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最初の特別雨警報発表 避難せずに特別警報がでたら逃げ遅れ

饒村曜気象予報士
大雨後の激流(写真:アフロ)

平成25年8月30日に特別警報ができ、最初に発表されたのが、この年の9月16日、台風18号がもたらす大雨に対してです。しかし、気象庁がPR用のリーフレットを作ったり、地方自治体へ説明したのが、特別警報開始の数ヶ月前になるなど、周知期間が非常に短かかったことに加え、その後しばらくは、滅多にない特別警報がらみの事例があり、批判が相次いでいます。

しかし、特別警報を十分に理解し、活用することは、命を守るための防災活動にとって、特別に重要なことです。

最初に発表された特別警報

気象庁では、重大な災害が起こる危険性が非常に高まったときには、特別警報を発表し、「ただちに命を守る行動を」と呼びかけます。

これは、平成25年8月30日から創設されたもので、大雨についていえば、これまでの大雨注意報や大雨警報などとの関係は、図1のようになります。

図1 気象台が発表する気象情報(気象庁HPより)
図1 気象台が発表する気象情報(気象庁HPより)
図2 地上天気図
図2 地上天気図

特別警報の最初の発表は、特別警報創設から20日たらずの、平成25年9月16日です。大型の台風18号の接近による大雨で5時6分に京都、滋賀、福井の各県で最初の暴風警報が発表となっています。台風の上陸前から湿った暖気が日本列島の下層に流れ込み、15日未明から1時間に80mmを超す激しい雨が降ると予想されたこと、そしてさらに台風が近づくにつれ、雨の勢いがさらに強まって総雨量がさらに膨らむ可能性が出たからです(図2、図3)。

図3 台風の経路
図3 台風の経路

大雨特別警報の発表基準は日本国中を細かいメッシュで分割し、おのおのに50年に1度となる48時間降水量の水準を設け、この水準を50メッシュ以上で超すことでしたが、この時点では、各県とも13~36メッシュしかありませんでした。しかし、台風の接近により雨脚が弱まる可能性は少ないという判断での発表でした。

台風18号は愛知県に上陸し、北海道まで日本列島を駆け抜け、愛知県豊橋市では最大瞬間風速39.4m/s、愛知県豊田市小原町では1時間雨量が96mmという強い雨や風を観測しました。台風の接近と通過は、3連休の最終日と重なったため、各地の行事が延期や中止となるなど、大きな影響がでましたが、特別警報の基準である50メッシュ以上はクリアしませんでした。

特別警報が始まってから1年半の成績

特別警報が始まって、1年半の間、当初想定した頻度より多くの頻度で特別警報が発表されました。特別警報を発表したことで、大きな被害にならなかったとの見方がありますが、一方で、特別警報を発表しないケースで大災害が相次いでいます(表1)。

表1 気象等に関する特別警報の発表状況
表1 気象等に関する特別警報の発表状況

平成25年10月16日に伊豆大島で前線と台風26号による大雨で大きな被害がでました。しかし、特別警報は、50メッシュ以上という、ある程度の面積で基準を超える必要があり、小さな島だけの大雨では、特別警報は発表しないということを知っていた人はほとんどいませんでした。また、平成26年8月20日の広島の土砂災害も、広島市北部という狭い地域での豪雨ですので、特別警報には該当しませんでした。

平成26年2月14日に南岸低気圧で関東甲信地方、特に山梨県で記録的な大雪となりましたが、特別警報は降雪が24時間以上降り続く時に発表されることを知っていた人はほとんどいませんでした。

表2 特別警報が始まって1年半の成績
表2 特別警報が始まって1年半の成績

さらに、平成26年7月7日に沖縄県を襲った台風8号の中心気圧が910ヘクトパスカルまで発達するということで、台風についての特別警報が発表されました。実際はそこまで台風が発達せず、特別警報の基準はクリアしなかったため特別警報が解除となったのですが、その直後、台風がもたらした大雨による特別警報が発表となり、通勤・通学時間と重なって混乱しました。このときも、台風による特別警報が台風そのものによるものと、台風に伴う大雨によるものの2種類あるということを知っていた人はほとんどいませんでした。

このように、命を守るということから、多少オーバーに警戒を呼びかけることは多少容認されても、特別警報の周知不足も加わり、一般の人が受けた印象は、表2のように、さんざんなものでした。

平成27年関東東北豪雨

平成27年関東東北豪雨では、9月10日に栃木県と茨城県、翌11日には宮城県に大雨特別警報が発表となっています。このときは、鬼怒川の堤防が決壊し、大きな被害が発生しました。

図3 関東地方の初めての特別警報(気象庁HPより)
図3 関東地方の初めての特別警報(気象庁HPより)

特別警報が発表されたら命を守る行動を

特別警報は、警報を中心としたこれまでの防災情報の補強であり、特別警報ができたからといって、警報の役目が軽くなったわけではありません。

避難は警報発表時に行うもので、避難しないうちに特別警報が発表されたら、逃げ遅れです。ただちに命を守る行動をとる必要があります。

避難場所に向かうことを最初に考えるのではなく、自分の命を守るための行動を最初に考える必要があります。

大雨の中、危険をおかして避難場所に逃げるのは、一考を要します。現在の自分がいる場所より、より安全な場所に、あるいは、より安全な状態でいることが求められます。ケースバイケースですが、例えば、崖と反対側にある二階の部屋にいるとか、夜が明けるまで寝ないなどが考えられます。

今年の夏は台風の襲来などで豪雨災害が相次いでいますが、特別警報が出ていないので何もしなかったという一部報道がありました。特別警報ができるとき、「特別警報ができたことにより、警報が軽視されるのでは」という危惧が指摘されていましたが、残念です。

特別警報について、気象庁にはより一層の周知と、より一層の精度向上を望みますが、利用者側でも、情報や資料入手に努め、理解をもっと深めるべきと思います。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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