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リアル「愛の不時着」――手触り感たっぷり中朝国境からの北朝鮮定点“望遠レンズ”観測

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
中国側からとらえた国境地帯の北朝鮮女性=「二帥兄遊記」より筆者キャプチャー

 北朝鮮に関する情報が先細りするなか、中国側から国境の鴨緑江越しに撮影された北朝鮮両江道恵山の動画が注目されている。望遠レンズでとらえた短編動画には、新型コロナウイルス感染防止による閉鎖状態でもしたたかに生きる北朝鮮住民の様子が映し出されている。

◇対岸の長白県から長尺レンズで撮影

 中国の動画配信プラットフォーム「西瓜視頻(スイカビデオ)」にアップされている「二帥兄遊記」は、中国人男性2人が中国吉林省長白朝鮮族自治県とみられる場所から鴨緑江越しに対岸の恵山を長尺のレンズで撮影している。動画はほぼ毎日アップされているようだ。

 サイトは昨年11月23日にアップされた動画からスタートしている。住民はおおむねマスク姿であり、2020年以後のスローガン「正面突破戦」が掲げられているため、大半がこの1年以内に撮影されたものと考えられる。具体的な撮影日時は確認できない。

 動画には興味深い映像が数多く盛り込まれている。

 昨年11月24日にアップされた動画の25秒あたりでは中国から北朝鮮に電気を供給しているとみられる送電線を確認することができる。昨年11月29日の動画では31秒付近から、中国との合資で設立されたという恵山の木材加工工場を映しながら、撮影者は「あらゆる壁には監視装置がある」と指摘している。1分10秒付近では集合住宅の多くで窓ガラスがなく、ビニールシートのようなもので代用している様子が映し出される。また1分50秒付近から「26号模範機械工場」が映され、朝鮮語で「正面突破戦での勝利者になろう」と記された赤いスローガンを確認できる。

 また昨年12月1日動画では恵山の新駅や電車、タクシーが、先月20日動画では乗り合いバス、列車、電動自転車などがとらえられている。「嶺峰市場」と呼ばれる場所を映した動画(昨年12月8日)では、マスクをしていても、「密」状態で大勢の住民が行き来している。町を歩く男女が腕を組んで歩いている様子(先月23日動画)もあれば、頭に大きな荷物を置いて器用に歩く女性の姿も(先月23日動画)。子供たちが何か素朴な遊びを楽しんでいる様子も映し出されている(先月27日動画)今月1日動画では女性が平屋の屋上で洗濯物を取り入れている様子が収められている。屋上に太陽光パネルが設置されている家屋が少なくないことがわかる。

◇カメラを向けると摘発される?

 中朝国境では、北朝鮮国営メディアのフィルターを通さずに住民の様子に触れることができるため、中国駐在の北朝鮮ウォッチャーには重要な定点観測地点となっている。

 長白県のほかにも、新義州(平安北道)対岸の丹東(遼寧省)、満浦(慈江道)対岸の集安(吉林省)、茂山(咸鏡北道)対岸の和竜(吉林省)、会寧(咸鏡北道)対岸の竜井(吉林省)、南陽(咸鏡北道)の図們(吉林省)が定点観測スポットとなっている。

中朝国境の主な都市(Googleマップをもとに筆者作成)
中朝国境の主な都市(Googleマップをもとに筆者作成)

 2000年代に筆者が取材でこの長白県を訪れた際、深夜になると、荷物を抱えた人たちが鴨緑江を頻繁に行き来していた。韓国映画・ドラマを収録したビデオCDを大量に持ち込む中国朝鮮族もいたが、中朝双方の国境警備隊が摘発に乗り出す気配はなかった。だが中朝関係が悪化した2010年代には双方で国境警備が厳格になり、外国メディアは国境地帯に近づくことさえできなくなった。

 ところが、この「二帥兄遊記」の撮影者は、中国当局の規制を受けているようには見えない。動画削除の指示を受けている様子もなさそうで、中国当局が黙認しているように思える。金正恩総書記が中国訪問を繰り返した2018年以後、中朝関係は大きく改善されたため、中国人であれば国境の映像を公開することで北朝鮮の神経を逆なでするような事態にならないと、中国側が判断しているのかもしれない。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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