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鳥取大火と糸魚川大火 発達した低気圧が日本海にあるときは大火に注意

饒村曜気象予報士
鳥取港(ペイレスイメージズ/アフロ)

昨年12月22日、新潟県の糸魚川市で大火が発生しましたが、今から62年前、糸魚川市の大火のときに似ている気圧配置のときに、鳥取市で記録的な大火が発生しています。

週初めは、日本海で低気圧が発達しますが、日本海側では火災にも注意です。

4月17日18時削除(低気圧が日本海の沿岸近くを通過しているため)

糸魚川市駅北大火

昨年12月22日は、日本海で低気圧が発達したため、日本海側の地方ではフェーン現象が起きています(図1)。

図1 地上天気図(平成28年12月22日9時)
図1 地上天気図(平成28年12月22日9時)

新潟県糸魚川では西よりの風が南風に変わって3時頃から風が強まり、気温が上昇しています(図2)。

図2 糸魚川の気温・風速と高田の湿度(2016年12月22日)
図2 糸魚川の気温・風速と高田の湿度(2016年12月22日)

地域気象観測所(アメダス)の糸魚川では湿度の観測をしていませんが、近くにある特別地域気象観測所(旧測候所)では、3時頃から湿度の値が小さくなっています(乾燥しています)。風速は7時頃から10m/sを超え、昼前には最大風速14.2m/s(南の風)、最大瞬間風速24.2m/s(南の風)を観測しています。

糸魚川では、周囲に比べて強い風が吹いていますが、これは、糸魚川を流れる姫川沿いで「姫川だし」が加わったのではないかと考えられます。「だし」と呼ばれる局地風は、姫川のように、ほぼ南から北に流れる川の付近で、山あいを吹き降りてくる南風、つまり、フェーン現象がおきるときの風向で起きます。船を沖合に「出す」のにちょうどよい風という意味が「だし」の語源といわれています。

フェーン現象の最中に、新潟県糸魚川市では、10時20分頃にJR糸魚川駅前から火災が発生し、強い南風にあおられ、木造密集地帯を焼く大火となっています。なお、糸魚川市は、今回の大火を「糸魚川市駅北大火」と名付けています。

その後、21時頃に低気圧に伴う寒冷前線が通過し、風向が西から南に変わって雨が降りだし、湿度も高くなってフェーン現象が終わっています。しかし、火災は、翌日の夕方まで、30時間も燃え続け、4万平方mを焼く大火となっています。

気象災害は3種類

気象災害には、気象の現象そのものが災害となるもの、気象の現象が引き起こすものが災害になるもの、災害を起こす現象がほかにあり、気象の現象が拡大や集中させることで災害になるものの3種類があります。

風でいえば、強い風によって建物が倒れるなどの風害が、現象そのものの災害です。

また、強い風によって高い波が発生し、その波によって海岸が削られるなどの波浪害が現象が引き起こすものによる災害です。

これに対し、強い風によって火災が広がって大火になるのが現象が拡大や集中させる災害です。

糸魚川市の大火では、「被災者生活再建支援法(平成10年法律第66号)」という、自然災害の被災者への支援を目的とした法律が適用され、住宅被災者に支援金が支給となっています。

この法律は、原則として地震や津波などの自然災害が対象ですが、強風により広範囲に延焼した点なども考慮し、自然災害の風害にあたるとして適用を決めてたのですが、火災への支給は初めてのことです。

鳥取大火

今から65年前の昭和27年(1952年)4月17日、鳥取市では15時ごろに鳥取駅前の空き家から出火した火災(原因不明)は、おりからの強風にあおられて北側に扇形に広がり、夜になっても日の勢い輪衰えず、焼損面積45万平方メートルという大火災になっています。平成28年12月の糸魚川市の大火の11倍という焼損面積です。当時の鳥取市の人口は6万1000人でしたが、その32パーセントに当たる2万人が被災しました。

鳥取市は戦争中の空襲被害こそありませんでしたが、昭和18年9月10日の鳥取地震(マグニチュード7.2)により大きな被害を受けていました。地震被害が大きかったので空襲がなかったのかもしれません。この鳥取地震被害の傷が癒えたときに発生したのが鳥取大火でした。

昭和27年の鳥取大火のときの気圧配置は、昨年の糸魚川大火のときと似ており、日本海に発達した低気圧が日本海にありました(図3)。

図3 鳥取大火時の地上天気図(昭和27年4月17日18時)
図3 鳥取大火時の地上天気図(昭和27年4月17日18時)

そして、フェーン現象がおきて気温が高くなって乾燥し、強風が吹いています。

鳥取市の観測記録は、最高気温25.3度、最大風速は南南西の風で毎秒14.9メートル、最大瞬間風速は南南西の風で毎秒22.5メートル、湿度は30パーセントを下回っていました。

日本海側では台風が日本海に入ると危険

台風が日本海に入ると、マスコミ等では太平洋側の地方に被害に焦点があたりがちであることなどから、多くの人は安心してしまいます。

また、「台風進路の右側では風が強いが、左側に入るので安全」と誤解する人がいます。左側が安全というわけではないのですが、それ以前に、日本海側の地方では左側のほうが風が強いことが多いという例外の地方です。

というのも、日本海側の地方は、台風進路の左側は海から吹く風であることが多く、陸地を通ってくる右側の風より強いことが多いからです。昔から「台風通過後の風(吹き返しの風)に注意」と言われています。また、台風から離れていても山越えの風が強いことも多く、フェーン現象により大火の危険性が高いのが日本海側の地方です。

過去の日本海側地方の大火

発達した台風や低気圧が日本海にあるとき、日本海側の地方では、顕著なフェーン現象がおき、乾燥した強風が吹くため火災が広がり、大火となる危険性が高まります。大火とは、消防庁の定義で、焼損免責が1万坪(3万3000平方m)以上の火災をいいますが、平成28年の消防白書によると、日本海側の地方で焼損免責が10万平方m以上という大規模な大火は、戦後10件発生しています(表、失火場所は当時の町村名)。

いずれも強い風が吹いているときに発生していますが、このうち、昭和27年4月17日に発生した鳥取大火などの6例は、日本海に低気圧や台風があってフェーン現象が起きているときの大火です。

表 戦後の日本海側地方の大火(「平成28年版消防白書」の付属資料をもとに作成)
表 戦後の日本海側地方の大火(「平成28年版消防白書」の付属資料をもとに作成)

なお、戦後の大火の多くは、戦後まもなくのもので、表では省略しましたが、消防白書によると、昭和51年の酒田大火以降は、焼損免責が1万坪以上の火災は、日本海側の地方では発生していません。

表から、日本海側の地方の大規模な大火の発生時期は、晩秋から春(2~5月)と夏からら秋(8~10月)に大別されます。

これは、乾燥した天気が続いている春と秋に、顕著なフェーン現象がおきると大火の危険性が非常に高まることを示しています。昨年の糸魚川の大火は、フェーン現象により乾燥した日の大火でしたが、乾燥状態が続いているときの大火ではあちません。もし、実効湿度が低い春か秋なら、もっと大規模な火災となった可能性があります。

特に、「湿度が低くなる春と秋には、発達した低気圧や台風が日本海にあるときには火災に注意」です。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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