Yahoo!ニュース

次第にあぶり出される武漢の初動のまずさ――新型コロナ「ヒト・ヒト感染」昨年11月から?

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
武漢華南海鮮卸売市場に掲げられた野生動物の価格表(多維新聞のHPより)

 新型コロナウイルスの集団感染が発生した中国湖北省武漢で、感染が広がっていく初期の様子が次第に明らかになってきた。「ヒトからヒトへの感染」が昨年11月下旬~12月初旬に始まっていた可能性が出ると同時に、中国当局が「ヒト・ヒト感染確認」と発表(今年1月20日)する1カ月も前の段階で、武漢の医療現場にはかなりの数の関連患者が押し寄せていた実情も浮き彫りになった。

◇感染初期の状況

 米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が検証したところによると、問題となった「武漢華南海鮮卸売市場」(武漢市江漢区)で働くある人物が昨年12月10日、「気管支炎の症状」と診断され、その後容体が悪化した。12日にも卸売市場で働く49歳男性に症状が出て、家族3人にも感染したという。

 武漢中心病院では16日、卸売市場で働く65歳男性にCT検査を実施したところ、両肺に感染があることが判明。抗生物質や抗インフルエンザ薬を投与しても改善しなかった。27日にも同様の症状のある患者が来たことから、検体を精密検査に出した。

 28日には患者7人が原因不明の肺炎と判明。うち4人が卸売市場と関係があったことから、同病院が翌日、中国疾病対策予防センター(CCDC)の出先機関に連絡すると「武漢の他の地域からも同様の報告があった」と伝えられた。(WSJが引用した今年2月18日のCCDC発表によると、21日時点で同じ症状の患者は30人以上いた)

 そして30日、「重症急性呼吸器症候群(SARS)コロナウイルス」という検査結果が戻ってきた。この情報を知った同病院の眼科医、李文亮氏(2月7日死去)が中国版LINE「微信(ウィーチャット)」で医学生時代のクラスメート100人以上に「卸売市場でSARS患者確認」と通知した。

 CCDCの出先機関による調査結果は30日、CCDC本部に報告され、翌31日には世界保健機関(WHO)中国事務所に伝えられた――という経緯だ。

 武漢市当局の発表(2月26日)によると、最初に新型コロナウイルス感染が確認されたのは「陳」氏という人物とされ、12月8日に発症したものの全快したという。当局発表は「陳氏は卸売市場への訪問を否定している」と明らかにしている。

 これに関連して、中国科学院シーサンパンナ熱帯植物園、華南農業大学、中国脳科学研究所が共同で、4大陸12カ国の新型コロナウイルスのサンプル93個からゲノムデータを収集して解析した。それによると、新型コロナウイルスの進化状況から推算して▽昨年11月下旬~12月初旬の段階で既に「ヒト・ヒト感染」が始まっていた▽新型コロナウイルスは卸売市場の他の場所からやってきた▽市場で感染拡大して外に蔓延していった――と推測している。

◇武漢華南海鮮卸売市場

 米華字メディアの多維新聞は1月23日にウェブ上で武漢華南海鮮卸売市場の内部の様子を写真つきで報じている。そこでは、おびただしい種類の野生動物が販売されている。

 市場の床には、ハンターたちが持ち込んだままの野生動物の「商品」が無造作に置かれている。手足や首を曲げられて固まっているシカのような動物、硬直した多数のコウモリが一つのビニール袋に押し込まれている。生け捕りにされたタヌキ、ヤマアラシ、マーモット、水鳥などが檻に入れられて陳列されている。

「商品」の価格表が掲げられ、最も高価なのが生きたままの鹿6000元(約9万円)、ダチョウ4000元(約6万円)、孔雀とキツネがともに500元(約7600円)。最も安いのがムカデで5元(約76円)。

 ただ、衛生環境は劣悪なようだ。路地裏には動物の死体や内臓が廃棄されている。下水道は「長年にわたって掃除されていない」(多維新聞)という状況のようだ。

 中国社会では野生動物を食用・医療目的に利用する習慣が深く根付いている。中国の野生動物育成産業の就業人口は1400万人を超え、その生産額は5000億元(7・7兆円相当)を上回る巨大な利益を生む仕組みができあがっている。(参考資料:中国初、イヌ・ネコ「食べてはならぬ」条例――新型コロナ「野生動物規制」に便乗)

 新型コロナウイルスの発生源をめぐっては、米メディアが「武漢のウイルス研究所」「ウイルスがコウモリから所員に感染し、それが広がった」などと報じている。最初に発生した場所は武漢ではあるが、中国当局は発生源の特定は避けている。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

西岡省二の最近の記事