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北朝鮮が挑発レベルを引き下げた? 新方式「軍事デモンストレーション」

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
国防発展展覧会「自衛2021」の様子を伝える労働新聞=筆者キャプチャー

 北朝鮮で11日、朝鮮労働党創建76年(10日)に合わせた国防発展展覧会「自衛2021」が三大革命展示館で開幕した。過去5年間に開発した新型兵器が多数展示されており、金正恩(キム・ジョンウン)総書記は展覧会を「大規模軍事パレードに劣らない一大国力のデモンストレーション」と誇示した。北朝鮮の国防発展展覧会開催は初めてとみられる。

◇この5年間に開発の兵器を誇示

 会場には、北朝鮮がこの5年間に開発・生産した各種兵器、戦闘技術機材などが展示された。

 労働新聞には展覧会に関する大小47枚の写真が掲載され、そこには「火星16」型とみられる新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)▽2017年11月に試射したICBM「火星15」型▽同年5月に試射した地対地中長距離弾道ミサイル「火星12」型▽先月28日に試射した極超音速ミサイル「火星8」型――など、多数の兵器が写し出されている。

 11日の開幕式には金総書記のほか、党最高指導部メンバーである政治局常務委員らが出席してイベントが開催された。

 軍戦闘員の撃術模範出演があり、軍人たちが戦闘動作と戦闘方法を確認した。また、パラシュート兵が赤い党旗をはためかせて降下の技巧を披露した。さらに、上空では戦闘飛行士たちが超低空飛行や垂直急上昇の技巧、双機反転などを実施し、イベントを盛り上げた。

 今年は朝鮮労働党創建76周年。北朝鮮が重視する「整周年」(5年、10年単位)には当たらない年での新形式の大型行事開催について、韓国統一省は「異例」としている。

◇「われわれは強くなければならない」

 開幕式では、金総書記が国防に関する演説をした。最近、金総書記は施政演説(9月29日・最高人民会議)、綱領的な演説(今月10日・党創立76周年記念講演会)と、相次いで長尺スピーチに臨み、政治指針の徹底を図っている。冒頭で、金総書記は今回の国防発展展覧会を「大規模な軍事パレードに劣らない大きな意義を持つ一大国力デモンストレーション」と位置づけた。

 金総書記は、今回の演説の多くを韓国向けに割いている。

 米韓合同軍事演習▽韓国に導入される先端兵器▽韓国側が北朝鮮のミサイル試射を「武力挑発」「威嚇」などと呼んでいること――などを従来と同様、網羅的に批判。一方で、韓国側が「言いがかり」や「(北朝鮮の)主権行使への手出し」をしなければ、朝鮮半島の緊張も南北間の舌戦も起きないと強調し、韓国側に友好的な態度を求めた。さらには「南朝鮮(韓国)はわれわれの武力が相手にする対象ではない」と改めて訴えた。

 また、米国については「最近になって、わが国に敵対的でない、というシグナルを頻繁に発信しているが、敵対的ではないと信じられる行動的根拠は一つもない」との認識を示した。ただ、金総書記は米国を「最大の主敵」と呼んで挑発するようなことはなく、核兵器に関する言及など刺激的な表現もなく、いったんは米側の出方を見極める姿勢を示した。

 また、金総書記は演説の最後で、北朝鮮住民に対して「わが党と政府の一貫した強い意思に従って国防力を強化していくことを、最大の愛国とみなし、物心両面の支援を惜しんではならない」と協力を呼びかけた。終盤部分では「われわれの後世のためにも、われわれは強くなければならない。まず、強くなってみるべきだ」とも訴えかけた。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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