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沖縄梅雨入り 沖縄の激戦と朝鮮戦争は、梅雨入りで始まり梅雨明けで終わった

饒村曜気象予報士
迫る雨雲(写真:アフロ)

沖縄地方では5月16日に鹿児島県の奄美地方と同時に梅雨入りをしました。平年より7日遅い梅雨入りです。昨年の梅雨入りは5月20日と、昭和26年以降では4番目(複数)に遅い梅雨入りでしたので、今年の梅雨入りは記録的な遅さではありません。

沖縄地方は高気圧に覆われ、停滞前線が九州まで押し上げられ、熊本地震の被災地では走り梅雨となり、その後、さらに前線が北に押し上げられていたためです。

しかし、週間天気予報によると、沖縄地方は雨の予報が1週間続いています(図1)。

図1 沖縄本島地方の週間天気予報(5月16日5時発表、気象庁HPより)
図1 沖縄本島地方の週間天気予報(5月16日5時発表、気象庁HPより)

梅雨の雨といっても、日本は広いので、雨の降り方には差があります。梅雨はシトシトと雨が降り続くイメージがあるのですが、それは、関東を中心とした梅雨の雨のイメージです。

沖縄の梅雨は、スコールのように、降るときはいきなりザーッと降り、降り止むと青空が広がりることが多いという特徴があります。

沖縄の梅雨入の平年値

沖縄の梅雨入りの平年値(昭和55年から平成22年までの30年平均)は5月9日ですが、昭和26年以降で最も早かったのは4月20日(1980年)で、10年に一回位は4月に梅雨入りです(表1)。

梅雨明けの平年値は6月23日で、昭和26年以降で最も早かったのは昨年の6月8日です。

最も梅雨入りが遅かったのは、昭和38年の6月4日ですので、最も早かった梅雨明けとの差は4日ということになります。

表1 沖縄の梅雨入りと梅雨明け
表1 沖縄の梅雨入りと梅雨明け

沖縄の梅雨と太平洋戦争

太平洋戦争の最大の激戦である沖縄戦では、連合軍は、4月1日に沖縄本島中部に上陸し、沖縄守備隊が守る那覇や首里などの南部を避け、北上して4月19日までに北部を制圧しています。

日本軍の反抗は5月4日に行われましたが、この作戦は失敗します。この年の沖縄は、梅雨入りが遅れており、圧倒的な連合軍の航空部隊が活躍できない梅雨期間を待てなかったのかもしれません。

連合軍は日本軍の反攻失敗で予備隊を使い果たしたとして5月11日から総攻撃をかけます。この頃から沖縄は梅雨に入ります。

空軍の活動が制約される梅雨になっても、日本軍に簡単に勝てるとの思惑があったのかもしれません。

しかし、戦闘は激化し、ぬかるみの中、両軍の激戦が続き、両軍に大きな被害がでていますが、徐々に南へ南へと追い詰められた日本軍の組織的な戦闘は6月下旬に終わっています。

このころ、沖縄が梅雨明けしました。沖縄戦の激戦は、梅雨入りとともに始まり、梅雨明けで終わったのです。

平和公園が作られている摩文仁で陸軍司令官らが自決した6月23日が「沖縄慰霊の日」となっていますが、この日が梅雨明けの平年日です。

韓国の梅雨と朝鮮戦争

朝鮮半島北部は、梅雨がはっきりしていませんが、朝鮮半島中部や南部では6月下旬から7月下旬が梅雨期間です。北陸から東北地方の梅雨期間に対応しています(表2)。

表2 朝鮮半島の梅雨(大韓民国気象庁による)
表2 朝鮮半島の梅雨(大韓民国気象庁による)

朝鮮戦争が始まったの昭和25年6月25日は梅雨入りの頃です。陸上部隊は互角でも、航空部隊を持っていない大韓民国に対し、朝鮮民主主義人民共和国はソ連製の航空機を持っていました。梅雨直前の晴れ間に航空機を使って奇襲攻撃をして戦況を有利にし、アメリカ空軍参戦の体制が整ったときには梅雨入りとなって十分な反撃ができないとの思惑があったのかもしれません。

25日の北緯38度線と日本海沿岸からの朝鮮民主主義人民共和国軍の一斉攻撃は、豪雨をもたらした前線が大きく南下し、航空機からの攻撃で大韓民国は悩まされています。

しかし、終戦記念日(大韓民国での光復節,朝鮮民主主義人民共和国での解放記念日)の8月15日までの短期決戦で朝鮮半島制圧といわれている朝鮮民主主義人民共和国のもくろみははずれています。アメリカと中国がそれぞれの陣営についたために泥沼の戦いとなり、休戦協定ができたのは3年後の昭和28年7月27日で梅雨明けの頃です。

朝鮮戦争も、梅雨入りから梅雨明けまでの戦いでした。

戦争と気象との関係は単純ではない

戦争と気象は密接な関係があり、どんな作戦をたてるにしても気象の状況把握がまず最初にありますが、両者の関係は単純ではありません。

空軍の力が十分発揮できる晴天時に攻撃しても、相手が備えていれば十分な効果を発揮することができませんし、待ち伏せをくらうかもしれません。空軍の力が発揮できない荒天時の攻撃は、相手が油断していて大きな効果を発揮することもあるからです。

ただ、いずれの判断をするにしても、気象の状況を十分把握してからの総合判断になります。

そして、人間の思惑を超えた自然の力によって勝敗が左右されることがあるのが、過去の戦争の歴史でした。

今後は、戦争と気象との関係を考える時代がこないことを望みます。

沖縄の梅雨明けは梅雨末期豪雨に警戒のサイン

昨年の沖縄の梅雨は、5月上旬から中旬にかけて、天気は数日の周期で変わり、移動性高気圧に覆われる日が多かったため、梅雨入りは5月20日と平年よりかなり遅く、沖縄の北にある鹿児島県・奄美大島より1日遅くなっています。また、6月中旬以降は、太平洋高気圧に覆われたため、梅雨明けはかなり早い6月8日で、過去最早の記録でした(図2)。

図2 沖縄が梅雨明けしたときの地上天気図(平成27年6月8日9時)
図2 沖縄が梅雨明けしたときの地上天気図(平成27年6月8日9時)

沖縄の梅雨期間は19日しかなく、その間の降水量は73%と少なかったのですが、梅雨明け後の7月10日に台風9号が、7月25日に台風12号が接近して大雨を降らせています。大きな被害がでましたが、水不足は回避されています。

沖縄の梅雨明けに伴って北上した梅雨前線が停滞した九州では、10日から12日にかけて、多いところで日降水量が300ミリを超える大雨となっています。

沖縄の梅雨が明けると、本州・四国・九州では梅雨末期の豪雨に警戒が必要となります。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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