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今年は東京で一番速く桜が咲いたという報道の裏側

饒村曜気象予報士
目黒川の桜(写真:アフロ)

気温は着実に上がり、多くの人の心が揺さぶられる桜の季節の到来です。

関東から西の太平洋側の地方では、どこが一番早く桜が咲くかということが話題になります。

全国で最も早い開花?

気象庁では、3月21日に東京都心(千代田区の靖国神社)で、桜が咲いたと発表しました。

平年より5日早く、昨年と同日です。

これを受け、「都心としては2008年以来、9年ぶりに全国で最も早い開花宣言」とか、「東京都心が全国のトップになるのは2008年3月22日に名古屋、静岡、熊本と並んでトップになって以来、9年ぶり」などと報じられました。

全国トップといっても、1月中旬から咲く沖縄と奄美大島のヒカンザクラを除いての話であり、しかも、気象庁の有人官署で観測がある場所についてのものです。

気象庁の有人官署数は、測候所が特別地域気象観測所になって無人化されたことから、約150ヶ所から約50ヶ所へと、3分の1に減っています。

全国で一番早い開花と報道された地点

2017年3月21日 東京

2016年3月19日 福岡、名古屋

2015年3月21日 名古屋、熊本、鹿児島

2014年3月18日 高知

2013年3月13日 宮崎、福岡 

2012年3月21日 高知

2011年3月20日 静岡 

標本木

全国には、ソメイヨシノのような里桜(人が園芸用に交配した品種)だけでなく、大島桜のような山桜(山などに自生している品種)など多くの桜の品種があります。

気象庁で桜というと、ほとんどの地方ではヨメイヨシノをさし、例外は、根室のチシマザクラ、根室以外の北海道のエゾヤマザクラ、沖縄のヒカンザクラです。

気象庁の有人官署では、構内に植えられている、あるいは近くの公園等に植えられている桜のうち、特定の木を標本木として開花や満開を観測しています。

標本木の周囲の桜の中には、同じ種類でも、もう少し早く桜もあります。

また、桜の種類によってはもっと早く咲く桜もあります。静岡県河津町のカワヅザクラは1月下旬から2月にかけて開花する早咲きが有名で、ソメイヨシノより桃色が濃く、花期が1ヶ月と長いため、多くの観光客を集めています。

同じ条件で長期間継続した観測

気象庁では、開花を標本木で5~6輪開いた状態、満開を80%以上開いた状態としてしています。そして標本木を決め、長期間継続した観測をしています。

標本木が年をとるなどで、周囲の桜との間で差がでるようになると、次の標本木の候補を決め、比較観測をしばらく行ってから新しい標本木に変えています。観測値を継続させるためです。

そして、同じ条件で長期間継続して観測を行っていることから「昨年より○○日早い」「平年より○○日早い」「西日本より東日本が早い」などの比較情報が発表できるのです。

早くなる桜の開花と満開

毎年刊行されている「理科年表(東京天文台編、丸善株式会社)」には、生物季節観測平年値が掲載されています。

理科年表には1971年から2000年の平均が掲載されているのは81地点、1981年から2010年の平均が掲載されているのが54地点と大幅に減っています。これは、測候所が無人化されたためです。紙面の都合で、観測している地点の中から選抜しての掲載から、観測している地点の全てを掲載に変わりました。

表1 桜の開花日(1971~2000年の平均と1981~2010年の平均)
表1 桜の開花日(1971~2000年の平均と1981~2010年の平均)

比較できる54地点でみると、桜の開花日は、1971年から2000年の平均に比べ、1981年から2010年の平均は、2日ほど早くなっています(表1)。

都市化の影響で早まる傾向があり、今年のように、桜は東京から開花という時代になるかもしれません。

桜の満開は一週間後

桜の開花前線は、例年3月下旬に九州南部、四国南部へ上陸し、順次、九州北部、四国北部、瀬戸内海沿岸、関東地方、北陸地方、東北地方と北上し、5月中旬に北海道東部に達します。

九州から東海・関東地方では開花から満開まで約7日間です。

そして、桜の満開日も、1971年から2000年の平均に比べ、1981年から2010年の平均は、2日ほど早くなっています(表2)。

表2 桜の満開日(1971~2000年の平均と1981~2010年の平均)
表2 桜の満開日(1971~2000年の平均と1981~2010年の平均)

充実している各地の桜情報

気象庁では、昭和30年から平成21年まで、沖縄・奄美地方を除く全国で桜の開花予報を行ってきました。しかし、民間気象事業者が実力をつけ、気象庁と同等の情報提供を行うようになったことから、平成22年以降は、予報をやめ、観測のみを行っています。

桜の開花予報は社会的関心が高く、日本気象協会、ウェザーマップ、ウェザーニューズなどの民間気象事業者は、ユーザーに合わせた予報を個々に行っています。単純に比較はできないのですが、競争原理によって各地の桜情報が充実しています。

そして、ほとんどの桜の名所については、桜情報がインターネットで簡単に検索できる時代となっています。

週末は、東京に続いで、桜の開花発表があるかもしてません。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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