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北海道から九州まで目に見える黄砂が襲来、続いて目に見えないPM2.5等の汚染物質が襲来

饒村曜気象予報士
Aerial view of Los Angeles(写真:アフロ)

春から初夏は日射が強く対流活動が活発になり、空中にはほこりやチリが沢山浮いて空は白っぽくなります。春霞などの風物詩となっているうちはよいのですが、黄砂に汚染物質が付着して飛来するとなると話は違います。

北海道から九州まで黄砂

5月7日は、北海道から九州まで広い範囲で黄砂を観測しましたが、気象庁の予想では、8日も西日本を中心に黄砂が予想され、視程が5キロメートルとなって交通機関の影響が出ることが懸念されています(図1)。

図1 黄砂の分布(5月7日21時)
図1 黄砂の分布(5月7日21時)

黄砂だけでなく、汚染物質が中国から飛来することがあります。

平成19年の光化学スモッグ

平成19年は、春から夏にかけて、ときどき西日本を中心に広い地域で光化学スモッグ注意報が発表されました。

中でも、移動性高気圧に被われた5月8日から9日にかけては、九州北部から関東では、自動車の通行量が少なく、大気汚染物質を排出する工場等が近くにない山奥や離島も含めて20都府県で光化学スモッグを観測し、目やのどの痛みを訴える人がでました(図2)。

日本では汚染物質の排出が減っているので、環境対策が遅れている中国のせいではと大きく報道されました。中国大陸で発生したオゾンが主原因で、それが西風で運ばれてきたというシミュレーション研究もあります。

図2 平成19年5月8日9時の地上天気図
図2 平成19年5月8日9時の地上天気図

越境大気汚染

汚染物質が国境を越えて発生源から遠く離れた地域まで運ばれることを越境汚染といい、大気経由で汚染物質が運ばれることが多いのですが、川経由や汚染物質を取り込んだ魚などの移動による汚染もあります。

ヨーロッパ諸国や北米では早くから越境汚染が問題となっていました。酸性雨等の越境大気汚染の防止対策を義務づけたり、酸性雨等の被害影響の状況の監視・評価、原因物質の排出削減対策などを定めた「長距離越境大気汚染条約(LRTAP:Convention on Long-range Trans-boundary Air Pollution)が昭和58年に発効しています。

海に囲まれた日本では、これまで越境汚染は特に問題とならなかったのですが、近年、韓国や中国のめざましい経済発展に伴って発生した多量の大気汚染物質が偏西風などに乗ってくるのではと、越境汚染が問題になりつつあります。

オゾンやPM2.5等の大気汚染物質は、国際的な分布を考えなければならない時代になってきました。

日本で起きている現象でも、地球規模の影響を受けていますので、根本的な防災活動には、国際的な観測ネットワークの構築や、正確な予測情報の発表と提供、具体的な防災活動のノウハウの提供などの国際貢献が必要です。

光化学スモッグの始まりはロサンゼルス

昭和10年代になると、自動車の台数が飛躍的に増え、その排気ガスの増加に伴い、目・鼻・気道への刺激を特徴とする現象が現れるようになりました。それまでの煤煙を主体とし、霧を伴っていたロンドン型スモッグとは違い、晴れた日の昼間に発生し霧を伴わなかったのが特徴で、大規模な発生が報告されたアメリカのロサンゼルスの名をとって「ロサンゼルス型スモッグ」、「光化学スモッグ」と呼ぶようになりました。

人間活動によって大気中に放出された硫黄酸化物と窒素酸化物などが太陽からの紫外線を受けて生成される光化学オキシダントが原因です。

光化学オキシダントは、生成されるまで時間がかかるため、発生源が沿岸部でも沿岸部が高濃度になることは少なく、沿岸部の汚染が流れ込んできた内陸の方で高濃度が観測されることのほうが多いという特徴があります。

昭和45年から日本でも光化学スモッグ

日本で光化学スモッグが広く知れ渡ったのは、昭和45年(1970年)7月18日に東京都が初めて光化学スモッグが発生したと推定してからです。梅雨前線が弱まって東京で2回目、20日ぶりの真夏日となったこの日、東京都杉並区で運動中の女子高生が突然吐き気を訴え、43人が入院するという騒ぎとなりました。翌日の朝日新聞では、「新しい公害。海の向こうの大気汚染都市ロサンゼルスで多発が知られているだけの『光化学スモッグ』―オキシダントと硫酸微粒子の霧が住宅街の一角を襲って、次々と女生徒をうずくまらせた。」と報じています。

国内の光化学スモッグ注意報などの発表延べ日数は、昭和48年に300日以上のピークに達しています。

昭和54年には100日以下に減少しましたが、その後再び100日から200日前後に増加し、平成8年や平成19年には200日を超えるなど、21世紀に入っても、ときどき多く発生しています。

平成19年は220日の発表ですが、新潟県と大分県では、観測史上初めての光化学スモッグ注意報が発表されました。

日本で公害が大問題になっていた時でも発表がなかった両県での発表は、日本での原因だけでなく、日本以外の原因があることを示唆しています。

光化学スモッグ注意報

各都道府県及び北九州市が汚染物質濃度を監視しており、一定濃度以上になると予想されると、予報とともにスモッグ注意報、スモッグ警報などの大気汚染注意報を発表します。

また光化学スモッグに関しては、翌日に発生が予想される場合は全国(日本国内全域)を対象に「全般スモッグ 気象情報」を、当日に発生が予想される場合は各地方を対象に「スモッグ気象情報」を、それぞれ気象庁が発表します。

これは、光化学オキシダントなど大気汚染が発生しやすいような気象状況が予想される場合や、汚染が特にひどく、自治体から「スモッグ注意報」が発表される恐れがある気象状態が予想される場合に発表されます。

大気汚染気象予報の方法は、一般の天気予報と同様に、数値予報をもとに行われます。一般の天気予報では、気象について激しい現象の有無が予想のポイントですが、大気汚染気象予報では、逆に、どの程度穏やかな気象状態であるのかが予想のポイントとなります。

PM2.5の飛来

大気汚染では、世界の多くの国で直径が10マイクロメートル以下の粒子「PM10」を観測してきましたが、1990年代後半からは、観測技術が向上してきたことから、人体への影響が深刻な、より小さな粒子、直径が2.5マイクロメートル以下の粒子「PM2.5」の観測が始まっています。

日本でPM2.5が一般の人に注目されたのは、4年前の平成25年(2013年)1月~2月に、中国の影響を受けて日本のPM2.5濃度が上昇したときが初めと思われます。しかしこのときも、過去に比べて極端に数値が大きくなったわけではありません。

一般的にはPM10が多ければ、PM2.5も多いと言えますが、単純ではありません。小さくなればなるほど、工場や車から発生する人為発生の粒子の割合が増えてくるからです。

このため、比較的粒子が大きい黄砂の予報と非常に粒子が小さいPM2.5の予報は別物です。

これは、小さい粒子ほど、地表付近まで落下するのに時間がかかるなどの理由からです。

SPRINTARS開発チーム・ウェザーマップの予想によると、中国から飛来した黄砂が弱まって日本の東海上に達した5月9日になってから、関東から中国・四国地方の地表付近のPM2.5の濃度が高くなります(図3、図4)。

図3 黄砂の予想(5月9日9時の予想、気象庁による)
図3 黄砂の予想(5月9日9時の予想、気象庁による)
図4 PM2.5の予想(5月9日9時の予想、「SPRINTARS開発チーム・ウェザーマップ」による)
図4 PM2.5の予想(5月9日9時の予想、「SPRINTARS開発チーム・ウェザーマップ」による)

5月8日17時30分に追加

PM2.5予測:東アジア(動画)「SPRINTARS/九州大学 竹村俊彦教授」による

PM2.5の予想(tenki.jp)「日本気象協会」による

移動性高気圧が日本の東海上に抜け、低気圧が東シナ海に現れても、高気圧の張り出しが関東から中部地方に残っているからで、下降気流によって上空のPM2.5が地表付近におりてくるからです(図5)。

図5 地上天気図の予想(5月9日9時の予想、気象庁による)
図5 地上天気図の予想(5月9日9時の予想、気象庁による)

5月9日には目に見える黄砂が弱まったとしても、目に見えないPM2.5が増えるという予想になっています。

このため、適宜、PM2.5の情報入手に務める必要があります。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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