Yahoo!ニュース

北朝鮮が核・ICBM「一時停止」撤回示唆……また一歩近づいた「ロケットマン」のころの空気

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
政治局会議開催について伝える労働新聞=筆者キャプチャー

 北朝鮮で19日、金正恩(キム・ジョンウン)総書記らが出席して朝鮮労働党政治局会議を開き、米国との間の「信頼構築措置」を全面的に見直すと表明したうえ、暫定的に中止してきた「すべての活動」再開を検討するよう担当部署に指示した。北朝鮮は2018年に核実験、大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射のモラトリアム(一時停止)を宣言しているが、今回、その撤回を示唆した可能性がある。

◇「米国が不当に言いがかり」

 北朝鮮は今月5~17日、計4回にわたって弾道ミサイルを発射した。これに対して米国は制裁を追加して国連にも追加制裁を要求するなど強硬に対応した。政治局会議ではまず、米国側の措置を「わが国の正当な主権行使に対する不当な言いがかり」と非難した。

 また、米国が米朝首脳会談(2018~19年)以後、合同軍事演習を数百回▽各種の戦略兵器実験▽先端軍事攻撃手段の韓国搬入▽核戦略兵器を朝鮮半島の周辺地域に投入――などと列挙したうえ「わが国の安全を重大に脅かした」と主張した。北朝鮮側はこれらを「米国が朝米(米朝)首脳会談以降、自分らが直接中止を公約した」ものと指摘している。その間に、約20回余りの独自制裁を科してきたとも強調した。

 さらにバイデン政権について「われわれの自衛権を骨抜きにするための策動を執拗に続けている」との認識を示しつつ、「米帝国主義という敵対的実体が存在する限り、対(北)朝鮮敵視政策は今後も続くということを再度、はっきりと実証している」と指摘した。

 そのうえで、米国に対抗するため国防政策課題を改めて手配すると表明し、「われわれが先決的に、主動的に講じた信頼構築措置を全面的に再考し、暫定的に中止していたすべての活動を再稼動させる問題を、迅速に検討するよう当該部門に指示を与えた」と明らかにした。

 政治局会議については朝鮮中央通信が20日報道した。

◇過去にも「モラトリアム」撤回を示唆

 北朝鮮は韓国・平昌冬季五輪(2018年2月)を契機に、南北や中朝関係の改善に乗り出し、米朝首脳会談の実現が迫っていた2018年4月、党中央委員会総会で金正恩氏は次のように宣言していた。

「核開発の全工程が科学的に順次すべて進められ、運搬打撃手段の開発事業も科学的に実施し、核の兵器化完結が検証された状況で、もはや、われわれには、いかなる核実験や中・長距離、ICBMの試射も必要なくなった。北部核実験場もその使命を終えた」

 これを受け、総会の決定書には「2018年4月21日から核実験とICBM試射を中止する」と盛り込まれた。

 その後、金正恩氏とトランプ米大統領(当時)との間で首脳会談が実現したものの、非核化をめぐり決裂し、実務交渉も暗礁に乗り上げた。2019年12月28~31日に開かれた党中央委員会総会で、金正恩氏は「われわれがこれ以上(米国との)公約に一方的に縛られる根拠はなくなった」と、核・ICBM実験停止を撤回する可能性を示唆した。

 北朝鮮は果たして「モラトリアム」を撤回し、核・ICBM実験を強行するのか。金正恩氏がこれまでに示している「国防科学発展および兵器システム開発5カ年計画」には、核兵器小型化や新型ICBM開発が含まれている。必要な技術を検証するためにも実験は不可欠といえる。一方で、核・ICBM実験に踏み切れば、朝鮮半島情勢の緊張を誘発し、北京冬季五輪を間近に控えた中国のメンツをつぶしてしまうことになる。米国との対決モードも決定的なものになるだろう。

 北朝鮮としては「モラトリアム撤回示唆」に対する米中両国の反応や、大統領選を控えた韓国の動向を見極めたうえで、実際の行動に移すか判断するとみられる。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

西岡省二の最近の記事