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金正恩氏に新たなポスト、実妹・金与正氏“降格?”――周囲の予想に反して「逆張り」した北朝鮮の意図とは

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
党大会の決定事項を読み上げる朝鮮中央テレビアナウンサー=同テレビよりキャプチャー

 北朝鮮ウォッチャーの大方の見方に反して、朝鮮労働党大会は予想外の展開を見せた。党大会の議題に「金正恩氏を党の最高首位に推戴」となかったため、筆者は金正恩氏の職責に変更はないと踏んでいたが、これは大きく外され、金正恩氏は党委員長から「党総書記」に就任してしまった。一方、金正恩氏に次ぐナンバー2のポストに昇格すると考えられていた実妹・金与正氏は、こうしたポストにつくどころか、党での地位を一つ下げられてしまった。この北朝鮮の「逆張り」をどう読めばよいか。

◇党総書記ポスト

 金正恩氏は2011年12月末に最高指導者になって以来、12年4月に「党第1書記」、16年5月に「党委員長」と肩書を変え、今回ようやく祖父・金日成氏や父・金正日氏が使ってきた「党総書記」のポストについた形だ。

 党総書記というポストは、中国共産党など社会主義国にみられる「党を率いる指導者」を指し、北朝鮮でも1966年10月の党代表者会で設置された。当時、党中央委員会委員長を「党総書記」、副委員長を「党書記」にそれぞれ改める形が取られていた。最高指導者だった金日成氏が「唯一の指導者」であることを示すため、委員会メンバーの1人である「委員長」ではなく、「総書記」という名称を用いたとされる。金日成氏もその息子の金正日氏もこのポストにつき、最後まで務めた。

 今回、金正恩氏がこのポストについたのは、祖父や父のレベルまでのぼりつめて、「党の権力をすべて握る最高指導者になった」という自信を感じ取れる。また、自身を中心とした唯一指導体系をさらに強化するという意図もうかがえる。ただ、総書記になったからといって、金正恩氏の北朝鮮での立場に変化があるわけではない。あくまでも自身の正統性を強くアピールする考えのように思える。

 また、北朝鮮では今月下旬に最高人民会議(国会)が開かれる予定で、この党総書記に就任した経緯を踏まえれば、同会議で金正恩氏は現在の「国務委員長」(国を代表するポスト)から、金日成氏が務めた「国家主席」のポストにつく事態も想定できる。

◇金与正氏は降格?/やはり大きく伸びた「もうひとりの最側近」

 党大会前、党指導部、さらには最高指導部のメンバーになると予想されていた金与正氏は、今回は逆に、政治局員候補から中央委員に落ちるという意外な結果となった。

 ただ、金与正氏は金正恩氏の実妹であり、党の肩書がどうであれ、金正恩氏の最側近である点に変わりはない。「党大会で決まった肩書に大きな意味があるようには思えない。“降格”などといった性急な判断は現時点ではすべきではない」というのが、韓国の専門家の共通した見解でもある。

 今後も引き続き、金正恩氏の委任を受けて対米政策や南北関係に関わることが予想され、後述の趙甬元氏のように、必要に応じて急速に公式の地位を高められる可能性も排除できない。

 また最高人民会議で対米や南北の担当を意味するポストが新設された場合、金与正氏がそこに関わる可能性もある。

 このほか、今回の党大会で予想通り、大きく昇進したのが趙甬元氏だ。金与正氏とともに金正恩氏の最側近として知られ、金正恩氏の現地指導の際、隣にぴったり寄り添っている様子が頻繁に確認されている。趙甬元氏は今回、党最高指導部メンバーである党政治局常務委員に登用された。

 金正恩体制において高速度で昇進し、現在は党を取り仕切る組織指導部の第1副部長を務める。ちなみに党組織指導部長には、前任首相の金才竜氏が就任していたことが今回の党大会で確認された。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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