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市民らへの“口撃”数十回、治安機関も威嚇、呼び出し40回以上――中国“凄腕”戦狼外交官の追放求める声

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
中国の桂従友・駐スウェーデン大使=中国大使館のホームページより筆者キャプチャー

 中国と主要国の摩擦が強まるにつれ、その最前線に立つ中国の外交官の強硬ぶりが目立つ。なかでも駐スウェーデン大使の桂従友氏は、相手国の治安機関をも威嚇するという極端な “戦狼”ぶりを見せており、スウェーデン側で追放を求める声も上がる。

▽「友人には上質なワイン、敵には銃」

 桂従友大使の強硬姿勢がスウェーデンで特に問題視されたのが昨年11月。言論の自由の擁護を掲げる団体「スウェーデン・ペンクラブ」が、公権力から脅迫や迫害を受けている作家や編集者に与える「トゥホルスキー賞」を、桂民海氏に贈ると発表したことが発端になっている。桂民海氏はスウェーデン国籍を有する一方、中国批判の本を売ってきた香港「銅鑼湾書店」の親会社の株主で、中国側の警戒人物にあたる。

 外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」(昨年12月30日付)や米紙ワシントン・ポスト(今年1月22日付)によると、桂民海氏への授賞発表の直後、桂従友大使は地元の公共ラジオの番組でこう語った。「我々は友人を上質なワインでもてなす。だが、敵に対しては銃がある」

 さらに桂大使は「1000万人の小さな国であるスウェーデンが中国による(何らかの)“結果”に向き合うことになる」と警告した。

「まず、中国人14億人のスウェーデンに対するイメージが損なわれる。第2に、通常の交流と協力が妨げられ、深刻なものになるだろう」

 そのうえで「あなたがたは十分に賢いので、私がいう“結果”が何を意味するかをわかっているはずだ」と威嚇し、スウェーデン政府関係者が授賞式に出席した場合の貿易規制などの報復措置をちらつかせた。

 中国大使館はその数日後にもウェブ上で「授与は茶番だ」として賞の取り下げを要求するとともに、スウェーデン政府もターゲットに「閣僚が出席すれば、中国は確実に対策を講じるだろう」と警告した。

 事態を重く見たロベーン首相は式典当日、「(この種の脅威に)絶対に屈しない」と表明。スウェーデン外務省は中国大使館に「スウェーデンは表現の自由を重視している」というメッセージを伝えた。一方、中国大使館も同じ日、ウェブサイト上で声明を発表し、式典を「重大な過ち」とし、中国・スウェーデン間の交流・協力に深刻な困難をもたらすと警告した。

 ただ、ディプロマットによると、その後の2週間で複数のスウェーデン映画が中国で上映禁止にされたことを除いて、大きな騒動には発展しなかったようだ。

◇「45kgボクサーが86kgボクサーに挑戦するようなもの」

 桂従友氏は1965年5月、安徽省生まれ。共産党中央政策研究室や駐ロシア大使館、長年の外務省欧亜局勤務を経て、2017年8月に駐スウェーデン大使に就任した。

 だが、ディプロマットによると、桂氏は大使就任以後、スウェーデンの市民、報道機関、あげくの果てには治安機関にも攻撃・威嚇を加え、その回数は合わせて数十回にも及ぶという。地元の公共テレビは昨年11月中旬の段階で、桂大使がスウェーデン外務省から40回以上の呼び出しを受けたと報じている。

 中でも、授賞式を巡る発言は駐在国の閣僚に対する威嚇であり、スウェーデン国内では「レッドラインを越えた」(ディプロマット)との見方が支配的になった。スウェーデン議会の全政党が拒否反応を示し、うち3党は桂大使を「ペルソナ・ノン・グラータ」(好ましくない人物)として追放するよう求めた。

 同じ時期、地方自治体も同調して行動を起こし、主要都市リンシェピング市は中国・広州市からの代表団訪問を拒否し、広州市との姉妹都市関係の取り消しを検討した。イエーテボリ市でも上海との姉妹都市協定を解消すべきだとの声が高まった。ベンクトフォッシュ市は「表現の自由のために立ち上がる」として、予定されていた桂大使の同市訪問をキャンセルした。

 対する中国側も、首都ストックホルムで昨年12月10日に開催予定だった中国・スウェーデンの経済産業技術協力合同委員会の会合を中止にした。両国間での巨額の貿易・投資を目的とした中国の二つのビジネス代表団もスウェーデン訪問を取り消した。

 さらに、昨年のクリスマス休暇中、中国国営報道機関でスウェーデンに関する否定的な報道が増加した。スウェーデンで組織犯罪が関与した拳銃や手りゅう弾による事件が相次いでいるとして、ストックホルムの中国大使館が渡航警報を出したという。中には、スウェーデン当局が犯罪の統計を操作しているとする主張も記し、圧力をかけた。

 スウェーデン検察がアンナリンシュテット元中国大使を起訴したのは、この最中だった。(参考資料:「中国批判をやめよ」と若い女性に迫った欧州の外交官――その“親中的行動”は罪に問われたのか)

 米紙ワシントン・ポスト(今年1月22日報道)によると、桂大使は1月17日のスウェーデン国営放送SVTとのインタビューで、自国政府を批判するメディアを酷評した。桂大使は、スウェーデンのメディアと中国政府の関係を「100ポンド(45kg)のボクサーが190ポンド(86kg)のボクサーに挑戦するようなもの」と例え、「(ヘビー級は)軽量ボクサーを保護する善意から“離れよ”とアドバイスした。だが彼は聞き入れず、ヘビー級ボクサーのもとに割って入った」と比喩した。そのうえで「あなたは、ヘビー級ボクサーがどんな選択肢を取ることを期待するか?」と語り、中国側によるスウェーデンメディアに強硬措置を取る可能性を示唆した。

 翌日、リンデ外相は桂大使のこの発言を「容認できない脅し」と批判。スウェーデン外務省は1月21日にも桂大使を呼び出して、懸念を伝えている。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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