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壁だけじゃない ベルリンの魅力 グルメフェスティバル「イート!ベルリン」 いま注目したいスターシェフ

シュピッツナーゲル典子在独ジャーナリスト
イベント会場にて・ニコライ・ヴィードマーさん (筆者撮影)

 「こんなに早く1つ星を獲得できるなんて、夢にも思っていませんでした」 

  

 「ミシェランガイドドイツ2018年」で1つ星を獲得したニコライ・ヴィードマーさん(25歳)の言葉だ。ドイツ国内でミシェラン星を有する最年少のスターシェフとして、今最も注目されている料理界のホープである。

 ニコライさんのレストランは、スイス国境近くの街グレンツァッハ・ヴィレン(バーデン・ヴュルテンベルク州・以下BW州)のホテル・エッカルト(Hotel Eckert) 内にある。

 実は、彼のご両親の経営するこのホテルは筆者の身内の住むスイス・バーゼルに近いため、いつか足を運びたいと思っていた。

 そんななか、ベルリンのグルメフェスティバル「イート!ベルリン(eat!berlin)」で、ニコライさんの料理を味わうことができると聞き、さっそく現地へ向かった。

イベント会場入り口のプラカードに胸躍る・以下、画像はすべて筆者撮影
イベント会場入り口のプラカードに胸躍る・以下、画像はすべて筆者撮影

 今年7回目を迎えたこのイベントは、国内外屈指のスターシェフやワイン醸造家などを招き、ベルリン中心地及び周辺で繰り広げられるグルメフェスティバル。

 会場は市内レストランをはじめ、劇場やスイミングプール、映画館や博物館など。普段とは一味違ったユニークな空間で料理と酒が楽しめるとあって、予約開始からすぐ満席になるイベントもあるそうだ。

 参加費は、5ユーロ(料理や飲み物は別料金)からコースメニュー料理・ワイン込みで約130ユーロから400ユーロ以上と様々。50のイベントは定員制で入場券を入手すれば、だれでも何回でも参加可能だ。

 開催期間(2月23日~3月4日)はちょうど今年のベルリナーレ国際映画祭(2月15日~2月25日)終盤と重なったこともあり、ベルリンの壁や観光地を訪れる見学客のみならず、多くのゲストが厳寒の市内を歩き回っていた。

  なお、イート!ベルリンは、「トラベラーズワールド・ライフスタイル雑誌」で世界のグルメフェスティバル・トップ10(2016年)に選定された。

25歳のミシェラン1つ星シェフ

会食前、ニコライさんが壇上に登場すると拍手がわき起こった
会食前、ニコライさんが壇上に登場すると拍手がわき起こった

 ニコライさんの経歴は後ほど紹介するとして、まずはイベント前のあわただしい時間を割いていただきうかがったお話をお伝えしたい。

 料理人としてミシェランガイドの星を得ることは、大きな夢でした。まさかこんなに早く1つ星を獲得できるとは思っていなかったので、ニュースを聞いたときは驚きました。メディアの反響は大きく、その後、前にもまして多忙な日々を過ごしています。

 ですが、料理をつくる姿勢は以前と変わりません。1つ星を獲得できて光栄ですが、これからレベルをキープ、いえ今まで以上にもっていくことのほうがもっと大変。これが現在の正直な気持ちであり、課題です。

---料理のインスピレーションやアイデアはどこで得られるのでしょうか?

 アイデアや創造性が生まれるのは、整理整頓が行き届いた空間や場所に自分を置くことです。デザインや家具が見事にマッチした空間にたたずんでいると、自然とアイデアが生まれてきます。特にここという場所やものはありません。普段の生活で素敵なオブジェを目にしたり、文化に浸っていると創作意欲が増します。

---ずばり、ミシェラン星を獲得するのに必要なこととは?  

 修練の一言に尽きます。

---お話を聞いていると余暇時間など取れそうもない様子ですが、趣味は?  

 趣味はピアノを弾くこと、ドラム演奏。ジャズバンドにも参加してましたが、今は時間がなかなかとれません。

---日本訪問は?もしこれから初めて行くとしたらどんなことに興味がありますか?

 日本はまだ行ったことありません。いつか訪問したいです。

 もちろん和食に大変惹かれますし、文化や生活なども知りたいです。

 と、目を輝かせるニコライさんだ。

 今回ニコライさんが料理を披露した会場は、ポツダム広場近くのティアガーテン通り沿いに位置するベルリン在BW州代表事務所。代表事務所といっても、両隣はオーストリア大使館、インド大使館。両大使館に引けをとらない素晴らしい建物だ。

ここは昨年11月、連立協議(キリスト教民主・社会同盟、自由民主党、緑の党による)ジャマイカ会談が行われた会場として世界の耳目を集めた
ここは昨年11月、連立協議(キリスト教民主・社会同盟、自由民主党、緑の党による)ジャマイカ会談が行われた会場として世界の耳目を集めた

 イベント当夜の2月27日、参加した客は70名。ニコライさんのモダンなフィージョン料理(多国籍料理)は、BW州ワイナリー「ケラー」と「キステンマッハー&ヘンゲラー」のワインとゼクト(発泡ワイン)と共に供された。

 開会の辞はベルリン在BW州代表フォルカー・ラッツマン氏(緑の党・57歳)で始まった。

Volker Ratzmann氏
Volker Ratzmann氏

今回イート!ベルリンでこの会場を提供するのは初めてです。昨年11月、BW州から国内最年少のニコライ・ヴィードマー氏がミシェラン1つ星を獲得し、大変誇りに思っている。今夜ここで彼の料理を披露してもらいます

以下、イベント特別メニューの5コースをご覧いただきたい。

手を付けるのが惜しいくらい色彩豊かな一皿 白身魚ヒラマサ  セビーチェ 赤カブ キンカン 体感したことのない味が口の中に広がる
手を付けるのが惜しいくらい色彩豊かな一皿 白身魚ヒラマサ  セビーチェ 赤カブ キンカン 体感したことのない味が口の中に広がる

  

燻製卵黄と玉ねぎが鴨のブイヨンとマッチした優しい味
燻製卵黄と玉ねぎが鴨のブイヨンとマッチした優しい味
味噌味の西洋タラ トッピングにはポテトの泡状ソース、生姜味。白身魚の味噌漬けは日本ではお馴染みの味だが、意外な組み合わせに皆びっくり
味噌味の西洋タラ トッピングにはポテトの泡状ソース、生姜味。白身魚の味噌漬けは日本ではお馴染みの味だが、意外な組み合わせに皆びっくり
牛ヒレ肉の下に牛テール肉のミンチ 人参のムース、ひよこ豆のクロケッツ 隠し味にはアニス
牛ヒレ肉の下に牛テール肉のミンチ 人参のムース、ひよこ豆のクロケッツ 隠し味にはアニス

 

デザート・右からレモンタルト・アイスはバニラ、 ポン菓子 グラノーラ  カモミールとユニークな味覚
デザート・右からレモンタルト・アイスはバニラ、 ポン菓子 グラノーラ  カモミールとユニークな味覚

 

自分が満足する料理で客をハッピーにしたい

 ここでニコライさんの経歴を簡単にお伝えしたい。

 4月で26歳になるというニコライさんは、両親が経営するインツリンゲン(BW州・ホテル・エッカルト近郊)のレストラン「クローネ」の厨房に4歳の頃から出入りしていた。

 12歳頃から前菜やデザートを創作しはじめ、週末や・学校が休みになると両親の手伝いをした。学校よりも料理をつくっているほうが楽しかったという。なんと16歳で、大晦日の食事80人分をすべて手掛けたそうだ。

 その後、スイス・バーゼルのレストラン「シュトゥッキ(ミシェラン2つ星)」で修行を開始、シェフのタニヤ・グランディッツさんに師事。研修終了時、同期の中でトップの成績を収めた。ちなみにタニヤさんは今もニコライさんのメンターだという。

 2014年、ニコライさんの両親はスイス国境の街グレンツァッハ・ヴィレンのホテル・エッカルトを買い取った。このホテルは、結婚式や誕生日などを祝う場所として住民に人気があり、レストランでは伝統的な郷土料理を提供していた。

 ホテル全館を改修そして増築。修行から戻ったニコライさんは、シェフとして指揮することになった。

 父親に出した条件は、郷土料理ではなく自分の創作した料理を提供することだった。父親はこの考えに懸念を示し、少しづつメニューを変えていったらと助言した。だがニコライさんは自分の考えを曲げなかった。こうして22歳のシェフが誕生した。

 オープン当初、想像していた通り、郷土料理の味に馴れ親しんでいた常連客は遠ざかっていった。それにもめげずニコライさんは、自分が得てきたノウハウを発揮したいというモットーを掲げ、創作料理をつくり続けた。

 すると想像もつかなかった食材を組み合わせた料理に意表を突かれた客は、体感したことのない味覚のコンビネーションと料理法に興味を持ちはじめた。例えば牛ヒレ肉とみそ、サーモンのタルタルとスイカ、スモーク卵黄と鴨のブイヨンなどだ。

 「自分が満足する料理をつくれば、きっと客も満足してくれるはず」(ニコライさん)。次第に彼の料理は評判となり、常連客も徐々に戻ってきたという。

 厨房ではニコライさんを含め13名が毎日せわしく動き回っている。平均年齢は22歳という若さだ。料理は「若い、モダン、創造的」。一番わくわくするのは料理を通して客をびっくりさせること。客に楽しんでもらい、ハッピーな気持ちになってもらえれば、一番うれしいという。

 

 ドイツを中心とした料理と酒の最前線を味わえるこのイベント。時間があれば、是非ベルリン観光を兼ねて体感したい。

 今回のイベント会場近くのポツダム広場周辺には世界からの観光客に注目されるレストランが多くある。

 例えばグランドハイアットベルリン内にあるフォックスVOXは白砂糖を一切使わない料理を提供するレストランとして注目を集めている。白砂糖の代わりに、パームシュガー、アガベシロップ、はちみつなどを使用するのが売り。メニューはすしや刺身を中心とした和食メニューと肉や魚のメニューと2つありバリエーションに富む。

 小エビ入りロブスタースープ・ロブスターの濃い味とサイコロ切りのセロリのサクサク感がたまらない 
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初めて知ったタスマニア産のロングベッパー添えの牛フィレ肉
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白砂糖不使用の見た目鮮やかなシャーベット 左から緑のリンゴ、ストロベリー、ブルーベリー、ナシ
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画像は、ベルリン在BW州代表事務所、ニコライさん、フォックスの許可を得て撮影・公開しました。

在独ジャーナリスト

ビジネス、社会・医療・教育・書籍業界・文化や旅をテーマに欧州の情報を発信中。TV 番組制作や独市場調査のリサーチ・コーディネート、展覧会や都市計画視察の企画及び通訳を手がける。ドイツ文化事典(丸善出版)国際ジャーナリスト連盟会員

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