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新しい食育推進基本計画は本当に子どものための食育を考えているのか?

成田崇信管理栄養士、健康科学修士
(写真:アフロ)

食育基本法が平成17年に制定され、これに基づき国や自治体は15年にわたり食育活動を進めてきました。令和3年度からの5年間は第4次食育推進基本計画に基づいた食育行われていくことになります。

 これまで行われてきた食育推進活動でも、過剰な米飯推奨や食料自給率向上の優先など、本来は最優先であるはずの子どもの健康や食文化の多様性を軽視される傾向がありましたが、今回の基本計画には日本の食文化の歴史を考えると妥当性の乏しい記述や、極端な地場産食材活用推奨など、内容的に見過ごせないものがありました。

 今回の食育推進基本計画の何が問題であるのか、特に気になる部分について言及します。

■日本の伝統的な和食は一汁三菜なのか

 「和食の基本は一汁三菜である」、このフレーズを聞いたことのある人も多い思います。一汁三菜といえば定食屋さんでおなじみのごはんに汁物、魚や肉の主菜に野菜や海藻などを使ったおかずに漬物を組み合わせたメニューが浮かぶのではないでしょうか。

第4次食育推進基本計画でも次のように伝統的な和食について説明しています。

 (p5より)

「和食;日本人の伝統的な食文化」はユネスコの無形文化遺産に登録された。和食文化は、ごはんを主食とし、一汁三菜を基本としており、地域の風土を活かしたものであり、その保護・継承は、国民の食生活の文化的な豊かさを将来にわたって支える上で重要であるとともに、地域の活性化、食料自給率の向上および環境への負荷低減に寄与し、持続可能な食に貢献することが期待される。

 多くの人がこの文章から、ユネスコの無形文化遺産に登録された伝統的な一汁三菜の和食文化を保護・継承していきましょう・・・という意図を読み取るのではないでしょうか。

 ところが、ユネスコ無形文化遺産に登録された内容を確認してみると、登録内容は和食をめぐる文化であり、一汁三菜の文字はどこにも記載されておりません。食育基本計画という国の施策の要になる文書にミスリードを誘う文言が盛り込まれていることを意味します。

 ユネスコ無形文化遺産への登録は失われる危機に瀕している文化を保護することが本来の目的であり、日本で一般的になりつつある、一汁三菜の食事や海外でも注目されているような現代的な和食は対象外となります。

 実際にユネスコに登録された「和食文化」のポイントを要約すると次のようになります。

 和食は、食の生産、加工、調理や消費に関わる技能、知識、伝統に基づく社会習慣であり、自然の尊重という精神に関連している。和食の文化的、社会的特徴は正月行事が典型的で、日本人は新年の神々を迎えるためにもちつきをし、縁起物としての象徴的な意味を持つ旬の素材を用い、美しく盛りつけられた特別な料理を特別の器に盛って、家族やコミュニティが集い食される。

 ようするにユネスコに登録されたものは正月料理などの節句料理であり、おせちを考えれば一汁三菜という形式とは大きく離れた食文化だということです。

 そもそもの話ですが、日本人の庶民が夕食に定食型の食事をとることが一般的になったのは最近のことで、国民の栄養改善目的の啓発活動により1980年代ごろに定着してきたものです。日本人の庶民の食生活では昭和初期までは、毎回肉や魚がメインの主菜を食べられるわけでなく、大盛りの米や麦の主食を汁物やしょっぱい漬物でいただく、というのが日常でした。栄養バランスの良い日本食というのは、高度経済成長以降の和食文化に適度な西洋文化を取り入れた比較的新しい食文化であると私は考えます。

 また、食育の教材とされる学校給食でも一汁二菜の献立となっているところがいまだに多いことからも、一汁三菜が日本の食文化に定着しているとは言い難いように感じます。

 それらをふまれば、伝統的で多様性のある和食文化を一汁三菜という枠に押し込んでしまうのは違うのではないかと思います。

■地産地消は誰のため?

 もう一つ気になるのが学校給食での極端な地産地消の推進です。第4次食育推進基本計画には次のように書かれています。

 p10~11より

学校給食に地場産物を使用し、食に関する指導の「生きた教材」として活用することは、地域の自然、文化、産業等に関する理解を深めるとともに、生産者の努力や食に関する感謝の念を育む上で重要である。

 <略>

また、学校給食において都道府県単位での地場産物を使用する割合について、現場の努力を適切に反映するとともに、地域への貢献等の観点から、算出方法も食材数ベースから金額ベースに見直し、その割合が現状値(令和元年度)よりも維持・向上した都道府県の割合を90%以上とすることを目指す。

 一見よさそうな事が書いてあるように見えますが、学校給食の現状や給食のシステムを考えるとかなり無理のある要求になっていると考えられます。

 野菜を例に考えてみましょう。日本には四季があり、東西南北に長い日本列島では食材の旬は地域によって異なり、野菜の収穫できる時期も南と北では大きくことなります。冬の厳しい東北地方では地元産の野菜の収穫量は少なくなり、品質は悪く値段も高くなる傾向があります。より良い野菜を安く手に入れるためには他の地域や季節の違うよその国で収穫されたものを利用することが考えられます。

 給食のシステムは食材料費については実費を保護者から徴収することとなっており、そのため値段設定も無理なく払えるようにするため低く定められることが通常です。地産地消の目標を更に高くすることは、食材料費を圧迫させ、栄養価も満たすことも難しくさせてしまうかもしれません。以前話題になった仙台市の栄養価を満たせなかった給食のニュースを思いだします。

 本当に子どものためを思っての給食や食育なのかと、食材料の選択肢を狭めてしまうような今回の食育基本計画の方針に疑問をいだいてしまいます。

 地産地消や食育は誰のためのものか、政治に関わる人には基本に戻って考えて欲しいと思います。

管理栄養士、健康科学修士

管理栄養士、健康科学修士。病院、短期大学などを経て、現在は社会福祉法人に勤務。ペンネーム・道良寧子(みちよしねこ)名義で、主にインターネット上で「食と健康」に関する啓もう活動を行っている。猫派。著書:新装版管理栄養士パパの親子の食育BOOK (内外出版社)3月15日発売、共著:謎解き超科学(彩図社)、監修:すごいぞやさいーズ(オレンジページ)

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