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台風ラッシュの7月 藤原の効果で進路予想が難しい台風5号が接近中

饒村曜気象予報士
日本の東海上の台風5号(気象衛星ひまわりの可視画像、平成29年7月25日12時)

7月の台風発生数の記録

今年の台風は、4月に1個、6月に1個発生し、7月はこれまでに7個の合計9個が発生しています。

図1 予想天気図(7月26日21時の予想)
図1 予想天気図(7月26日21時の予想)

予想天気図では、日本の関東海上に台風5号がありますが(台風6号は消滅)、その台風5号の東海上とフィリピンの東海上に台風の卵である熱帯低気圧(天気図上でTDと表記)があります。

つまり、台風9号と台風10号が発生する可能性があることを示している天気図です。

その後、7月26日12時に台風9号が発生し、7月として7個目の発生となりました。

台風10号が発生すると、7月の台風発生数は8個となり、昭和26年(1951年)の統計開始以来の記録となります。

これまでは、昭和46年(1971年)7月に記録した8個、平成6年(1994年)7月などで記録した7個があります。

東から接近する台風5号

日本の東海上にある台風5号は、台風6号と藤原の効果と呼ばれる相互作用で一回転したあと、西進をはじめています(図2)。週末には小笠原諸島に接近の見込みです。

図2 台風5号の72時間予報(7月26日0時の予報)
図2 台風5号の72時間予報(7月26日0時の予報)

比較的高い緯度を西進ですので、このまま西進を続けることは考えられす、どこかのタイミングで転向し、北上してくる可能性があります。このため、4日先、5日先の予報円は大きなものになってなっています(図3)。

図3 台風5号の5日先までの進路予報(7月26日0時の予報)
図3 台風5号の5日先までの進路予報(7月26日0時の予報)

来週の台風の動きは、まだはっきりしていませんが、もし北上した場合は、梅雨前線を刺激し、場所によっては大雨になる可能性があります。

台風情報重視の一週間です。

台風5号と台風6号の相互作用(藤原の効果)

台風6号は日本の東海上で7月25日21時に熱帯低気圧に衰えましたが、それまでは台風5号と相互作用を起こしていました。

図4は7月25日21時の天気図上に台風5号と台風6号、上空に寒気を伴った低気圧の移動を記入したものです。ここで、黒丸は9時の位置で、7月26日のみは予想です。

図4 台風5号と台風6号、上空に寒気を伴った低気圧の移動
図4 台風5号と台風6号、上空に寒気を伴った低気圧の移動

図4で、台風5号と台風6号の位置を結ぶと、2つの台風は重心を中心として回転しています。「藤原の効果」と呼ばれる相互作用をおこして複雑な動きをしたと考えられます。

そして、台風5号が西進を続けると、今度は、四国の南海上にある上空に寒気を伴った低気圧と相互作用をする可能性があります。

上空に寒気を伴った低気圧は、地上天気図では小さな低気圧ですが、高層天気図では、顕著な低気圧で、台風の場合と同様に、藤原の効果を引き起こします。

台風が複数あるときは、藤原の効果により台風は複雑な動きをします。

このため、予報が非常に難しく、予報誤差が大きくなりがちです。昭和50年代のアメリカの調査ですが、北太平洋西部の台風進路予報においては、台風が1個の場合に比べ2個ある場合の誤差は1割増し、3個ある場合は2割増しになっています。

藤原の効果

 2つの渦の相互作用についての研究は、明治20代の北尾次郎の理論研究から始まっているとされていますが、これを岡田武松が発展させ、大正10年には藤原咲平が一般性を持った法則にまで拡大させています。のちに岡田武松は中央気象台長(現在の気象庁長官)となり、昭和16年の夏に、藤原咲平が岡田武松のあとを継いで中央気象台長になっています。

 しかし、台風の動きに関して、“藤原の効果”が言われだしたのは、戦後、米軍の飛行機観測によって台風の位置をかなり正確に求めることができるようになってからです。

 藤原咲平は、昭和22年4月20日の第一回参議院議員選挙に立候補し、全国的に「お天気博士」として著名なことから当選確実と見られていましたが、太平洋戦争時に中央気象台長として戦争協力をしていたということで投票日直前に公職追放となっています。

 中央気象台職員は、アメリカ軍(進駐軍)の指揮下で仕事をしていましたが、このようなことがあっても、たびたび「Fujiwhara Effect」という言葉を聞き、きちんと良い技術を認めているアメリカの姿勢に感銘をうけたと言われています。

 藤原の効果は図5のように6つに分類されています。

1 相寄り型:一方の台風が極めて弱い場合、弱い台風は強い台風にまきこまれ急速に衰弱し、一つに融合する。

2 指向型:一方の台風の循環流が指向流と重なって、他の台風の動きを支配して自らは衰弱する。

3 追従型:初めは東西にならんだ2個の台風のうち、まず1個が先行し、その後を同じような経路を通って他の台風が追従する。

4 時間待ち型:発達しながら北西進している東側の台風が、北に位置するのを待って西側の台風も北上する。

5 同行型:2個の台風が並列して同じ方向に進む。

6 離反型:台風が同じ位の強さの場合に起き、一方は加速し北東へ、一方は減速して西へ進みます。

図5 藤原の効果の6つの型
図5 藤原の効果の6つの型

訂正(7月27日):最初の記事では、誤って7月の台風発生数の記録を7個していましたが、昭和46年(1971年)7月に8個を記録していることから、誤りを訂正します。また、7月26日12時に台風9号が発生し、7月として7個目の発生となりました。以上から、記事の一部(冒頭の7月の台風発生数の記録)を訂正します。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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