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金正恩氏(そっくりさん)が香港で逮捕“おもちゃ銃”所持容疑/「本当は民主化デモ支持が理由」(本人談)

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
「共産国家への引き渡し反対」のプラカードを持つハワードX氏=Facebookより

 北朝鮮の金正恩総書記のモノマネで有名な香港生まれのオーストラリア人、ハワードX氏が、最近のFacebookでの投稿で「昨年10月、香港警察に逮捕された」ことを明らかにした。容疑は「BBガン(遊戯銃)所持」。本人は「香港でのデモに参加し、民主主義への支持を表明したことをとがめられた」と主張し、政治目的での摘発だと反発している。

◇「BBガン所持」容疑

 ハワードX氏の先月20日の書き込みによると、現地警察官約10人が昨年10月28日、「無免許で銃器を所持した疑いがある」として、ハワードX氏が香港での拠点にしている住宅を捜索した。

 警察側はハワードX氏に「昨年4月、あなた宛てにBBガンが郵送されていた」と明らかにしたうえ「香港ではBBガンは合法だ。しかし特定のBBガンは、法律で認められている以上のエネルギー出力があるので、本物の銃器と同じ分類に入る」との解釈を示したという。だが、ハワードX氏は「そんなものは受け取っていない」と否定、捜索でも発見されなかったそうだ。ハワードX氏はその後、警察署に連行された。

 ハワードX氏は「警察側は、私がどんな人物かを完全に把握している。中には『私のファンだ』という人もいた」と書いている。ハワードX氏が逮捕に関して異議を唱えたところ、警察側は「他部署の上層部から来た命令である。自分たちは自分たちの仕事をしているだけだ」と釈明した、という。

さまざまなアイテムを手に金正恩氏を“演じる”ハワードX氏=Facebookより
さまざまなアイテムを手に金正恩氏を“演じる”ハワードX氏=Facebookより

 やりとりの際、警察側はハワードX氏がこれまで見せてきたパフォーマンスに言及した。その中に、香港の民主化運動を支援するため▽『逃亡犯』条例改定に反対する2019年7月1日のデモ▽香港国家安全維持法施行に反対する昨年10月1日のデモ――に加わった事例も含まれていた。

 このためハワードX氏は「今回の逮捕は、本当はBBガンが理由ではない」と勘ぐったうえで、次のように記した。

「私が過去に中国共産党政権を風刺し、批判したための恣意的な逮捕だと思う。嫌がらせに加え、私の指紋を取るための手段であり、スマホも没収された」

 書き込みの時点では訴追されていなかったが、保釈金支払いのほか6週間ごとに警察に状況を報告することなどを求められたという。

◇ジャズバンドでドラム演奏も

 香港のインターネットメディアによると、ハワードX氏は警察から指摘を受けたBBガンについて「金正恩総書記のモノマネのプロとして、パフォーマンスやビデオ撮影に備えて、BBガンやミサイル、核爆弾の模造品を揃えている」と説明しているという。

 ハワードX氏は19年2月の米朝首脳会談が開かれる前、ベトナム・ハノイに飛び、トランプ米大統領(当時)のそっくりさんと見世物を披露しようとした。だが本物が到着する前日、「ビザが有効ではない」という理由でハワードX氏はベトナム当局から退去を命じられた。この時は記者団に「私が金正恩氏に似た顔で生まれてきたのが本当の理由、それが本当の罪だ」と語っていた。

 ハワードX氏は韓国・平昌五輪(18年)の会場に姿を現した際、北朝鮮関係者とみられる人物から足蹴りを受け、打撲したこともある。19年6月には大阪での20カ国・地域首脳会議(G20サミット)に合わせて来日し、大阪城公園でトランプ氏のそっくりさんと握手を交わして「サミットの成功を願う」と語るパフォーマンスを見せた。

トランプ氏のそっくりさんのバックでドラムを叩くハワードX氏=Facebookより
トランプ氏のそっくりさんのバックでドラムを叩くハワードX氏=Facebookより

 Facebook上には、トランプ氏のそっくりさんらと組んだジャズバンドで、ハワードX氏がドラムを叩くシーンを収めた動画もアップされている。19年7月の動画では、ジャズ・フュージョン界を代表するサックス奏者グローヴァー・ワシントン・ジュニア(1943~99)の代表作「Just the Two of Us」(邦題「クリスタルの恋人たち」)の替え歌が披露され、トランプ氏のそっくりさんが「Just the two of us, my Roket Man(ふたりきりで。私のロケットマン)」などと歌っている。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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