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ドイツ・循環型経済でさらに持続可能な都市を目指すベルリンの取り組みとは

シュピッツナーゲル典子在独ジャーナリスト

市民レベルでサステナビリティの取り組みが着々と進んでいるベルリン。日常生活の中でどんなアイデアを導入し、持続可能な未来を目指し成功を収めているのか、社会課題解決への取り組みとは。また都心にある緑のオアシスを巡り、まったく新しい角度からベルリンを紹介します。(画像はすべて筆者撮影。トップはシュプレー川クルーズにて)

サーキュラーエコノミー(循環型経済)のビジネスモデル

資源を無駄にせず、削減、再利用するというサーキュラーエコノミー(循環型経済)の考え方は、生産と消費がもたらす多くの課題に対する解決策を提供すると同時に、経済成長も可能にします。

1)サーキュラー・ベルリン

サーキュラー・ベルリンは、研究、コミュニティ形成、実践的なプログラムを通して、地域の循環型経済アジェンダとその実施を発展させ、ベルリンの代謝を再構築する非営利団体。活動は、都市戦略、建築環境、製品・素材デザイン、食品・バイオマス、繊維・ファッションの各分野に及んでいます。

サーキュラー・ベルリン創業者兼会長ディナ・パダルキナさん(上の画像)の案内で、都市戦略の一例として訪問したのは、明日の都市地区の実験場として話題となっているアーバンセンター・アム・グライスドライエック。グライスドライエック公園の一角にあります。

都市、民間団体、市民の間の計画や協力がどのように機能しているか、今日の課題を解決するためにどのような創造的アプローチが存在するかについて、また都市や生活、仕事の未来に関するアイデアやトピックが紹介されました。こうした都市開発がコミュニティにとって快適な暮らしと環境に配慮した街づくりは、ベルリン市内のあちこちで見られます。

26ヘクタールのグライスドライエック公園(上の画像)は、ベルリンのポツダム広場からすぐ近く。この周辺にあった線路と線路の間は、何十年もの間、使われておらず都会の荒れ地でしたが、地元住民の協力で公園運営が実現しました。その結果、異文化交流庭園や子供達のための自然体験スペースなどが作られたそうです。

2)起業家のためのインパクトハブ・ベルリン

2014 年設立のインパクトハブ・ベルリン(Impact HUB Berlin)は、起業家のためのインパクト・コミュニティであり、スペースです。コワーキングスペース、チームオフィス、そしてデジタル部門において、起業家や組織が人々と地球のために革新的な解決策を生み出すための支援を行っています。

インパクトハブ・ベルリンでは、新しい、そして画期的な解決策の可能性を秘めた「ファッション、エレクトロニクス、建設業、プラスチック」の4つの分野に注力しています。

そのひとつ、エレクトロニクス分野モーションラボ・ベルリン(MotionLab.Berlin)は、ハードテック・イノベーション・ハブそしてメイカースペースとして、スタートアップ、フリーランサー、アーティスト、学生、中小企業など、さまざまな立場の人を受け入れています。

3Dプリントからレーザー加工までのハイテク工房、居心地の良いコワーキングスペース、スタートアップ企業向けオフィス、プライベートメーカーガレージ、ネットワーキングイベント、国際的なハードテックコミュニティを利用でき、試作品や小規模シリーズの開発・生産に最適な環境を提供しています。

グリーンファッションツアーで考える衣類の未来

1)テキスタイルハーフェン

ファッションに関連する社会問題や環境問題に焦点を当て、オルタナティブビジネスや革新的なソリューションの特別な体験と組み合わせたグリーンファッションツアーに参加し、アップサイクルとリサイクルの現場を見学しました。

「古いテキスタイルの寿命は、私たちが手放すときに考えるよりずっと長いのです。テキスタイルの選別センター、アップサイクルデザイナーのアトリエ、ユニークなセカンドハンドのコンセプトショップ、循環型スタートアップなどを訪れ、テキスタイル廃棄物を減らすための可能性の世界を一緒に探ってみましょう」と語る、グリーンファッションツアーを創業したアリアンナ・ニコレッティさん(下の画像)。

1877年に援助団体として設立されたベルリーナ・シュタットミッション(Berliner Stadtmission)は、現在90以上の支援施設やプロジェクトを持ち、様々な緊急事態に遭遇した人々を助け、出会いの場を提供しています。その一環としてアップサイクリングとセカンドハンド部門の運営するテキスタイルハーフェン(Textilhafen) を訪ねました。

テキスタイルハーフェン は、寄贈された古着や素材をプールするテキスタイルの仕分け施設。同施設のマネージャー、アネッテ・カプロウさんが施設の機能を説明してくれました。

「ここに集まる衣類の寄贈は、1週間に約11トン。クリスマス前は、20トンに上ることもあります。全ての服が手作業で選別され、検品後はベルリンの5つのセカンドハンドショップで販売、あるいは衣料寄付施設へ送り出されます。様々な素材は1キロ単位で購入でき、希望の素材や色まで事前に注文することができます。現在、アップサイクルデザイナー、演劇や衣装のデザイナー、クリエイターなど多くの客に利用されています」

テキスタイルハーフェンの特徴は、社会的持続可能性。繊維資源の賢明な再利用を提供し、その収益はホームレスの人達のための衣料品店の運営など、社会的なプロジェクト資金として活用されている点。また正社員の4割は重度障碍者で、他では容易に仕事を見つけることができない人達です。

2)アップサイクリング商品専門店モート

廃棄された繊維から新しい服を作る、社会的で持続可能なファッション・レーベルモート(MOOT)は、ベッドリネンで作ったTシャツや長袖、毛布で作ったジャケットやコート、カーテンで作ったパンツ、ソファのクッションカバーで作ったバッグなどを販売するトレンディショップ。

MOOT店舗正面
MOOT店舗正面

毛布でつくったジャケットを手にするMOOT創業者ミヒャエル・ファイファーさん
毛布でつくったジャケットを手にするMOOT創業者ミヒャエル・ファイファーさん

店内は、アップサイクル商品の販売コーナーに加え、ファストファッションの問題点とアップサイクルによる変革の機会について啓蒙しています。衣料品選別の際に出るオリジナルテキスタイル、世界のファッション業界に関する詳細な情報など、従来のショップとは一線を画したコンセプトストアです。

3)セカンドハンドショップ店 クライダライ

クライダライ(Kleiderei)は、既存の衣料品を最大限に長持ちさせ、ファストファッションに代わるシンプルな選択肢を提供することを目的に設立されました。同店によると、ドイツでは一人当たり年間平均900ユーロをファッションに費やし、平均して、年間60着の新しい服を購入。これは、1人当たり1日約200kgのCO2と約180lの水の消費量に相当するそうです。

またドイツでは年間130万トンの衣類が廃棄され、処分を余儀なくされています。このうち、リサイクルされるのはわずか1%で、残りは焼却されているそうです。

洋服のレンタルで、その洋服を長持ちさせ、さらに最適なリサイクルを見つけていく。衣類の寿命を1年から2年に延ばすだけで、CO2排出量を24%削減することができるそうです。可視化された数字データを見ると、リサイクルは環境にもお財布にも優しいことがよく解ります。

ベルリンの緑のオアシス

ベルリンの中心部にある緑のオアシスは明日の都心のありかたを示す、重要なレクリエーションエリアです。そのいくつかを紹介します。

1)世界の庭園

ベルリンでアジアから中近東、ヨーロッパまで、異なる大陸と時代、文化に触れることができる「世界の庭園 (gaerten der welt)」。約40ヘクタールもある園内は、創造力を刺激するアートが点在し、国際園芸を一気に楽しめる特別なスポットです。

オリエンタル・イスラミック庭園にて
オリエンタル・イスラミック庭園にて

バリ庭園内にて
バリ庭園内にて

2)シュプレー川クルーズ

シュプレー川のクルーズは、水上から博物館島やフンボルト・フォーラム、ベルリン大聖堂、国会議事堂など一気に主要ランドマークを巡ることができ、ベルリンを知る最短コースかもしれません。この日は、オーバーバウム橋近くの船着き場から乗船。市内観光をする前に巡れば、訪れたい主要スポットを押さえるのに大変役に立ちます。クルーズは約2時間30分。

かつて東西ドイツを隔てていたオーバーバウム橋
かつて東西ドイツを隔てていたオーバーバウム橋

博物館島のボーデ美術館と左にはTV塔が聳え立つ
博物館島のボーデ美術館と左にはTV塔が聳え立つ

ドイツ連邦議会議事堂
ドイツ連邦議会議事堂

3)市民に寄り添ったテンペルホーフ空港跡地の未来

2008年10月末に閉鎖されたテンペルホーフ空港は、ナチス政権の記念碑的建築物であると同時に、工学的建築のランドマークでもあります。空港ができたのは1923年、空港建物は1936年から41年にかけて建設されました。特に1948/49年の大空輸で米国が使用したため、自由の象徴となった同空港は、面積約400万m²、延べ床面積約30万m²のヨーロッパで最も壮大な建築物の一つです。

空港ビル正面より
空港ビル正面より

現在ここは、多数の大型イベント、国際的な映画撮影に使われています。また今後数年間で、ユニークな歴史の場を守りながら、同時に革新的な方法で開発・運営される予定です。芸術、文化、クリエイティブ産業のための実験的な場所、新しい都市開発地区として、どのように改修され、近代化されるか楽しみです。

ガイドツアーでは、空港建設の思想的・政治的背景を学び、かつてのチェックイン・ホール、アメリカ人が使用したエリアなど、堂々とした建物の最も興味深い場所を発見することができます。

4)大都会を自転車で巡るバイクツアー

ベルリン市内は公共交通機関が網羅されており、観光に大変便利ですが、ガイドと一緒にサイクリングで市内を巡るのもまたひと味違った楽しみ方です。

フォルクスパーク・フリードリヒスハインのメルヘン噴水は一見の価値あり
フォルクスパーク・フリードリヒスハインのメルヘン噴水は一見の価値あり

日常生活で自転車を利用することがあっても、ベルリン市内を巡るのは‥としり込みするかもしれません。ですが、ガイド付きバイクツアーなら心配ありません。またどうしても自転車は無理という場合は、リキシャに乗って巡ることもできます。

当日は、宿泊ホテル近郊から自転車に乗って前出のグライスドライエック公園を通り、フォルクスパーク・フリードリヒスハイン、ゲルリッツァーパークの約17kmの道のりをサイクリングしました。

話題のサスティナブルなレストラン「フレア」

旅の楽しみのひとつは食べること。今回はベルリンで話題のサスティナブルなレストランで夕食を満喫しました。

主菜の一例。カリフラワーの蒸し焼き、ひよこ豆のテンペ(発酵食)、ネクタリンのロースト、新鮮なリンゴ、ケシの実、サマーハーブとモレ(ソース)
主菜の一例。カリフラワーの蒸し焼き、ひよこ豆のテンペ(発酵食)、ネクタリンのロースト、新鮮なリンゴ、ケシの実、サマーハーブとモレ(ソース)

フルテイスト、ゼロ廃棄物がモットーのヴィーガンレストラン「フレア(FREA)」は2017年に開業されて以来、話題を集めています。2019年、ベルリンのトレンディレストランの称号を授与、2022年にはグルメガイドミシュランの持続可能な飲食店に与えられる「グリーンスター」を獲得しました。

地域の生産者やサプライヤーの協力を得て、仕入れ段階からプラスチック包装の回避を実現している他、植物性の生ごみは24時間以内に店内にあるコンポスト機で土と化し、再度利用しています。

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ベルリンは、より持続可能な未来に向けて、日々変化を遂げています。革新的な再生可能エネルギー技術や環境に優しい循環型経済システムから街の中心部にある緑のオアシスまで、今後どのように変わっていくのか目が離せません。

在独ジャーナリスト

ビジネス、社会・医療・教育・書籍業界・文化や旅をテーマに欧州の情報を発信中。TV 番組制作や独市場調査のリサーチ・コーディネート、展覧会や都市計画視察の企画及び通訳を手がける。ドイツ文化事典(丸善出版)国際ジャーナリスト連盟会員

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