制裁、コロナ、自然災害でも最新兵器を量産できる――恐るべき北朝鮮経済のカラクリとは

軍事パレードの様子を伝える朝鮮労働党機関紙、労働新聞=筆者キャプチャー

 北朝鮮は朝鮮労働党創建75周年(今月10日)の大規模軍事パレードで、大陸間弾道ミサイル(ICBM)や潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)など、新型兵器を多数公開した。国連制裁や新型コロナウイルス感染防止のための国境閉鎖、水害・台風被害という「3重苦」「4重苦」のなかでも軍事力強化を続けることができる背後には、北朝鮮独特の「4重」の経済構造がある。

◇3重苦の中でのミサイル開発

 北朝鮮は昨年2月の米朝首脳会談決裂後、ミサイル試射を再開し、昨年5月から今年3月にかけ、北朝鮮版イスカンデルやSLBMを含む計34発以上のミサイルを試射している。

 韓国の保守系ネットメディア「Dailian」(19日)によると、ドイツの先端技術分析会社のミサイル専門家は、北朝鮮が試射したミサイルの製作費用が、開発経費を除き1基当たり100万~150万ドル(1億~1.5億円程度)と推定している。したがって34基なら3400万~5100万ドル(35億8496万~53億7744万円程度)を費やした計算になる。

 他方、金正恩朝鮮労働党委員長は昨年12月の党中央委員会総会で「国防科学技術の先進国だけが保有する先端兵器システムを開発する」「この研究課題は完璧に遂行された」と述べた。この発言から約10カ月を経て、今回、新型ICBMを公開したことになる。この開発経費も莫大な金額になると考えられる。

 今回のパレードにより、北朝鮮は国際社会に向け「我々は厳しい経済難の中でも新型兵器を量産できる。我々の技術力を決して過小評価してはならない」というメッセージを送り付けた形だ。

◇「第2経済委員会」

 北朝鮮に関連してよく言及されるのは「兵器開発資金を、困窮する住民生活に回すべきだ」という指摘だ。ただ北朝鮮側関係者にこれを示しても、答えは「そもそも人民経済と、兵器のための経済が分かれているため、“回す”という発想がない」というのが大半だ。

 この話のカギとなるのが、兵器開発の資金を調達する組織「第2経済委員会」(2経済)の存在だ。

 北朝鮮は1960年代、ソ連(当時)や中国との確執から、自力で国防費を調達する方針に切り換え、経済建設と国防建設の並進政策を始めた。

 筆者はかつて、指導部に近い関係者から次のような説明を聞いたことがある。

「70年代終盤、表の計画経済から軍需経済を切り離し、軍需のために『2経済』を組織して、そこに大量の資金が流れるようにした」

「国家予算から2経済の数字が外されているので、毎年の最高人民会議(国会)で発表される国防費は『歳出の15%』にとどまっている。だが、実態は65%以上だ」

 2経済が集めた資金は、上部団体である党軍需工業部が管理する。その資金によって国防科学院が兵器を開発し、完成させたあとは人民武力省(国防省)が引き取る流れだという。ただ、こうした組織は縦割りとされ、党課長級幹部も「党軍需工業部副部長であっても技術者でないことが多く、ミサイルについては知らない。仕事は資金集めだけ。どの兵器にいくら使われるのかも知らない」と指摘する。

 筆者が知る限り、北京の北朝鮮大使館にも「2経済」から派遣された幹部がいて、北京を拠点にロシアや欧州との貿易を手掛けていた。

◇経済の4重構造

 軍需を支える2経済のほかにも「第3経済委員会」(3経済)と呼ばれる組織もあるようだ。

 金正恩氏の祖父・金日成国家主席の時代、「主席宮」(主席官邸)の資金獲得組織に「綾羅(ルンラ)888」という貿易会社があった。ところがこの「綾羅888」の名前が露出してしまって国際的イメージが悪くなったことから、金主席の息子である金正日総書記が「3経済」という名称で呼ぶようになったのが始まりといわれる。

 金正恩氏が最高指導者となって間もない2012年6月ごろにも「3経済」という言葉がよく使われていた。高級な農水産物や鉱物資源の輸出など、外貨獲得の有力な手段を管轄しているといわれた。「3経済」に関わる銀行は、計画経済関連の銀行の200倍以上の外貨を管理しているという情報もあった。

 北朝鮮では配給制度が事実上崩壊し、住民は生き抜くために密輸など非合法の経済活動に手を染めざるを得なくなった。これらが「地下経済」と呼ばれるものだ。内閣が担う計画経済、2経済、3経済と合わせ、経済は「4重」構造になっているといえる。

 計画経済が破綻する一方、地下経済の肥大化が進む。「何かを建設するにしても、計画経済には資金がない。クレーンや重機を持っているのは地下経済のほうだ。だから内閣は地下経済に依存せざるを得ない状況」(先述の関係者)だそうだ。

 もっとも、2経済と3経済の資金獲得組織が競合する場合もある。これを避けるため、最高指導者は特権事業に関して「ワク」(日本語の「枠」が語源という説)と呼ばれる許認可を割り当て、事業を整理しているようだ。

 2経済や3経済が多くの特権を持つため、内閣の資金源は限られている。歴代首相は「経済構造が分かれている以上、だれが総理になっても内閣の力では経済は立て直せない」と口を揃えている――北朝鮮関係者からよく聞かされるこの噂話も、意外に的を射ているのかもしれない。

◇特殊経済

 もっとも、制裁と新型コロナの影響で、対外貿易の90%を占める対中貿易が急減。韓国統一省によると、今年上半期の中朝貿易額は4億1100万ドル(433億円程度)で、前年同期比で67.2%も減少している。四つの経済に等しく影響を与えているのは間違いない。

 それにもかかわらず、北朝鮮は軍需産業に対する自信は維持している。この背後にあるのが「特殊機関による経済」=「特殊経済」だ。

 特殊機関とは、朝鮮人民軍の工作機関・偵察総局などを指し、その傘下の商社(特殊商社)による犯罪行為によって資金を得ている。中でも動きを活発化させているのがハッカー集団だ。

 米情報セキュリティ会社の試算によると、北朝鮮が2015~19年に盗み取った仮想通貨の規模は15億ドル(1570億円程度)に達するという。国連安保理の北朝鮮制裁委員会は昨年8月に発表した報告書で、北朝鮮はハッキングによって20億ドル(2093億円程度)規模の仮想通貨を盗み取ったという分析もある。(参考資料:新型コロナ対策のお金は大丈夫か?――北朝鮮サイバー攻撃、片隅にある不安)

 この「特殊経済」は2経済や3経済と重なる部分が少なくないと筆者はみている。