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熊本地震 一年経っても地震後に降る雨の危険性は続く

饒村曜気象予報士
熊本城の天守閣(ペイレスイメージズ/アフロ)

熊本地震

平成28年4月14日21時26分に九州内陸部を震源とする、マグニチュード6.5の大地震が発生し、熊本県益城町で震度7を観測しました。九州で震度7を観測したのは初めてのことです。これが、28時間後の4月16日1時45分に発生したマグニチュード7.0の熊本地震の前震です。

熊本地震では、熊本県西原村と益城町で震度7、熊本市など熊本県の8市町村で震度6強、熊本県阿蘇市や大分県別府市、福岡県久留米市、佐賀市、長崎県南島原市など九州北部で震度6弱を観測しました。益城町では、前震の震度7になんとか耐えた建物も、熊本地震の震度7で壊れるなど、大きな被害が発生しました。

そして、その後も余震が続いています。気象庁のホームページには、熊本地震に伴う熊本県を中心とした領域(領域A)の余震の累積回数があるのですが、グラフはわずかですが右肩上がりで、1年で約4500回に達しています(図1)。単純平均で1日に13回の余震です。

図1 熊本地震の余震回数の累計(右目盛)
図1 熊本地震の余震回数の累計(右目盛)

阪神・淡路大震災のとき、神戸海洋気象台(現在の神戸地方気象台)の予報課長でしたが、このときの数多い小さな余震を経験すると、地震が起こっていないときでさえ、体が揺れているかのような錯覚に陥りました。熊本地震の余震は、私が経験した数ヶ月の神戸の余震より、長期間の余震です。体が休まることがない、慢性疲労が気になります。

各地で大地震後の雨の危険性

熊本地震に限りませんが、強い揺れの地域では、地盤が脆弱になっているため、少しの雨でも二次災害の危険が高くなります。このため、気象庁では、大地震が発生すると、直ちに各種の警報等の発表基準を、 通常基準より引き下げた暫定基準を設けて運用します。

そして、地震によるより危険な状態ではなくなった市町村から通常基準に戻しています。

現在、何らかの形で暫定基準を続けているのは10道県です。

表 暫定運用している道県(表の米印、気象庁ホームページの一部)
表 暫定運用している道県(表の米印、気象庁ホームページの一部)

北海道の渡島・檜山地方は、平成28年6月16日の内浦湾の地震に伴うものです。

岩手県、宮城県、福島県、茨城県では、平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震等に伴うものです。

岡山県、鳥取県では、平成28年10月21日の鳥取県中部の地震に伴うものです。

そして、福岡県、大分県、熊本県では、平成28年4月16日の熊本地震によるものです(図1)。

図2 熊本県の大雨警報・注意報(土砂災害)の暫定基準
図2 熊本県の大雨警報・注意報(土砂災害)の暫定基準

大雨警報・注意報(土砂災害)の暫定基準を設けている36市町村(熊本地震発生直後は47市町村)

熊本県の暫定基準: 通常基準の7 割の暫定基準を設ける市町村:

益城町、宇城市、玉名市、西原村、熊本市、氷川町、南阿蘇村、産山村、八代市、菊池市、宇土市、大津町、嘉島町、合志市、阿蘇市、菊陽町、御船町、美里町、山都町、和水町、上天草市、天草市

熊本県の暫定基準: 通常基準の8 割の暫定基準を設ける市町:

南小国町、小国町、高森町、山鹿市、甲佐町、芦北町、玉東町、長洲町

大分県の暫定基準: 通常基準の8 割の暫定基準を設ける市:

別府市、由布市

福岡県の暫定基準: 通常基準の8 割の暫定基準を設ける市:

みやま市

なかなか通常基準には戻らない

暫定基準は、二次災害の危険性が低くなるにつれ、その基準を元に戻しています。

例えば、平成23年3月11日の東北地方太平洋沖地震と、翌12日の長野県北部地震をうけ、気象庁では、12日から震度5強以上を観測した16都県の244市町村について、大雨警報等の発表基準を2~5割引き下げた暫定基準で運用しました。

そして、段階的に通常基準に戻しています。

例えば、仙台市東部の大雨警報・注意報の2種類の基準(土壌雨量指数基準と雨量基準)のうち、土壌雨量指数基準は、地震から2ヶ月後の5月29日には通常の8割に変更しています。また、2年後の平成25年5月30日には雨量基準を通常の8割に変更し、土壌雨量指数基準についての暫定基準を廃止しています。雨量基準の暫定基準を廃止したのは、3年後の平成26年5月27日のことです。

このように、通常基準に戻るには数年かかっているのは、大地震後に降る雨の危険性は数年続くからです。

なお、仙台市東部で、現在も暫定基準を使っているのは、洪水警報・注意報の流域雨量指数基準で、通常の7割で運用しています。

震災がなくても当然すべきこと

阪神・淡路大震災の半年後に最初の復興計画案が発表されたとき、次の3つが混在すると根本的な解決にはならないという批判がでています。

1 震災がなくても当然すべきこと

2 震災をバネに浮上したこと

3 震災で痛手を受けたゆえに急がねばならないこと

3は至急すべきこととして、2が大手をふるうと、一番大切な1がかすみ、1の責任がうやむやになるという批判です。

これは、今でも通用する話と思います。

防災意識は自然の回復より早く風化

熊本地震の3ヶ月後に迎えた梅雨は、多くの人が高い防災意識で協力し、二次災害を最小限に防いだと思います。大地震発生後の高い防災意識は、自然の回復より早く風化しがちです。

このため、地震直後より、地震1年後のほうが人的被害の危険性が高いとも言われています。

自然が徐々に回復していますが、今年の梅雨も、昨年同様の高い防災意識が必要と思います。

そして、「震災がなくても当然すべきこと」を責任をもって行うことが重要と思います。

突発的に起きた大災害に比べ、被災地での活動という困難さが加わるものの、いつどこでがある程度わかる二次災害は防ぐ可能性が高いといえます。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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