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気象庁が「梅雨入り」を発表した翌日は、雨が降らないことが多い

饒村曜気象予報士
横断歩道を渡る傘を差した人々(写真:アフロ)

沖縄地方と奄美地方で梅雨入り

気象庁では、沖縄地方では4日頃、鹿児島県奄美地方では2日頃、平年より遅く梅雨入りしたとみられると発表しました。ただ、昨年に比べれば、ともに3日早い梅雨入りです。

沖縄付近には停滞前線がありますが、梅雨入りしたことによって、この前線が梅雨前線ということになります(図1)。

図1 予想天気図(平成29年5月14日9時の予想)
図1 予想天気図(平成29年5月14日9時の予想)

気象庁の「梅雨入りの予報」

気象庁では、梅雨のない北海道を除いた日本を12の地域(沖縄、奄美、九州南部、九州北部、四国、中国、近畿、北陸、東海、関東甲信、東北南部、東北北部)に分け、気象予測をもとに「○○日頃梅雨入り(明け)したと見られます」という速報を発表します。

「梅雨を観測し、観測結果を発表」するのではなく、「梅雨を予報し、予報結果を速報で発表」しているのです。

そして、梅雨の季節が過ぎてから、春から夏にかけての実際の天候経過を考慮した検討をし、9月の初めに「梅雨入りと梅雨明けを統計値として確定」しています。

つまり、9月の初めに「梅雨の観測結果を発表」しているのです。

したがって、平成21年のように、九州から東北地方の梅雨入りの速報では6月9日から11日でしたが、統計値は6月2日から4日と、速報と統計値が大きく異なることがあります。

梅雨と雨季は違う

日本は周期的に雨が降っており、「梅雨入り」の日からは次の雨が降るまでの期間が短くなるのであって、東南アジアやインドのように、その日から雨が続く「雨季入り」の日とは違います。このため、「梅雨入り」の翌日が晴れということがよくあります(図2)。

図2 梅雨の説明図(速報が7日の場合)
図2 梅雨の説明図(速報が7日の場合)

今年も、沖縄地方と奄美地方の、梅雨入りの翌日の天気予報には、はっきりした雨はついていません。

沖縄本島中南部の天気予報(沖縄気象台、5月13日17時発表)

13日 (梅雨入り)

14日 南西の風 後 北東の風 くもり 明け方から朝 雨 所により昼前まで雷を伴う

15日 北東の風 後 東の風 くもり一時雨

奄美地方の天気予報(鹿児島地方気象台、5月13日17時発表)

13日 (梅雨入り)

14日 北の風 くもり 昼過ぎから晴れ 所により明け方まで雨で雷を伴う

15日 北東の風 後 東の風 くもり時々晴れ

いつも難しい「梅雨入り」の予報

図2の説明図では、速報で7日を「梅雨入り」としています。しかし、翌8日が晴れであることを重視すると9日が、また4日から6日の曇りを重視すれば2日が、それぞれ梅雨入りということになります。

このように、「梅雨入り」は、後になってみないと特定できないもので、いつも難しい予報です。

このため、気象庁の発表では、「頃に」と、「見られます」という言葉が付加されています。

梅雨入りがはっきりしないと、梅雨入りを特定しないこともあります。

梅雨明けも同様です。

梅雨明けは、夏を迎えるという意味があることから、秋の気配が表われてくる頃とされる立秋(8月8日頃)を過ぎると日の特定はしません。

このため、梅雨明けが遅い北日本ほど梅雨明けを特定しない年が多くなり、近年増加傾向にあります。

気象庁は「梅雨明けを特定しない」と発表しても、どこかで梅雨明けをしています。したがって、翌年の「梅雨入り」があるわけです。

沖縄の梅雨入り

同じ梅雨の雨といっても、降り方には差があります。梅雨はシトシトと雨が降り続くイメージがあるのですが、それは、関東を中心とした梅雨の雨のイメージです。

沖縄の梅雨は、スコールのように、降るときはいきなりザーッと降り、降り止むと青空が広がりることが多いという特徴があります。

沖縄の梅雨入りの平年値(昭和55年から平成22年までの30年平均)は5月9日ですが、昭和26年以降で最も早かったのは4月20日(1980年)で、10年に一回位は4月に梅雨入りです(表)。

梅雨明けの平年値は6月23日で、昭和26年以降で最も早かったのは昨年の6月8日です。最も遅かった梅雨入りの6月4日(1963年)との差は4日です。

表 沖縄の梅雨入りと梅雨明け
表 沖縄の梅雨入りと梅雨明け

昭和20年の太平洋戦争の沖縄戦の激戦は、梅雨入りとともに始まり、梅雨明けで終わっています

空軍の活動が制約される梅雨になっても、日本軍に簡単に勝てるとの思惑があったのかもしれません。

沖縄戦は、梅雨最中の、ぬかるみの中での戦いでしたが、南へ南へと追い詰められた日本軍の組織的な戦闘は6月下旬に終わっています。

このころ、沖縄が梅雨明けしました。

平和公園が作られている沖縄本島南部の摩文仁で陸軍司令官らが自決した6月23日が「沖縄慰霊の日」となっていますが、この日は、梅雨明けの平年日です。

沖縄の梅雨明けは梅雨末期豪雨に警戒のサイン

沖縄地方では、最も早い梅雨明けが平成27年の6月8日、最も遅い梅雨明けが昭和51年の7月9日と1ヶ月以上の大きな差がありますが、平年では6月23日です。

梅雨入りをした、沖縄・奄美地方では、これから梅雨明けするまでの1ヶ月ちょっとは、雨に注意が必要です。特に、台風が接近する時には、台風が梅雨前線を刺激して大雨をふらせ、そこに台風本体の雨が加わることがありますので、警戒が必要です。

また、梅雨前線が北上し、沖縄・奄美地方が梅雨明けするときは、北上した梅雨前線が停滞する本州・四国・九州では、梅雨末期の豪雨に警戒が必要となります。

図2の出典:饒村曜(2014)、天気と気象100 一生付き合う自然現象を本格解説、オーム社。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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