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新雪雪崩による大災害と雪崩注意報

饒村曜気象予報士
(ペイレスイメージズ/アフロ)

栃木県那須町のスキー場等で雪崩災害が発生しました。冬の終わりは底雪崩が多いのですが、今回は冬の最中に発生する、より危険な新雪雪崩です。

底雪崩と新雪雪崩

雪崩は、山の斜面の雪が重力の作用によって目に見える速さで崩落する現象のことです。

そして、雪崩という現象は、大雪が降れば、程度の差こそあれ発生しています。

雪崩発生の形によって点発生と面発生、雪崩層滑り面の位置によって底雪崩(全層雪崩)と新雪雪崩(表層雪崩)に分類されます(図1)。

図1 雪崩の種類
図1 雪崩の種類

底雪崩は、主として春先の融雪期に起こる雪崩です。発生場所はほぼ決まっていて、雪間に割れ目やしわ、こぶが生じるなど、発生の前ぶれが現れることが多い雪崩です。降雨や高温に誘発されることが多く、積雪した層全体が滑り落ちることから全層雪崩とも呼ばれます。

これに対し、新雪雪崩は、主に冬の最中に発生し、積雪のうち、特定の層から上の積雪が滑り落ちることから表層雪崩ともいいます。多量の降雪量によって降雪中または降雪の直後に起きます。雪崩の走路は思わぬ場所まで達することもあり、過去に雪崩災害のまったくなかった場所で起こることもあります

大きな雪崩災害が発生するのは、雪崩の場所が特定でき、前兆現象がある底雪崩より、今回の那須町のスキー場の雪崩のように、どこで発生するのかの予想が難しい新雪雪崩です。

近くにあるアメダス観測所・那須高原の観測値を見ると、一週間前の21日にまとまった雨が降り、26日の積雪が0センチメートルですが最高気温でも3.7度と寒気が入り、27日は南岸低気圧の通過によって大雪となり、積雪が35センチメートルとなっています。

雪崩災害のあったスキー場は、アメダス観測所の那須高原より積雪が多いのですが、3月中旬の暖かさで雪解けが進み、21日の雨または雪があったものの、その後も日中の暖かさで雪融けが進んだと考えられます。その後、26日に寒気が入って雪面が凍結し、その上に27日に大雪が積もるという、新雪雪崩が起きやすい状態であったと考えられます(図2)。

図2 アメダス・那須高原の観測値(気象庁ホームページの一部)
図2 アメダス・那須高原の観測値(気象庁ホームページの一部)
図3 3月26日15時の地上天気図と衛星画像(宇都宮地方気象台HPより)
図3 3月26日15時の地上天気図と衛星画像(宇都宮地方気象台HPより)

怖い新雪雪崩

過去の大きな雪崩災害として、大正7年(1918年)1月9日に新潟県三俣村(現湯沢町)の新雪雪崩があります。この年は、各地で雪崩災害が相次いでいましたが、三俣村の雪崩では、158名が死亡するという、ただ1回の1か所で起きた雪崩災害としては、世界最大級といわれています。気温が上昇して積雪の表面が変質したところに寒気が入って大量の降雪があり、 さらに暴風が吹き荒れたのが原因とされています。

気象庁の発表する雪崩注意報

雪崩災害は、雪崩によって、人や家畜、家屋、施設、交通などに及ぼす災害のことであり、山奥など、人とのかかわりがないところでの雪崩が発生しても雪崩災害にはなりません。

雪崩は、地形、積雪量、降雪量、暖気、雨などに左右され、雪崩の危険性があるということはわかりますが、具体的にその場所を特定することは難しいことです。

このため、気象庁では、雪崩注意報を発表して注意を呼びかけていますが、あくまで、一般的な注意喚起です。このため、雪崩注意報は、大雪が止んでも、雪崩の可能性がある間は継続されるという、発表期間が長い注意報です。逆に、長いために油断しやすく、こまめにチェックが必要な注意報です。

栃木県那須町の雪崩注意報

3月26日10時32分 雪崩注意報発表

3月27日14時22分 雪崩注意報更新(継続) 

3月28日 4時14分 雪崩注意報更新(継続)

(更新しながら2日以上継続中)

気象情報を収集するときは、現在の現地の大雪情報だけでなく、数日前からの積雪や気温の推移も合わせての情報収集が大切です。

図1の出典:饒村曜(2002)、気象災害の予測と対策、オーム社。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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