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中国・宇宙ステーションの巨大ロボットアーム――「本当の目的は何だ?」米国が抱く脅威

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
中国「天宮」のロボットアームのイメージ=「騰訊網」より筆者キャプチャー

 中国が建設中の独自の宇宙ステーション「天宮」(2022年完成計画)の中核施設「天和」に、強力なロボットアームが取り付けられたことに対し、米国で「軍事目的で使われるのではないか」と懸念する声が上がっている。

◇「長さ10m」米国が不信感

 香港の有力英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポスト(SCMP)によると、中核施設に取り付けられた長さ10mのロボットアームは、ステーションの外側を動き回ることができ、最大20tの質量の物体を動かすことができる。

 中国は既に、ロボットアームを備えた「スカベンジャー衛星」(運用を停止した衛星やロケットの残骸などの宇宙ごみを除去するための人工衛星)を数基打ち上げ、宇宙ごみを集めて大気中で燃え尽きるように誘導している。こうしたロボットアームに対し、米国が不信感を抱いているというのだ。

 米統合宇宙軍のディキンソン司令官は4月20日、米上院軍事委員会で次のような警戒感を語っている。

「中国は宇宙攻撃システムを通じ、宇宙の優位性を積極的に追求している。注目すべきは、ロボットアームを備えた中国の人工衛星『実践(Shijian)17号』である。将来、他の衛星と格闘するためのシステムに使われる可能性がある」

 この「実践17号」は2016年11月に打ち上げられた新型の技術試験衛星だ。通信業務を展開するとともに、宇宙空間での破片の観測や新型電源の推進といった多くの新規の実験を進めてきたという。

 だが米シンクタンクの戦略国際問題研究所は今年3月、実践17号が地球の静止軌道にある間に、この衛星に何度も「異常な操縦」が施され、他の衛星との位置関係を変化させていたと指摘した。

◇「本当の目的は何か」

 ロボットアームは米航空宇宙局(NASA)が長年使用しているものであり、特に新しい技術というわけではない。ただ、マカオ在住の軍事アナリストのアントニー・ウォン・ドン氏はSCMPの取材に対し、こう指摘する。

「米国の懸念は無理もない。重要なのは、中国がいつこの技術を使うのか、そして本当の目的は何なのか、ということだ」

 ディキンソン司令官は「戦争になれば、戦闘員は最初の数分間で、米国の全地球測位システム(GPS)のような、敵の通信手段の無効化を図るだろう」と述べている。

 司令官によると、中国は既に、妨害電波やサイバー空間での能力に加え、指向性エネルギー兵器(ターゲットに集中したエネルギーを放出して破壊する兵器)、軌道上での能力、地上配備の対衛星ミサイルなどを開発しているという。

 これに対し、香港の軍事評論家である宋忠平(Song Zhongping)氏は「ディキンソン司令官は、軍事予算の増加を正当化するため、中国の脅威を過大に話している」と批判。「中国が宇宙ごみの除去で画期的な成果を上げれば、国際的に歓迎されるだろう。現在においても未来においても、宇宙ごみ除去は重要な課題だ」と反論している。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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