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前線と台風という危険な組み合わせ 平成17年には最初の土砂災害警戒情報

饒村曜気象予報士
ウコン(ペイレスイメージズ/アフロ)

台風が発生すれば名前は「グチョル(うこん)」

 高気圧が日本の東海上に移動し、西日本から秋雨前線が顕在化しはじめています。

 南から湿った空気が流入し、鹿児島県の奄美大島と喜界島では、すでに、所によって1時間雨量が100ミリを超えるような猛烈な雨が降っており、名瀬測候所では「50年に一度の記録的な大雨となっているところがあります」とする情報を発表しています。

 また、フィリピンの東海上の熱帯低気圧が発達中で、台風17号となる見込みで、天気図は秋雨前線と台風が存在する天気図となります(図1)。

図1 予想天気図(平成29年9月6日9時の予想)
図1 予想天気図(平成29年9月6日9時の予想)

追記(平成29年9月6日):フィリピンの東海上の熱帯低気圧は、台湾の南海上を西進して9月6日9時に台風17号「グチョル(うこん)」になりました。

 このように秋雨前線と台風が記入されている天気図の時は、平成17年(2005年)9月の時のように、大きな災害がいつ発生してもおかしくない状況の時です。

 なお、台風が発生すると、その年の発生順に台風番号がつけられますので、今年17番目に発生した台風が、台風17号ということになりますが、台風には、台風番号と同時に名前も付けられます。アジア等の14ヵ国が10個ずつ名前を提案したリストから順に名付けられ、台風17号が発生した場合には、リストからミクロネシアが提案した「グチョル」と命名されます。意味は、香辛料などで使う「うこん」です。

平成17年の秋雨前線と台風14号

 平成17年の台風14号(名前「ナービー」)は、日本の南海上から北上し、広い暴風域を維持したまま9月6日14時過ぎに長崎県諫早市付近に上陸し、九州地方北部を通過して山陰沖に抜けています。

図2 地上天気図(平成17年9月6日9時)
図2 地上天気図(平成17年9月6日9時)

 台風14号は、広い暴風域を維持したまま、比較的ゆっくりした速度で進んだため、長時間にわたって暴風、高波、大雨が続いています。このため、九州、中国、四国地方の各地で3日から8日までの総雨量が、9月の月間平均雨量の2倍を超えています。

 また、台風14号が日本の南海上にあった3日から4日には、本州上に停滞する秋雨前線に向かって暖かく湿った空気が流入して、前線活動が活発化して。このため、3日には鳥取県、京都府、新潟県、福島県で1時間に60mm前後の非常に激しい雨が降り、 4日夕方から5日未明にかけては東京都と埼玉県では1時間に100mmを超える猛烈な雨が降っています(図3)。

図3 東京都、埼玉県、神奈川県の降水量(9月4日1時~5日9時)
図3 東京都、埼玉県、神奈川県の降水量(9月4日1時~5日9時)

 このため、熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県を中心に九州地方~東北地方で土砂災害、大雨による浸水が発生し、岡山県、広島県、香川県では高潮による床上・床下浸水が発生しました。秋雨前線と台風14号による被害は、死者・行方不明者29名、住家被害8000棟、浸水被害1万3000棟などという大きなものでした。

「ナービー」の引退

 平成17年の台風14号の名前「ナービー」は、韓国が提案した名前で、意味は幸せをもたらす黄色の蝶のことですが、日本で大きな被害が発生したことと、イスラム教の預言者を表す「ナビー」と発音が同じであることなどから、平成17年の台風14号を最後に、台風の名前のリストから引退し、韓国が新たに提案した名前「トクスリ(鷲)」がリストに載り、使われています。

 つまり、「ナービー」という名前の台風は、今後使いませんので、日本で大きな被害をもたらした台風の名前として長く記憶されることになります。

最初の土砂災害警戒情報

 平成17年の台風第14号と秋雨前線による大雨に対し、鹿児島県と鹿児島地方気象台は、9月5日9時40分に全国で初めて土砂災害警戒情報第1号を発表しました(図4)。

図4 最初の土砂災害警戒情報(平成17年9月5日10時40分)
図4 最初の土砂災害警戒情報(平成17年9月5日10時40分)

 内容は、県南東部にある肝月町付近では今後24時間以内に、大雨による土砂災害の危険度が非常に高くなる見込みというもので、今後3時間以内の最大1時間雨量は多い所で40ミリ、最大24時間雨量は多い所で400ミリというものです。

 その後、12時43分には第2号、13時40分に第3号、14時39分には第4号と、強い雨域の拡大と共に、ほぼ1時間おきに土砂災害警戒情報が発表され、全県が解除となった第45号の発表は、9月7日9時25分です。鹿児島県内の全72市町村中、59市町村が警戒対象となりました。

 全国初の土砂災害警戒情報ということもあり、テレビ局は積極的に報道しましたが、土砂災害警戒情報の発表が47時間45分の間に45回と、ほぼ毎時間発表されたため、民放においては処理しきれなくなり、途中で文字スーパーの対応を中止しています。

 土砂災害警戒情報の初めての発表は、使いこなせないほどの大量の情報による大混乱がおきていますが、その後の改善に活かされています。

 都道府県と気象庁が共同で発表している土砂災害警戒情報は、現在、大雨警報(土砂災害)発表時で、土砂災害発生の危険度がさらに高まったときに、市町村長の避難勧告や住民の自主避難の判断を支援するよう、対象となる市町村を特定して警戒を呼びかける情報となっています。

気象情報に注意の一週間

 台風が発生したあと、どのような進路をとるのか、日本にどのような影響を与えるのかはまだはっきりしませんが、前線と台風という危険な組み合わせの天気図となりそうです。

 気象情報に注意が必要な一週間です。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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