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習近平主席の間近で新型コロナ陽性――最も敏感な時期の、最も敏感な健康問題

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
習主席との記念撮影に臨む何俊賢氏=黄色丸印(香港政府のHPより筆者キャプチャー)

 中国の習近平(Xi Jinping)国家主席が香港返還25周年を機に現地を訪問した際、新型コロナウイルスの陽性反応を示した人物と間近に接していたことが判明、敏感な問題として浮上している。習主席は厳しい行動制限を伴う「ゼロコロナ」政策の旗振り役であり、仮に新型コロナに感染していれば、政権は大きな打撃を受ける。加えて、現時点は中国共産党大会前の「北戴河会議」を控えた敏感な時期でもあり、当局が習主席の健康問題に神経を尖らせているのは間違いない。

◇厳格な防疫措置

 香港は今月1日、中国に返還されてから25年を迎え、記念の式典が開かれた。習主席はこれに出席するため、新型コロナのパンデミック発生以来、初めて本土を離れることになった。

 中国政府は新型コロナを完全に封じ込める「ゼロコロナ」政策を堅持している。一方、香港では連日、1000人を超える感染者が確認されていたため、香港当局は習主席の訪問を前に「習主席の感染」という事態を避けるため、徹底した対策を講じた。

 香港の有力英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポスト(SCMP)などによると、香港当局は、記念のイベントに参加する3000人近い来賓・スタッフを6月29日の段階で、会場近くの2つのホテルに強制的にチェックインさせた。滞在中は連日、PCR検査を義務づけ、公共交通機関を使わずに移動するよう要請した。

 習主席は6月30日に香港に入った。その日のうちに、香港政府の高官や地元の有力者らとの記念撮影に臨んだ。習主席を含む全員がマスク姿だった。習主席は感染対策のため、行事が終わると、隣接する中国広東省深圳に戻って宿泊し、7月1日朝に香港を再び訪問するという徹底ぶりを見せた。

 同日開かれた記念式典では「『一国二制度』の実践は香港で世界が認める成功を収めた」などと、自らの実績をアピールしていた。

◇健康への懸念

 問題は、その写真撮影の際に起きた。

 習主席の真後ろに立っていた香港立法会(議会)議員の何俊賢(Steven Ho Chun-yin)氏に、今月1日の検査で感染の疑いがあると判明した。何議員本人は同日の記念式典を欠席。翌2日の検査で感染が確定したという。

 何議員は自身のSNSで「6月30日のサンプルでは陰性だった。7月1日は、感染の危険性が極めて低いウイルスを含む『不確実なもの』と分類された。しかし公共の安全を守るため、7月1日の活動には参加しなかった」と書いている。

 また、記念撮影の際、何議員は習主席に「主席、ご苦労さまです」と伝えたといい、それに対して習主席は何議員を見てうなずいたという。何議員は「とても親しみやすい方だった」と振り返っている。

 何議員の感染は、習主席の健康への懸念を呼び起こした。

 香港では、親中派に影響力を持つ中国の全国人民代表大会(全人代=国会)香港代表の譚耀宗(Tam Yiu-chung)氏が6月30日に陽性反応を示し、すべての関連行事への出席を取り止めている。

 香港の保健当局者はSCMPの取材に、記念行事に関連した集団感染の可能性について「個々の症例についてコメントしない」と述べたという。

◇「北戴河」を控えた時期

 習主席の健康状態は中国で最も敏感な問題だ。習主席が北京に戻ってからPCR検査を受けたか、濃厚接触の隔離規則が適用されているのか――などに関する公式の情報発信はない。中国中央テレビ(CCTV)や人民日報などの官製メディアも沈黙している。

 中国共産党総書記を務める習主席は、今秋の党大会で異例の3期目続投に挑戦する。

 今年の初めごろには習主席の3期目突入は「既定路線」のように語られていたが、最近になってそれに対する批判と受け止められるような言動が可視化されるようになった。その中には「李克強(Li Keqiang)首相待望論」のような見解もある。

 中国では、毎年夏になると、北京の東約270キロにある河北省のリゾート「北戴河」に党の現役指導部やOBが集まり、党の政策や人事の骨格が話し合われるといわれる。

 中国では「ゼロコロナ」政策の経済活動への影響が深刻化している。その悪影響をいかに抑えながら、さらにゼロコロナを維持するかが問われている時期ともいえる。それだけに、仮に習主席本人が隔離の対象になれば、習近平指導体制は大きなダメージを受け、その結果が「北戴河会議」にも反映される可能性は排除できない。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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