。

 そして、2つの豪雪ともに、ラニーニャ現象のときであり、黒潮大蛇行の期間中か直後です。

 つまり、ラニーニャ現象と黒潮大蛇行がともに発生している今年の冬は、豪雪に厳重な警戒が必要な冬です。 

 

図1の出典:気象庁ホームページに豪雪期間を加筆。

図2、図3、図4の出典:気象庁ホームページ。 

図5、図6の出典:饒村曜(2000年)、気象のしくみ、日本実業出版社。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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