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ミサイル発射を連発した北朝鮮が「日本列島越え」高次元の挑発に踏み切ったわけ

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
(写真:ロイター/アフロ)

 北朝鮮は4日、日本列島を越える形での中距離弾道ミサイルとみられる飛翔体の発射を強行した。最近、北朝鮮が弾道ミサイル発射を繰り返す一方で、ウクライナ情勢や台湾問題に注意を傾ける米国の反応は鈍かった。そのため、北朝鮮は日本や米国の注意をひきつけるため挑発の水位を高める――という予測は専門家の間では語られていた。北朝鮮は今月10日に朝鮮労働党創建記念日を控えており、こうした武力示威は当面、続くとみられる。

◇米国の注意をひきつける

 北朝鮮は現在、新型コロナウイルス感染拡大に伴う国境封鎖や経済制裁、今年相次いだ自然災害で国内事情は厳しさを増している。だが、米国を含めた周辺国の北朝鮮に対する関心は低く、北朝鮮としては「現状が続く」ことへの警戒感があるようだ。短距離弾道ミサイルの発射を繰り返しても、米国の注意をひきつけることができず、今回、“北朝鮮を放っておけば大変なことになる”とアピールするため、日本列島越えという、より次元の高い武力示威を強行したと考えられる。

 北朝鮮としては、米国が動かなければ、厳しい現状を変えることができないと判断しているとみられる。状況打開のために今回の中距離弾道ミサイルに加え、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射や7回目の核実験という「高次元」の武力示威によって揺さぶりをかける可能性が高まっている。

◇武力示威に変化も

 北朝鮮は短距離弾道ミサイル技術を急速に高めている。

 第一に金正恩(キム・ジョンウン)総書記は国防発展5カ年計画を掲げ、そのなかで多様なミサイルの高度化を指示している。軍部はこれに沿って技術開発を進めているという事情がある。

 第二に、それを試射する際、政治的効果のあるタイミングを選んでいる。米韓両海軍による日本海での合同軍事演習(先月26~29日)▽米国のハリス副大統領訪韓(同29日)▽北朝鮮の潜艦への対応を想定した海上自衛隊と米韓両海軍による日本海での共同訓練(同30日)――などが集中していたことから、これらへの反発という点は明らかだ。

 加えて、自国の「存在感」を浮き上がらせ、ロシアのウクライナ侵攻や台湾問題などに集中している米国を圧迫することで、自国に有利な形で米国との駆け引きを進めたいという思惑もある。

 ただ最近、北朝鮮側に変化がみられるのが気がかりだ。

 過去には米韓合同軍事演習が実施され、米国の戦略資産が展開されている時期には、こうした武力示威を控え、訓練が終われば行動に移してきた。だが、最近はそれを気にすることなく、ミサイルを発射して「自国は米国の戦略資産に対応できる力を持っている」と誇示している印象がある。

 技術的にも高度化されているようだ。

 これまで北朝鮮は米国や韓国に対する反発の立場を可視化するため、明け方に発射する場合が多かった。それが最近は多様な時間帯に、さまざまな場所から発射することで「任意の時刻に、任意の場所から発射して対抗する」という技術力と意図を見せつけているようにも思える。

 さらに「奇襲」できる点も前面に押し出し、ミサイル試射に対応する日米韓の防衛当局を疲弊させているようにも見える。疲労が長期的に蓄積することで、3カ国の安全保障に穴が開く恐れがあることから、これを狙った戦略的な行動を取っているとも考えられる。

◇「いつでも核実験できる状態」

 北朝鮮は過去にも朝鮮労働党創建記念日(10月10日)の前にミサイル発射を繰り返してきた経緯がある。北朝鮮の挑発は当面、続くとみられる。

 最近の三重苦によって党創建記念日で誇示できる経済実績が乏しい。北朝鮮当局としては「こうした困難の責任はすべて外部にある」と強調する必要がある。外部の脅威に対抗するために軍事力を強化しているという理屈を前面に出すことで金総書記が掲げる軍事力強化の路線を正当化する必要に迫られている。

 こうした流れのなか、北朝鮮は7回目の核実験のための準備はすべて終えているとみられる。韓国の専門家の間には「連続核実験の準備をしている」という見方も出ている。7回目にとどまらず、8回、9回と連続して核実験を実施するのではないかという懸念だ。

 北朝鮮は、最大の支援国・中国の習近平国家主席「3期目」が確定する中国共産党大会(今月16日開幕)が控えているため、この時期は行動は控え、終了後に核実験などを強行する恐れがある。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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