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ドイツワインを囲んだ豊かなライフスタイルの過ごし方 その1

シュピッツナーゲル典子在独ジャーナリスト

ドイツワインの今を知るべく今年の夏、「モダンドイツワイン」「ライフスタイル」をテーマに4つのワイン生産地(ラインヘッセン、ミッテルライン、ラインガウ、プファルツ地方)のワイナリーを巡りました。(画像はすべて筆者撮影)

かつてヴィノテークと言えば、ワインを試飲し販売する場所で、ワイナリーの地下や事務所の一角にあるなどお世辞にも魅力的だったとは言えませんでした。それが近年、まるで街中のおしゃれなワインバーにいるような雰囲気を持つスポットに生まれ変わり、ミーティングポイントやイベント会場としても注目を集めています。

70種のリースリングワインを提供するワインフェスト、ワイン女王やワイン魔女との出会い、寿司とのペアリングに醸造された特別ワイン、結婚会場として大人気のワイナリーなど、ドイツワインを囲んだライフスタイルのポジテイブな変貌ぶりを2回にわたりお届けします。

ニアシュタインで、ラインヘッセンワイン女王のお出迎え

国内最大のワイン生産地ラインヘッセンは、ライン川の膝と呼ばれる蛇行地帯にあるなだらかな地形。ここには国際的な経験を積んだ若いワイン生産者が多く、深い専門知識と個性的なアイデアを持ち、年々変貌するモダンなドイツワイン生産で注目を集めています。

最初に訪問したのは、ラインヘッセンに属するニアシュタインの小高い丘フンメルタールのブドウ畑にある「ラデックワイナリー」。

ワイナリーを運営するステファン・ラデック氏とラインヘッセンのワイン女王ユリアンネ・シェーファーさんが出迎えてくれました。まず圧倒されたのは、素晴らしい景観。テラスから眺めるライン川とブドウ畑に目を奪われました。

ちなみにユリアンネ(画像上)さんは、今年74代目ドイツワイン女王選出で見事ワインプリンセスの栄冠を得ました。今後1年間、国内外での活躍が期待されます。

参考までに。通常13のワイン生産地区から選出された地区ワイン女王13名は、ドイツワイン女王1名とワインプリンセス2名の座を目指して質問や審査を受け、毎年9月末に決定します。ドイツワイン女王とプリンセス2名はドイツのワイン親善大使として、国内外のワインに関するインベントに出席します。

「ブドウ畑とライン川、そして美味しいワインでニアシュタインとラインヘッセンの魅力を届ける大使になりたい」と、ラデック氏が続いて語りました。

ブドウ栽培は10年ほど前から有機栽培に切り替えたそうです。2009年からニアシュタインの中心部からフンメルタールに移転し、ブドウ畑も追加取得。白ワインの代表的な品種はリースリングとピノ・ブランを中心に醸造しています。

リースリングは、桃と柑橘類のアロマを持ち、ストレートな味わい。夕焼けを眺めながら素敵なひと時を過ごしました。誕生日や特別記念日のイベント会場としても人気だそう。

同ワイナリーのリースリングワインはドイツワインガイド誌アイヒェルマン2022年でベストリースリングに選定されました。陽がゆっくり沈む中で大自然とライン川を眺めながらの夕食は、旅のスタートに最高のスポットでした。

オーバーヴェルゼルでワイン魔女?に出会う

翌日は、世界遺産ライン渓谷中流上部にある街オーバーヴェルゼルに行きました。ライン川左岸のザンクト・ゴアールとバッハラッハの間にある街で、ライン渓谷観光にアクセスしやすい場所です。

「オーバーウェルゼルの44代目ワイン魔女です」と、ユリア・ラムブリッヒさんが出迎えてくれました。当日のハイキング案内人です。

ワイン魔女?ワイン女王ではと耳を疑いました。その背景をユリアさん(画像下)が詳しく説明してくれました。

ワイン魔女は、最もユニークな、オーバーヴェーゼルでしか行われないイベントで4月30日から5月1日にかけての「ヴァインヘクセンナハト(ワインの魔女の夜)」に由来するとか。その昔、冬の魔物を追い払うために、ブドウ畑に「魔女の火」を灯したのが始まりとされているようです。それはその年のブドウ栽培、ワインがさらに美味しくなるように祈りを込めての儀式だそう。

この夜に、ひそかに選ばれたヴェーゼルのワイン魔女は、地元の女性から選ばれ、マルクト広場で大きなワイン樽から降りてきて就任式が行われるようです。

魔女と言えば、ドイツ北部ハルツ地方の魔女の祭り「ヴァルプルギスの夜」が有名です。まさかワイン魔女がいるとは、意外でした。いつかこの儀式を見学したいものです。

ユリアさんはドイツ最高峰のワイン大学「ガイゼンハイム大学」で国際ワインビジネスを学び、マーケティングとセールスに携わっています。すでにインターンシップや仕事を通じて、ワイン業界で貴重な経験を積んでいるそうです。実家は両親がワイナリーランブリッヒを経営し、ユリアさんも手伝っています。

ライン川中流域(ミッテルライン)の典型的な例として、同ワイナリーのブドウの木は粘板岩の土壌で育ち、急斜面の強い日差しとあいまって、ワインに独特の味わいを与えています。

ハイキング後は、ライン渓谷の壮大なパノラマビューを楽しみながらランチをとりました。かつて映画のロケ地として使われた建物内は、映画博物館として公開されています。

ラインガウ アレンドルフワイナリーでワインの体験ワールドへ

次はラインガウで家族と運営する醸造所「アレンドルフワイナリー」を訪問しました。

通常はぶどう栽培やワインの説明を詳しくしていただきながらワインの試飲をすることが多いのですが、ここでは一風変わった紹介をしています。ウリ・アレンドルフ氏に案内していただきました。 

それは、私たちの味覚がいかに外的な影響に左右されやすいかを示す、光のインスタレーションを用いたユニークな方法でした。そしてテーマ別に試飲することで、ラインガウワインの特徴を感覚的に体験し、味わうことができるのです。

「遊び心と好奇心を持ちつつ、ワインに関する知識を広げる良い機会が体験ワールドの目的です」と、アレンドルフ氏。

ブドウ畑はライン川流域に4つのブドウ畑を持ち、場所によっては最大70%勾配の急斜面もあるそうです。白、赤、ロゼワイン、ゼクトの他、最近はノンアルコールワインも生産するようになりました。

ワイン造りのモットーは、VDP(ドイツ・プレディカーツワイン生産者協会)メンバーとして、典型的かつエレガント、かつ充分に熟したラインガウワインをつくることだそう。優れたテロワールと優れたぶどう樹と丁寧な手仕事でラインガウワインを生産することだそうです。

70種のリースリングを提供 ロータハングリースリングワインフェスト

夕方、ニアシュタインのミネラル豊富な斜面のブドウ畑ローター・ハング(赤い土壌・Roter Hang)で3年ぶりにリースリングワインをプレゼンテーションするローター・ハングワインフェストが開催されると聞き、早めに夕食を済ませ会場へ。

マインツ盆地とライン川上流域の境界にあるラインヘッセン高原の急斜面を形成するのがローター・ハングです。リースリングフェストは、ここで毎年6月の第2週末に行われ、地元の人たちが待ち焦がれるイベントのひとつだそう。

フェストは、ローター・ハングのブドウ畑を6つの地域に区分けして、地域ごとに計6つのパビリオンが山あいに列をなしてリースリングワインを提供します。沿線にはテーブルやいすが準備されていて、スナックを食べながらワインの試飲、また次のパビリオンへ行き試飲と、夜が更けるまで計70種類のリースリングを楽しむことができます。

音楽に合わせて踊る老夫婦、ワイン片手にピクニックを楽しむ若者グループ、フェスト会場で旧友や知り合いに出あい、ワインを飲みながら語り合う人達。どこを見てもワインを手に楽しむ人で賑わっていました。

2023年のフェスは6月10日と11日に開催予定。さすがに70種類のリースリングを試飲するのは難しいかもしれませんが、雰囲気を味わうだけでも行く価値のあるイベントです。

特にブドウ畑から遠く離れた都市でワインは、長い間エリート的な愛好家の飲み物とされていました。そんな光景はもう遠い過去のものです。

ここしばらく、ワイン市場は大きく異なり、国際化、若年化が進んだため、見た目がきれいで印象的なボトル、味も個性的で高品質なワインが市場に出回るようになりました。その影でワイン醸造家たちは、コアターゲットに受け入れられるために、試行錯誤し、ワインがどのようなものであるべきか熟考してきました。

アーティストがデザインしたラベルは、視覚的にもワインの高級感を演出する手段として特に適しています。さらに、ワインを知的・文化的な文脈の中に位置づけ、感度の高いアートやワインの愛好家にもアピールしています。

2021年3月、ドイツのワイン文化は無形文化財として国内登録され、これまで以上に注目を集めています。

次回は結婚会場やイベント会場として若者の支持する人気のワイナリーを紹介します。

在独ジャーナリスト

ビジネス、社会・医療・教育・書籍業界・文化や旅をテーマに欧州の情報を発信中。TV 番組制作や独市場調査のリサーチ・コーディネート、展覧会や都市計画視察の企画及び通訳を手がける。ドイツ文化事典(丸善出版)国際ジャーナリスト連盟会員

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